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RPG~Real Playing Game~  作者: KAITO
第一章「こんにちは異世界」
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第二十五節


 その日はそのまま、ろくに食事も摂らないまま泥のように眠った。


 朝の鐘の音が凄まじく鬱陶しかった。

 もう少し眠らせろ、と思おうが鐘は止まない。

 何回鳴るんだコレ。

 結局鐘の音に叩き起こされてしまった。


 昨日の夜はほとんどそのまま眠ってしまったからか、腹が減っているしかなり汗臭い。

 流石に汗臭いまま朝食は嫌なので、まずは身支度をすることにしよう。

 石の桶にお湯を出して体を拭き、洗濯して適当に干し、お湯を魔術で蒸発させて汚れを圧縮し焼却。

 体や服に直接汚れを集めて燃やす魔術を使っても良かったのかもしれないが、匂いまで取れるのかどうか分からなかったから今回は見送った。


 一階に下り、カウンターで夕食並みの量の朝食を摂る。

 酒場の様子を見る限り、俺とカイザが酷い目に遭っていようがいまいが関係なく、普段通りの様相だった。

 侮蔑の目で見られるようなこともなければ、同情の目で見られるようなこともなかった。

 まだカイザが話していないのか、それとも話した上でこの反応なのか。


 朝食を半分食べたくらいで、そこそこ席が空いているにも関わらずわざわざ俺の隣に座る人が現れる。

 カイザだ。


「腹減ったー。飯と酒頼む」


 せっせと給仕に走り回る少年を(つか)まえて注文している。

 注文の仕方から内容までかなり大雑把だが、はーいと返事をしていたからそれでいいんだろう。


 まだカイザは起きてきていなかったのか。

 なら、これから話すのか。俺がしたことの全てを。


 そう思っていたのだが。


「あんな凄い魔術は初めて見た! あのオークを一発で倒すなんて!」


 カイザは高いテンションのまま話す。

 それはどう聞いても「賞賛」の言葉だった。

 普通に魔術使えるのバラされているが…これくらいは仕方ないと思おう。


 彼はその後も俺の「活躍」を話し続けた。

 同時に何度もお礼を言われたため、俺はかえって居たたまれなくなってしまう。

 気付けば俺の方から話を切り出していた。


「私は…カイザさんのお仲間を助けられませんでした」


 どうしても彼の顔を見ながらは言えず、俯きながら口にする。


「流石にそれは欲張り過ぎじゃないですかね?」


 しかし、彼は明るい口調を崩さなかった。


「あいつらが死んだことに何も感じないわけじゃあないです」


 その一言にビクリとしてしまう。


「けど、あれはどうしようもなかった。俺たちがオークに挑もうとしたのが、俺たちに力がなかったのが悪かった。それだけだ」


 顔を上げて彼を見る。

 カイザは、諦念に染まった目でどこか遠くを見ていた。


「だが、自分は生き残れた。それはあんたのおかげだ」


 そして今度は俺を見てそう言った。


 これで、良かったのだろうか。

 彼の言葉を信じるなら、俺は許されたということになる。

 確かに彼の言うとおり、そもそもの原因は彼ら自身にあるのだろう。

 俺は不幸な現場にたまたま居合わせただけの存在だ。

 俺に、彼らを助ける義務も、義理もない。

 しかし、俺には彼らを助けることができる可能性があった。

 彼らを助ける選択肢もあった。

 俺は、それを選ぶのを躊躇(ためら)ったんだ。


 傲慢。

 そう言えるだろう。

 また、彼が言ったように欲張りだとも言える。

 頭では分かっていても、罪悪感は消えてくれない。

 時間をかけて折り合いをつけるしかないのだろうな。


「で、なんだが…」


 俺があれこれ考えていると、今度は彼の方から切り出してきた。


「良かったら、自分と組んでくれないか?」


「……え?」


「いや、自分の方が弱いのは分かってるが、見たとこ一人のようだし自分も仲間が欲しい。どうだろう、考えて貰えないか?」


 俺の作った(?)間をどう解釈したのか、若干(まく)し立てるように提案してきた。

 なんというか、予想してなかった急展開に頭が回ってない。

 今の俺は多分、ぽかんとした表情をしているだろう。


「自分と組んだから必ず一緒に居ることはないさ。一人でいたのは何か訳があるんだろ?」


 と続けてきた。


「待ってくれ、先にいくつか確認させて欲しい」


 ようやく頭が働いてきた。

 とりあえず、色々聞こう。


「まず、組んだから必ず一緒に居ることはないって言うのは?」


 俺の感覚だと、パーティは一緒に依頼を受けたり狩りをするものだ。


「狩りの間や依頼の間だけ組むってのは良くあるだろ?」


 と、逆に聞き返されてしまった。良くあるらしい。

 ネットゲームでいう臨時パーティみたいなものか?


「次に、組むことによる拘束力とか義務とかはあるんですか?」


「これと言ってないな。冒険者なんて元々勝手気ままなものだし。ああ、組んで仕事してる時なんかに裏切るようなことは禁止だな」


 当然だろう? とばかりに小首を傾げられた。

 それは冒険者組合の規則という訳ではないが、裏切りを行った者の容姿や名前は即座に知れ渡り、実質的に全冒険者を敵に回すことに等しい行為だ。


 そもそも普通に犯罪行為である。

 バレなきゃ犯罪じゃない、はこの世界でも通じる。というより、監視カメラやら科学捜査なんかが無い以上、この世界の方がバレることは少ないのかもしれない(もしかしたら魔術捜査とかあるのかもしれないが)。

 だが、その分犯罪に対する罰則は重い。

 スリや窃盗なんかは指や腕を切り落とされるそうだし、強盗とかだと奴隷にされて強制労働だそうだ。あ、罰金とか込みでな。

 もちろん場合にもよるのだろうけど、犯罪者に対してはかなり厳しいってことだ。


 思考が逸れた。

 ともかく、パーティを組むことで何かあるということは無いらしい。


「最後に、隠しておきたい手の内なんかは話すべきなのか?」


「場合によるだろうけど、大体は隠しておくものだと思うぞ」


 だそうだ。

 まあ、奥の手を隠したままパーティを見殺しにしたら流石にアウトだろうからな。


 本当は「奥の手」だけじゃなく色々隠すことになるだろうが、「隠す」ことそのものは一般的なようだ。

 一緒に行動することがあるなら、色々とバレる危険性は増えるだろう。

 が、今回でソロはかなりきついことも分かった。

 互いに都合が良い時だけパーティを組む形なら良いんじゃないかと思える。


 ソロでいる理由は、他人と行動を共にしていたらチートや異世界人であることがバレる可能性が上がるから。


 幸い(と言っていいのか分からないが)、俺のチートでバレる危険性があり、問題になりそうなのは【限界突破】と【解析】くらいだ。

 前者は【固有札】で見せたり「持っていると話す」技能数に気を付ければいいし、後者は不用意なことを言わなければなんとかなる。

 獲得経験点が増える【経験の深化】はその分普通は習得できない技能に経験点を使うからバレる心配はしなくても良さそうだし、【自動翻訳】はバレたら色々と問題になりそうだが【固有札】で見せる以外にバレようがないだろう。

 今後【特典】で経験点を取ったり武具を取ったりしても、状況を演出できれば何とかなると思う。


 四六時中一緒に居る訳ではないのなら、バレるようなことも無…少ないだろう。


 これが言い訳なのは理解しているつもりだ。

 だが、俺は今後も一人で冒険者を続けて、生き延びる自信がない。

 少し気を抜けば、死ぬ。

 人を襲う魔物が存在するこの世界で、冒険者になって魔物を狩って生きる。

 全てがどこかゲーム感覚で、浮かれていたのだろうと思う。

 チートや異世界人だとバレないように、変に目を付けられない程度に目立たず、この世界という現実で、生きる。

 その覚悟を持とう。


 あ、でも奴隷計画が駄目になるか?

 いや、この考えがそもそもゲーム感覚だ。

 ……とりあえず、しばらくは見送ろう、うん。


「じゃあ、たまに組んで冒険するということで」


 俺がそう答えると、カイザはパッと明るい笑顔を浮かべた。


「そうか! 良かった!」


 カイザはそう言うと、コップの残りを一気に飲み干し、ぷはぁと一息吐くと俺に向き直って手を差し出した。

 握手の習慣はこの世界にもあるみたいだな。


「これからよろしくお願いします、先輩」


「よろし…え?」


 手を伸ばし握手を交わそうとして、またもフリーズした。


「せ、先輩?」


 オウム返しに質問する。

 オウムってこっちにも居るのかな。

 いや、現実逃避は止めろ俺。


「え? どうしたんです?」


 カイザの方も固まっている俺を見て疑問符を浮かべている。

 いや、マンガじゃないんだから見えないけどね。

 だからそうじゃなくて。


「た、多分、俺の方が後輩だと…思うんですが」


 あ、つい俺って言った。

 いやいい。今は重要じゃない。


「あははははっ、何言ってるんですか!」


 カイザは盛大に笑い出した。

 どう考えても冗談だと思われている。

 これは言葉じゃ時間がかかる。


 そう思った俺は名案を思い付き、実行した。


「えっと、これを見て貰えれば分かるかと」


 そう言って【固有札】を差し出した。

 その「追記」項目には俺が一級の冒険者だと言うことが明記されている。


 カイザは笑い過ぎて零れた涙を拭き取りながら、俺の【固有札】を確認する。


 その様子は、絶句、を分かりやすく表していた。

 多分だが、彼は俺がそこそこ経験を持つ冒険者で、だからこそ一人で森の奥に居たのだし、オークを倒すだけの実力を持っているのだ、とでも思っていたのだろう。

 彼の視線は俺の顔と【固有札】とを行ったり来たりしている。【固有札】の情報は直接目で見るものじゃないから、視線を向ける意味はないんだがな。

 その目は「信じられない」と言っていた。


「え、でも、え、え?」


 今度は彼の方がフリーズしている。

 いや、どちらかと言えばバグってループしてる感じか。


「俺は少し前に冒険者として登録したばかりです」


 と、彼の再起動を促した。

 彼は少しの間固まった後、マスターを呼んで、わざわざ俺の言葉の裏取りまでして、ようやく信じることができたようだ。


「あー、えっと…あ、うん。じゃあ改めて、これからよろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 互いにそう言い合いながら俺たちは握手を交わす。

 こうして、俺はカイザとパーティを組むことにした。


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