表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RPG~Real Playing Game~  作者: KAITO
第一章「こんにちは異世界」
15/37

第十四節


 大体の解析は済んだか。

 その後も興奮気味にあれこれ考えていたら日が落ち始めているのか、いつの間にか暗くなってきていた。

 まだ夕の鐘は鳴っていないが、腹が減ってきたので一階に下りる。

 一階の酒場は冒険者らしき人で賑わっていた。

 朝見た時よりも多い気がする。

 大体は酒を飲んでいるようだが、中にはおっさんと何か話をしているようだった。

 その時に冒険者の一人がおっさんのことを「マスター」と呼んでいたのが聞こえてきた。

 内心ずっとおっさんなんて呼んでいたが、マスターと呼ばれていたのか。今度からはそう呼ぼう。

 カウンター席に座り、朝にはいなかった看板娘さんが忙しそうにしているのを眺めながら周りの声に耳を傾ける。

 有用そうな話を聞けるかと思ったが、その前に看板娘さんが見られているのに気付いたのか俺の方にやってきた。


「こんばんは。冒険者になれた?」


「ええ、お陰様で。注文いいですか?」


 看板娘さんは良い笑顔で応えてくれる。

 彼女、冒険者の宿なんかじゃなくて普通の酒場で働いた方がいい気がするな。

 ストルオス銅貨三枚で適当に夕食を、なんて注文にも普通に対応してくれた。メニューなんて無いんだからこういう注文の仕方になるのは仕様がないのだが。

 料理が来るまで回りの話に聞き耳を立てていよう、と思っていたのだがそんな間もなく料理が運ばれてきた。

 固めのパンに煮豆、肉が入ったスープにビール。

 ってなんでビールが!?


「えっと、これは?」


 どう見てもビールの入ったコップを指差し看板娘さんに聞いてみる。


「あら、エールは要らなかった?」


 すると「これはあって当然」と思っていた風の、だからこそ意外そうに聞き返された。

 というか、これはエールなのか。ビールの一種だけど、正確にはビールとは違うんだっけか。良く覚えていない。

 ここで「要らない」なんて言ったら、このエールはどうするんだろう。

 そう思ってしまった時点で俺の負けだ。


「いえ、何でもないです」


 そう答えると、看板娘さんは少し怪訝な顔をしたがすぐに笑顔を取り戻して仕事に戻って行った。

 なるほど、酒が付いたから思っていたより食事の量が少ないのか。

 俺としては適量と言えるから問題はない。むしろ麦の祝福亭で出てくる食事の量が多かったんだ。

 パンをスープに浸して食べながら、エールをどうするべきか考える。

 元々の俺はアルコールに弱かった。

 匂いで酔っ払うほどじゃなかったが、昔格好付けて缶ビールを飲んで吐いたことがある。その時は缶一本どころか半分くらいしか飲めていなかった。

 それ以降、俺はアルコールを避けている。

 しかし、この体は前とは違うかもしれない。

 確かアルコールの強さは、肝臓のアルコール分解酵素の量で云々だったはずだ。この体はどう考えても元の体と同じじゃない。

 外見が全くことなっているのだから、「新しい体」のようなものと考えていいだろう。

 つまり、この体は酒に強いかもしれない。

 少し試してみるか。

 スープに入っている肉や煮豆を肴にエールを少し飲んでみる。

 アルコール独特のかあっと熱くなる感覚は弱い。

 そもそも度数が低いのかもしれないな。

 自分の体調を鑑みながら、慎重に飲んでいく。

 コップに入っていたエールは既に半分になっていた。量としては缶半分くらいは飲んだか。

 以前ならここまでで顔が赤くなり(感覚で赤くなるのが分かる)、耳や手も赤くなり、気分が悪くなっていることだろう。

 だが、今の俺は何ともない。

 酔いが回っている感覚すらない。

 強いかどうかはまだ分からないが、少なくともこの体は以前に比べるまでもなくアルコールに耐性があるようだ。


 結局一杯飲み終えたことに軽い感動を覚えたが、ひたすら体調を気にしながら飲んでいたせいで「飲みながら聞き耳を立てる」「飲みながら気になる冒険者を解析」なんて恰好の機会を逃してしまった。

 どうしよう、もう一杯分頼んでみるか。

 ただ、自分の酒量が分からない今、それはギャンブルな気がする。ほとんど無駄金を使うことになるから、余計な出費になるし。

 まだ魔力は残っているから冒険者を解析したいのだが、このまま何も頼まずに居座っても問題ないのだろうか。

 いや、そうだ。ちょっと魔術の実験をしよう。

 俺は部屋に戻ることにした。


 さて、魔術の実験の内容だが、そう大したことじゃない。

 以前俺は普通に魔術で「水」を出すことができた。

 魔法なんだから四大元素は基本だよね、なんて勝手に思っていたが、これは「水という物質がどこからか現れた」ということだ。

 なら、液体である水だけじゃなく、固体である石とかは創り出せないのか。また、創ったものを消すことはできないのか。

 試してみる価値はあると思う。

 まずは、石で桶を創ろうと思う。

 大きさは風呂桶程度でイメージして、テーブルの上に手の平を向けて【魔術】を行使する。

 魔力が結構減った感触と共に、テーブルの上に石の桶が現れた。

 継ぎ目も掘った形跡もない。まるで川に削られて小さくなった滑らかな丸石のように自然な石だ。そんな石が完全な桶の形をしている。

 魔力量を【固有札】で確認すると、「3」の魔力を消費していた。水に比べると多いな。

 ちなみに、魔術を行使する際に手を動かすのはイメージしやすくするためだ。

 魔法を使う。なんて一言で表した場合、俺はどうしても腕やら杖やらを振っていたりするイメージが強い。もちろん呪文の詠唱なんかも定番で燃えるが、無くても使えるのに詠唱とかちょっと恥ずかしい。

 要はイメージ固めのためにやってることで、【魔術】によって得られる感覚から思うに直立不動の状態でも魔術は使えるのだ。

 ただ、今回はイメージしやすさ優先で魔術を使った。

 これで「石の桶はできたけど頭の上に現れてコントみたいに振ってきた」とかになったら笑えないからな。


 さて、次だ。

 さきほど創り出した桶にお湯を張る。

 水を出して暖めるべきか、初めから温水を出すべきか少し悩んだが、ここは後者でいくことにする。

 今度は手を動かさず、視線とイメージだけでお湯を出す。

 桶の上にある蛇口から、温度設定で四十度くらいになっているお湯を出すイメージ。

 結果は成功。桶の少し上からお湯が湯気を立てて現れた。

 消費している魔力は「2」。これは多分、「水を出す」と「暖める」という二つのことをしたからじゃないかと思う。

 あれ、でも石の桶を出した時は「石を出す」「形を変える」くらいのことしかイメージしてない。

 なら、個数とかじゃなくて単純にイメージを実現するのに必要な魔力量の差なのかな。


 首尾良くお湯を自力で用意した俺は、さっそく寝支度に入る。これで銅貨一枚浮いた。

 全部終わったあとで、今度は魔術で汚れたお湯を消してみようと思う。

 最初は洗った服を魔術で乾かそうかとも思ったのだが、乾かす加減が分からない。乾かしすぎたら服って傷むんじゃないか? と思ったので、処理が面倒な桶のお湯を対象にする。

 気化して消えるイメージで、魔術を行使する。

 残りの魔力を全て使ってしまったが、魔術は成功した。

 …魔術「は」成功したのだが。

 まず、部屋の湿度が急上昇した。凄まじく蒸す。慌てて窓を開けた。

 次に、石の桶が若干汚れている。

 多分、汚れたお湯を気化させたから、汚れだけ残ったのだろう。大した量じゃないが、これに関しては完全に失敗だ。そりゃこうなるよな。


 魔力も尽きたしそろそろ夜だから、桶はとりあえず放置した。

 基本後は寝るだけなのだが、その前にやるべきことがある。

 それは【特典】で経験点を一万点手に入れて、ステータスを強化することだ。

 今の内にこれをしないと、睡眠回復分が無駄になってしまう。

 経験点を得て、何にどう使うかは既に決めてある。

 それを実行に移す時が来た。


 まずは【特典】から【経験点:一万点:1ポイント(複数可)】を呼び出し取得。

 相変わらず獲得音の一つもないが、【特典】を確認すると保有ポイントは「1」になっているし、【固有札】を確認すると保有経験点は一万二百三十になっていた。

 次に【技能】を習得しよう。

 対象の【技能】は【剣】【体術】【防御】【活性】【探知】【隠密】だ。

 これだけで四千八百点の消費である。

 しかし、これらは譲れないのだ。

 各【技能】を得るごとに、言葉にし難い感覚が沸いてくる。

 どんな風に剣を振ればいいのか、どんな風に自分の体は動かせるのか、とっさに身を守るためにはどうすればいいのか、魔力で体を強化するにはどうすればいいのか、何かを探すときはどうすればいいのか、隠れたり隠したりしたいときはどうすればいいのか。

 それぞれを一言で表すなら、そんな感覚だ。

 これは凄い。

 そして奇妙な感覚だ。

 一気に技能を得たせいか、ちょっと酔ったような感覚があったが、すぐに収まった。

 今度は【魔術】【体術】【探知】【隠密】の技能を二級に上げる。消費経験点は八百点。

 この構成は「隠れつつ魔物を探して、遠くから魔術で奇襲」というやり方をイメージしたものだ。ただし生存確率を上げるために【体術】も上げる。

 初っ端から近接戦闘とか怖いだろう。

 技能の等級を上げるのは、理解度が深まったというか技能が馴染んだというか、そんな感覚だった。

 新しく技能を習得するよりは違和感がない。

 最後に【能力】を上げる。

 こっちは上げる順番も重要だが、事前に計算しておいたので今はそのまま機械的に上げるだけだ。

 最終的にはこうなる。


 総合等級、三級。

 能力、【筋力:(7)三級】【耐久:(7)三級】【敏捷:(7)三級】【感覚:(7)三級】【魔力:(13)五級】【生命力:29:20】【魔力量:56:0】。魔力回復量は「30」。

 技能、【魔術:(+6)二級】【剣:(+3)一級】【体術:(+6)二級】【防御:(+3)一級】【活性:一級】【探知:(+6)二級】【隠密:(+6)二級】。


 明日使える魔力は「30」で、ほとんど魔術に使うつもりだから【活性】は使わないと思う。

 習得してみて分かったが、【活性】は他の技能のように「あれば効果が得られる」ものではないからか、解析して分かるようになった実数値補正が分からない。

 多分、使用した魔力に応じて強化されるのだろう。それなら【固有札】で確認しても数字としては分からないだろう。

 これは計算式を解析する必要があるな。

 今日は魔力が残っていないので無理だが。


 そういえば、生命力の最大値が増えたことで相対的に現在値が減っている状態なのだが、これは睡眠でどれくらい回復するのだろうか?

 こっちも後で解析だな。


 残った経験点は千二百六十一点。念のため少し残しておいた。

 備えあれば、だ。

 事前に計算した通りの結果だった。解析結果に狂いなし、とか言うべきだろうか?

 その日、俺はなかなか寝付けなかった。子供か。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ