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RPG~Real Playing Game~  作者: KAITO
第一章「こんにちは異世界」
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第二十九節


 グリーンヴァイパー(と思われる魔物)を倒した場所から移動する。

 この場に居れば血の匂いに惹かれた魔物が勝手に集まってくるかもしれないが、対応できない数の魔物が出てきたら困るしな。


 その後、隠れて、魔術で撃って、移動する、というパターンを繰り返し、グリーンヴァイパー一体にコボルト三体、ハードボア二体を狩って戦利品を回収し、帰る途中でゴブリン二体にビッグラビット三体に襲われた(返り討ちにしたが)。

 経験点で「百四点」の稼ぎだ。


 そこそこ魔力を使ったが、一日に約百点も経験点を稼げた。

 カイザと二人で狩りに出た時の合計獲得経験点が十二点だったことを考えれば、かなりのハイペースだと言える。


 背にハードボアの皮が入った袋を担いで街に帰り着く。

 その量は、カイザと二人で狩りに出た時とほとんど変わらない。

 俺が剥いだから皮には余計な脂肪や肉が付いてしまっているが、二人で分けなくてもいい分稼ぎは上々だろう。


 結果だけ見れば、一人で狩りに出る方が効率は良い。

 経験点も、金も、多く稼げる。

 だが、それはリスクあってこそだ。

 今後、一人での狩りを減らすべきかどうか。


 そんなことを考えながら門の衛兵さんに【固有札】を見せ、街の中に入ろうとした、のだが。


「あなたがクーヴィルさんですか。ダイン副隊長がお呼びです。すみませんがご同行ください」


 と、かなり真剣な顔で呼び止められた。

 なんだ?

 何かあったのか?


 犯罪行為なんかをした覚えはないんだが…

 特に逆らう気も必要もないと思ったので「分かりました」と答えると、衛兵さんは切羽詰まっているような印象すら受けるほどの気迫で、他の人へ先に走って伝えるように頼んでいる。

 本当にどうしたんだ?


 そこからは、衛兵さん二人がこの街で最初に入った衛兵詰所に案内してくれた。

 だが、その様子は案内というよりは逃げないように監視しているというものである。

 二人の顔は緊張にこわばっているというか、重要な任務を任されたような真剣な顔をしているのだ。

 しかも、一人が前を歩き、もう一人は俺の後ろに付いている。

 案内なら、一人でいいはずだろう。

 仮に護衛か何かだとしたら、衛兵さんたちは周囲に気を配っているだろう。が、後ろの衛兵さんの視線は俺に集中しているようだ。

 背中にばしばし視線を感じる。

 逃がさない、と言われている気分だ。

 これも【探知】の効果だろか。微妙に嬉しくない。

 しかも二人ともフルプレート一歩手前みたいな金属の鎧を着ていて、手には槍を持っている上、腰には短剣が差さっているのが見えているのだ。

 正直威圧感が凄い。


 そんな様子だから、周りの人の視線も痛い。

 傍から見れば連行されている犯罪者扱い一歩手前に見えるのだろう。

 俺の腰には剣も下がっているから、分かる人には俺が犯罪者じゃないと分かるだろうが。武器持たせたまま歩かせるとかあり得ないだろうしな。

 これで武器や防具を没収された上に手枷や鎖、もしくは腕を掴まれたりしていたら完全に犯罪者だ。


 実際、俺の方を見てひそひそ話をしている人は多い。

 何事か、と思っているのならまだいいが、犯罪者だと誤解されていたら凄く面倒だ。


 かく言う俺も気が気じゃない。

 なんでこんなことになっているのか。

 額に冷や汗が浮かぶ。

 特に問題になるようなことは…計画はしたが誰にも話していないし、実行しようとしたら中断になったから問題にはなってないはずだ。

 他にはチート関連が思い浮かぶが、駆け出しにしては儲けているという点を除けば特に怪しいことはなかったはず。

 儲けている理由にしても「命知らずに戦利品をたくさん持ち帰っている」からで、狩っている魔物そのものは特に強い奴ではない。

 カイザが俺の戦闘内容を直接見てはいるが、それが理由なら昨日や一昨日の内に衛兵さんに呼ばれたはずだろう。


 となると、本当に理由が分からない。

 せめて原因が分かれば状況に説明が付くのだが、何も分からないせいで胃の辺りから込み上げてくる言いようのない不安を抑え付けられるのに。


 結局見世物のように連れ歩かれて、衛兵詰所に辿り着いた。

 道中、視線が針のように俺たちへ突き刺さっていたので、無駄に精神力を削られた。

 悪いことなんてしてないのに、なんだこの仕打ち。

 詰所の前には衛兵さんが二人、出入り口の左右に立っている。

 以前はそんなことなかったと思うのだが。


 先導していた人が出入り口に居る衛兵さんに声をかけると、ちゃんと話は通っていたらしくそのまま中に通された。

 石造りの建物の中を、おそらく以前と同じ部屋へ向かって歩く。

 途中で何人かの人とすれ違ったりしたが、俺を見る目は皆厳しいものだった。

 だが、その目は犯罪者を見るものというよりは、不安や猜疑心の色が強いように見えた。

 本当に何なんだろう。


 そうして、やはりと言うか以前と同じ部屋に通された。

 先導していた衛兵さんが部屋の扉をノックすると、中から部屋に入るよう返事がある。

 その声は副隊長さんではなかったように聞こえた。


 衛兵さんが扉を開き、中に入る。

 俺もその後を追う形で部屋の中に入った。


 部屋の中央にある机を挟んで奥の椅子には副隊長さんが座っている。

 その左右にそれぞれ衛兵さんが直立して控えている。

 俺の先に入った衛兵さんは、机の手前にある椅子の横で立っていた。


「来たか。座りなさい」


 副隊長さんは俺を見ると、椅子に座るよう促した。

 特に断る理由もない。

 俺が椅子に座ると、俺の後ろにいた衛兵さんが扉を閉め、俺を挿んで先導していた衛兵さんと逆の位置、俺と扉の間を遮るように立つ。

 部屋の空気は、重い。

 何か重要な案件の話し合いでもしていたかのようだ。

 副隊長さんの横にいる二人の衛兵さんは、なんとも微妙な視線を俺に向けている。

 言い表しにくいが、「こいつが?」みたいな感じだ。

 疑惑の目を隠す気もない。

 それに対して、副隊長さんは神妙な表情でこそいるが俺を見る目は疑惑と言うよりも疑問、といった感じだ。


 俺が周囲を見渡し終えるのを待っていたのか、副隊長さんに視線が固定したタイミングで話は始まった。


「まず、一つ聞きたいことがある」


 そう切り出した副隊長さんの声は重い。

 嘘や誤魔化しは許さない、と言外に言っているように聞こえた。


「記憶は戻ったか?」


 誤魔化すしかない質問が来た。

 俺はできるだけ深刻な表情を意識して「いいえ」と答えた。


 その答えを信じたのかどうかは分からないが、副隊長さんは「そうか」とだけ言って話を続ける。


「確認するが、君は気が付いたら草原に立っていた。周囲に人はいなかった。道が見えたのでそれに沿って進んだらこの街に辿り着いた。そう言ったな?」


 と、何故かこの街に来たときに説明したことを蒸し返された。

 一言一句同じという訳じゃないが、大筋は違わない。

 俺は副隊長さんの質問を首肯する。


「何かあったのですか?」


 俺はそう聞き返した。

 何故わざわざ同じ話を聞き直すのか分からない。

 が、この件に関して何かあった、と見るべきだろう。


 副隊長さんは神妙な面持ちのまま、じっと俺を見つめている。

 そのまま数秒、いや十秒くらいの静寂が部屋を支配した。


 その雰囲気はひたすら重い。

 何なんだ本当に。


 副隊長さんは大きく溜息を吐く。


「今日の朝、ラスティア王国から勇者の召喚に失敗した、と連絡があったのだ」


 ラスティア王国? と疑問に思う直後に出てきた言葉は、俺の意識を強く揺さぶった。

 勇者の召喚。

 失敗した。

 もしやそれが、俺が今異世界にいる原因か?


 多分、俺は今驚きが顔に出ているだろう。

 副隊長さんも、俺の反応を見て「手応えあり」と言わんばかりに頷いた。


「勇者召喚の儀式が失敗した原因は不明だ。聞いたところによれば、儀式は滞りなく進行し、召喚は行われたはずなのに勇者は儀式の場に現れなかったそうだ」


 副隊長さんの話は「勇者召喚の儀式」の補足に入った。

 ラスティア王国は、ストルオス王国から見て北東にある大国であること。

 勇者の召喚はラスティア王国の王族に伝わる秘儀であること。

 過去に何度か召喚は成されており、それらの際には勇者が儀式の場へ光と共に現れたということ。

 召喚された勇者は神の加護を持ち、その力を以てラスティア王国の危機を救ったこと。


 その内容は、勇者召喚の儀式と聞いて思い浮かぶような良くある内容だった。

 しかし、その話を今ここで、俺を呼び出してする意味が分からない。


 副隊長さんの説明に相槌を打ちながら聞いていたが、疑問が顔に出ていたのだろう。

 ついに、その理由を口にした。


「その儀式を行った日時が、君の現れた時間と一致するのだよ」


 その一言を聞いた瞬間、俺は心臓を掴まれたような気がした。

 ドクンと、鼓動が高鳴ったように思う。

 つまり、副隊長さんは。


「俺が、その、勇者なんじゃないか、と?」


 動揺に震える声で尋ねる。

 せっかく【勇者の加護】は地雷だと思って取らなかったのに、これじゃ意味がない!

 良く訳の分からない怒りと、追い立てられるような不安感が沸いてくる。


 が。


「いいや、それは無いだろう」


 と、副隊長さんは断言した。

 どういうこと?


 混乱からまともな言葉が出ず、「え?」とか「えっと」なんて口にしてしまう。

 副隊長さんはそのまま話を続けた。


「勇者にはその証が存在し、それは本人にも隠すことができない。これは過去にラスティア王国が召喚した勇者の話などから確認され、広く知られている事実だ」


 多分、【勇者の加護】のことだろう。

 解析したら「隠すことはできない」ってあったし。


「私を含め、我々は何度も君の【固有札】を確認したが、勇者の証はなかった」


 そうだ。俺は【勇者の加護】を持ってない。

 なら、勇者ではないはずだ。

 少なくとも「勇者の証」的には、そういうことになる。


「しかし、私には偶然に思えないのだよ」


 そう言った副隊長さんの視線が、俺に突き刺さった。


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