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RPG~Real Playing Game~  作者: KAITO
第一章「こんにちは異世界」
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第二十節


 剣の大きさと重さ、材質などを吟味した結果、俺の手には一本の剣が握られている。

 刃渡りは足より少し短いくらいの長さで、柄は両手で握ることもできる程度のもの。

 重すぎず軽すぎず、片手でも両手でも扱える。

 フォルムは良くある両刃で反りのない西洋剣だ。


 狙いが定まったところで、剣を【解析】してみる。

 この店、品揃えは良いがその質は俺には分からないからな。


「品質:二級」「制限:4(3)」「命中補正:-1」「威力:10(14)」


 漠然と解析した結果がこれだよ。

 何となく分かるが、良くは分からない。

 仕方ないから、細かく【解析】するか。

 まずは品質。


 品質とは、対象の質のことである。


 …え、終わり?

 いや、そりゃ品質の意味はそうだろうけど。

 解析の仕方が悪かったのか。


 とりあえず次、制限。


 制限とは、対象を使用することに適した【筋力】の目安である。片手で用いる場合と、両手で用いる場合で制限が異なる。


 制限なのに目安、か。

 筋力の制限ってことだから、多分重さの関係だろう。それなら目安って意味も想像が付く。

 自分の筋力に見合わないものでも、一応持ったり振ったりはできるからな。片手で持つより両手で持った方が相対的に軽く感じるだろうし。

 となると、筋力が制限より低いとペナルティ、みたいな感じか?


 まあいい、次、命中補正。


 命中補正とは、対象の武器を使用した際の命中率に適用される補正である。


 うん、知ってた。

 完全にそのままだった。魔力無駄にした気がする。

 しかし、減るのか。これは仕方ないのかな?


 最後。これが重要だ、威力。


 威力とは、対象の武器を使用した際の威力に適用される補正である。片手で用いる場合と、両手で用いる場合で威力が異なる。


 こっちもそのままではあるな。

 ただ、片手で使う時と両手で使う時で威力にかなり差がある気がする。


 仮に、この数値がほとんどそのままダメージに適用されるとしたら、片手持ちと両手持ちじゃ「4」の差があることになる。

 俺の今の生命力が「29」だから、見た目の数値は大して変わらなくとも効果は全然違う。

 そう考えると武器の有無って重要だな。ダメージ量が全然違う。


 もっと詳しく【解析】してみてもいいが、とりあえずパス。

 今は命中補正が気になるから、軽そうな剣と適当に選んだ槍と戦斧に【解析】をかけて確認してみる。


 結果は全て命中にマイナス補正。斧に至っては「-2」だった。

 そういうものなのだろうか。


 さておき、そんな中々良さそうな剣のお値段は、鞘を含めてストルオス銀貨三枚。


 いや、高い。

 相場は知らないが、これは少し高いだろう。


 値段交渉かぁ。

 値札に書いてある通りの額をただ払うって買い物を続けてきた俺には難しそうだし面倒なんだよなぁ。


 とはいえ銀貨三枚は大金だからな。自分で稼いで良く分かった。

 でも交渉ってどうやるんだ。

 こっちから買いたいって強く押したら駄目なんだっけか?


「銀貨三枚、ですか…」


 顎に手を当てて分かりやすい悩むポーズ。

 いや、こっちの世界でも悩むポーズとして通るのか知らないが。


「そうですね、本日はゼアル様からのご紹介ということですし私も勉強させて頂くということで、ストルオス銀貨二枚と神聖銅貨三枚でお売り致しましょう」


 あ、ちょっと下がった。

 ゼアルって誰だ? と思ったが、話の流れから考えるとマスターしかいないだろう。

 マスター、ゼアルって名前だったのか。知らなかった。

 神聖銅貨二枚分か、そこそこ負けてくれた気もするが、もう一声欲しいかな。

 ここはあえて少し引いてみるか。


「うーん…他にもいくつか勧められた所もあるので、見て回った後で決めても大丈夫ですか?」


 少し申し訳なさげに聞いてみる。

 これならどう転んでも損にはならないだろう。


 武器商人さんは笑顔のまま一瞬間を置いた。

 多分、損得勘定をしたんだろう。

 さて、どうなるか。


「お客さんには敵いませんね。それではストルオス銀貨二枚と神聖銅貨一枚。いえ、ストルオス銀貨二枚でお売り致しましょう」


 困ったような笑顔で銀貨二枚まで負けてくれた。

 ストルオス銀貨一枚分の値引きだ。

 ただ、敵いませんなんて言われるほどじゃない気がする。交渉の技能でもあれば別なのかもしれないが。

 あるんだろうか。あったら欲しいな。


 ここまで値切っておいて買わない選択肢もないだろう。

 これくらいならいいかと思えるし。


「えっ、うーん…分かりました。買います」


 一応、意外にいい条件を出された、みたいな振りをしておく。

 ここで手の平返すようなことしたら印象が悪くなるだろうし。


 財布として使っている小袋から銀貨を取り出そうとした時、武器商人さんが作り笑顔ではない苦笑を浮かべた気がするが、気のせいか?


 念願の剣を手に入れた俺は、早速鞘を腰に下げた。

 結構重い。

 鞘の剣先部分は俺の足首より少し上程度にある。

 これ、しゃがんだら地面にぶつかりそうだな。

 隠れる時気を付けないと。


 次は防具だ。


 武器屋から歩いてすぐの位置にオススメされた防具屋がある。

 そこもやはり武器屋同様、半露店形式だった。

 ただ、武器屋とは違ってあまり商品が並んでいない。

 品数が少ないのか?

 でもマスターからオススメされた店だしなぁ。


 こっちの店も商人さんがすぐに対応してくれた。


「これはこれは、冒険者の方ですか。本日はどのようなご要件でしょうか」


 防具商人さんはさっきの武器商人さんと違ってあまりへりくだる感じではなく、探るように聞いてきた。

 その表情も笑顔風の真面目顔といった感じだ。

 正直、笑顔でへこへこされるような接客は正直慣れてないからまだやり易い。

 そして、ここではすぐに冒険者扱いして貰えた。

 やっぱり剣の効果かな。


「栄光の剣亭のマスターからオススメと聞いてきました。布や革製の防具が欲しいのですが」


 俺がそう言うと、防具商人さんは俺の体を足元から頭まで見回した。

 その視線は明らかに値踏みされているものだ。

 俺の冒険者としての腕を見ているのか、それとも所持金を推測しているのかは分からないが、一切隠す気のない視線は俺としてはいっそ気構えずに済んでいい。


 一通り見終えて何か納得したように頷くと、防具商人さんは俺を店の奥へ促すように手を広げた。

 微妙に気障だな。


「なるほど、それではお望みの品をご用意させて頂きましょう」


 そう言ってのける。

 なんだろう、慇懃無礼な執事って感じだ。

 いや、商人なんだけど。


 店の中に入る(と言っても半露店だから外っちゃ外だが)。

 いくつかの鎧や盾、胸当てなどが置かれているが、特に品揃えがいいようには見えない。

 お望みの品を、なんて言っていたが、どうなんだろうか。

 なんて思っていると、防具商人さんがこう聞いてきた。


「さて、ではどのような品をお望みですか?」


「布か革製の防具を色々と見せて頂けませんか」


 俺がそう答えると、防具商人さんは少し首を傾げ、何かに気付き納得したように一つ頷いた。


「なるほど、お客様は防具の購入に慣れていらっしゃらないご様子」


 合っている。

 合ってはいるのだが、微妙にムカつく言い方だ。


「防具を購入する際には、どのような戦い方を好むのか、どのような性能を望むのかをお伝えください。(わたくし)共はそのご要望に応じて商品をお見せいたします」


 と言ってきた。

 つまりは、マスターとしたような防具の相談をする感じでいいのだろう。

 しかしなんでこう感じ悪いのだろうか。


「基本的は回避主体ですので動きやすく軽いものがいいです。あと、隠れながら魔物を奇襲したりもするので動く時に音がするようなのはちょっと」


 そう告げると、防具商人さんは一瞬考えた後、店の奥に戻りいくつかの防具を持ってきた。


 そこからは良くあるセールストークだ。

 あれはここが良い、これはどこが良いと、色々な防具の説明をしてくれた。

 その中で気に入ったものを【解析】して見る。


「品質:二級」「制限:1」「回避補正:1」「防御:2」


 良し分かった、全部そのまんまだな。

 流石にそれくらいは読める。


 俺が気に入った防具の一つ目は、クロースアーマーなどと呼ばれる類のものだ。

 酷い言い方だが、厚手で丈夫な服と表現するのが一番だろう。

 軽く、必然的に防御力が低いのが最大の特徴だと俺は考えていたのだが、意外にも回避に補正が付くようだ。


 次に気に入ったものは、革鎧の類だ。

 全身を覆うようなガチガチのものではなく、関節部分は露出している動きやすさ重視のものだ。

 また、軽さも意識して作られたものだそうで、実際に手で持ってみると見た目から受けた印象よりは軽かった。

 もちろん、それでもクロースアーマーよりは重いんだが。

 これがその【解析】結果である。


「品質:二級」「制限:2」「回避補正:0」「防御:6」


 布鎧と違い、回避補正はない。

 が、防御の値が三倍だ。

 こう言うと凄そうに聞こえるな。元の数値が小さいから微妙なとこだが。


 防具商人さんは他にもいくつか見せてくれたが、俺はこの二つの内どちらかが良いと考えている。

 さて、どちらを選ぶか。


 回避優先の布鎧か。

 防御優先の革鎧か。


 俺がその二つに狙いを絞っているのが分かったのだろう、防具商人さんはその二つの説明と、それに似た防具の用意をしている。

 その説明の中の一つに、俺は思考を奪われた。


「そちらの布鎧ですがいくつか色違いのものもございまして、ご要望の色があればお申し付けください」


「黒はありますか」


 いや、嘘だ。考える間もなく即答した。

 俺の反応が意外だったのか、防具商人さんは一瞬ぽかんとした表情を浮かべたが、すぐに気障な笑みを取り戻すと。


「ええ、ございます。影に紛れるにも夜に紛れるにもうってつけの物が」


「お願いします」


「はい、少々お待ちください」


 防具商人さんは黒の布鎧を取りに行った。

 影や夜の暗がりに紛れる、か。そりゃあ普通はそういう使い方のために黒いものを選ぶのだろうと思う。


 が、俺は違う。

 単純に趣味の問題だ。

 黒、いいよね。

 海の底よりも暗く、女の色香よりも(つや)やかで、月のない夜闇よりも深い。

 そんな至高の黒が好きだ。


 俺が黒の良さを噛み締めていると、防具商人さんが奥から布鎧を持ってきた。

 あまり良い黒とは言えなかったが、それでも黒い防具だ。


 結論から言おう。即決だった。

 お値段、ストルオス銀貨一枚に神聖銅貨二枚。

 俺は良い買い物をしたと信じている。


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