第十三節
そうして魔石を解析した結果がこれだ。
魔石は生命力を核とした魔力の結晶である。
自然界には存在せず、魔物の変異種から採取される。
魔石からは魔力を引き出すことができる。
魔石は傷や欠けに強い性質を持つが割れ易い。
割れた魔石は魔力を霧散させてしまい消失する。
魔石の質は「大きさ」と「透明度」で表され、大きく透き通っているものほど魔力の質が良い。
魔石を同時に合計で百級分以上取り込むことで特殊【魔の力】を得ることができる。
長かったので少しまとめてみた。
これ、もしかするとやっちゃったかもしれない。
多分、ほとんどは魔石を知っている者なら知っていることなのだろう。
特に「魔力を引き出す」「魔石は傷に強い」「質は大きさと透明度」辺りはすぐに分かることだ。
ただ、他の二つはどうだろう。
下手をしたらこの情報だけで大騒ぎになる気がする。
「それでも一攫千金を狙って変異種狩りに精を出してるのは多いぜ。御伽話を信じてるような連中もいるがな」
魔石の解析結果に困惑していた所に冒険者さんの声が聞こえてきた。
一攫千金狙いってのは実に俺の想像する冒険者らしい。
が、それ以上に気になることが。
「御伽話、ですか?」
「ああ、『大量に魔石を集めて一気に使えば大いなる力を得る』なんて荒唐無稽な話さ」
ソウナンデスカー。
適当な相槌しか声にならない。
やっぱり解析は素晴らしいチートだ。これのおかげで俺は、魔石の御伽話とやらが嘘じゃないと確信できるし「大いなる力」こと【魔の力】を得るまでに必要な魔石の数も分かる。
御伽話を信じているって人だって、魔石をどうするのかを知っているのかどうかは分からないし、魔石をどれだけ集めれば「大いなる力」とやらが手に入るのか分からず途中で挫折して止めてしまうことだってあるだろう。
それに比べれば、明確な目標があるというのはモチベーションが保てる分【魔の力】を目指し易い。
狙ってみるのも悪くないな。
おっさんは魔石の代金を冒険者さんに渡し、冒険者さんはそれを受け取って俺に軽く挨拶するとテーブルの方に歩いて行った。
こっちを見ている一団に向かって真っ直ぐ歩いて行ったから、お仲間か何かだろう。
さて、いい情報が手に入ったし考察に没頭したいが、まずは冒険者チュートリアルだ。
魔石を仕舞いに奥へ行って戻ってきたおっさんは、俺の方に歩いてきた。
「で? お前さんは何の用だ?」
なんて言ってきた。しかもどうやら本気で言っている。
おいおい。
「冒険者としての心得を窺いたく」
わざと気障ったらしく答えたら、「おお」なんて言っている。
完全に忘れてたな。
まあ、俺も前に来たときは何も聞かずに帰ったからお相子か。
その後、おっさんから話を聞いたが、ほとんどは当たり前に想像のつく心得だった。
戦力はきちんと見極める。無茶をしない。命あっての物種。大体はこんなところだ。
しかもその話を割と長々と、思い出話でも語るかのように話すものだから、終わる頃には昼を過ぎていた。
ただ、その内容には実例が混ざっていたため少しは参考になった。
まず、大きな街の近くほど魔物は弱い傾向がある。
これは単純なことで、近くに現れる魔物が弱いから、街を起こし発展させやすかったからのようだ。
次に大体の場合、魔物の素材で売れるのは皮に肉、牙や角、その他特徴的なパーツである。
魔物の素材はとても有用なようだが、第一にその魔物を狩ることが、第二に魔物がいる場所で魔物から素材を剥ぎ取ることが、第三に大きな荷物を持って魔物がいる場所を進むことが、そもそも危険であるため価値がかなり高い。
ああ、今回の話でアイテムストレージや四次元ボックスのようなものは存在しないらしいと判明した。もしあったら「大きな荷物」なんて持つ訳ないからな。
おっさんにはこれからもお世話になるだろうから、せめて愛想良くお礼を言って一旦部屋に戻る。
地味に疲れた。
さて、ここからは楽しい趣味の…もとい、情報収集の時間だ。
魔石に関して、魔導石に関して、【魔の力】に関して、調べたいことが多い。変異種に関しては、見つけたらでいいか。これらを解析した後で出てきた情報を解析することも予想して、酒場に居た冒険者の解析はしなかった。
だから、まだ魔力はたっぷりある。
まずは魔石について。
わざわざ「変異種の魔物からしか手に入らない」と言っていたくらいだから、他に入手手段は無い。というのが基本認識なのだろう。
多分、有用で入手手段が限定されているのだから人為的に作り出そうと研究されたことはあるはずだ。
研究は成功しなかった、ということなのだろうが、それは多分魔石を「魔力の塊」として見ていたからだろう。
しかし俺は「生命力を核」とするものだと知っている。加えて魔術も使える。
なら、自作もできるのではないか?
本来なら色々実験してみるのだろうが、俺には解析がある。これを使えば事前に答えが分かるはずだ。
俺は「魔術によって魔石を人為的に作成する方法」を【解析】した。
魔石を魔術によって人為的に作成するには、魔石を作成する魔術に必要な魔力に加え任意の量の魔力とそれに応じた生命力を使用する。
生命力を核として魔力を集め、結合させ固めることで魔石を作成できる。
よし、魔石は作り出せる。
具体的に必要な生命力と魔力量が分からないが、作ることが可能だと分かっただけでも大きい。
使用する生命力と魔力次第では、これだけで金を稼げるな。調子に乗ったら「なんであんなに魔石を持っているのか」と思われるようになるだろうから、臨時収入程度に考えるべきだろうが。
いかん、これじゃ取らぬ狸のなんとやらだ。
生活に余裕ができたら試しに作ってみよう。
しかし魔石を自分で作り出せるとなると、【魔の力】とやらが気になる。
大いなる力なんて言われてるくらいだから、さぞかし強力な特殊能力なのだろう。
期待と興奮に鼻息を荒くしながら、【魔の力】に【解析】をかける。傍から見たら考え事しながら興奮している変人だな。
【魔の力】とは魔人の力を得ることができる特殊能力である。
【魔の力】を持つ者は魔力量を明確に認識できる。また【魔力】が上昇し【魔術】【活性】の技能と同等の効果を持つ。(【魔力】は等級分上昇、効果は各技能と重複、魔力回復量*2)
解析結果を知って、俺のテンションは妙な感じになった。
うおー! つえー! 【活性】って何だー! と無言で叫びながらも「魔人」なんていう不穏な単語に不安感や危機感を覚えるという、名状しがたい感覚だ。
これ、場合によっては【魔の力】を得るということは魔物になるってことじゃないのか?
魔石は魔物の変異種からしか取れない。その魔石は変異種の心臓付近にあると言っていた。あれ、魔石って体表に露出しているのだろうか、それとも体内に埋まっているのだろうか。まあ、今はいい。置いておく。
そして【魔の力】を得る手段は「魔石を合計百級分以上取り込むこと」だ。取り込むという手段が今一良く分からないが、それはその時になったら解析すればいいだろう。
ただ、魔石を取り込むということは「人の変異種になる」ようなものなんじゃないか?
確かに【魔の力】は強い。【活性】については解析する必要があるが、これ一つで【魔力】【魔術】が実質上昇、魔力の回復量が倍になって使える魔力量が大幅増加だ。それに普通なら数値として認識できない「魔力量」も分かるようだ。
しかし代わりに外見が化け物になったらこの世界を満喫できなくなる。
それだけは避けたい。
浮かれるのは後にして、ここはまず「魔人」を【解析】してみるか。
魔人とは強大な魔力を得た人族である。元の種族に関わらず、外見に変化はない。また、元の種族を失うこともない(「種族:人間・魔人」のように表現される)。
魔人となった者は老化速度が低下し、寿命がおよそ五倍ほど伸びる。
思っていたよりも魔人は途轍もなかった。
外見の変化がないのは嬉しい。完全に魔人という種族になるわけではないのなら、「魔人」部分を隠せば【固有札】の種族には人間と映るだろう。
そして何よりも、寿命が延びる。
古今東西、不死の法や不老の術などは人々に渇望されてきた。そりゃそうだ、誰だって死にたくない。
これは不老不死には届かないが、アンチエイジングなんて目じゃないほどの延命効果だ。
あの冒険者さんは「大いなる力」を御伽話だと言っていたが、もしかしたらこれは隠蔽された情報なのかもしれない。こう、歴史の裏みたいな感じで。
魔人だとバレたらリスクが出てくるが、これはとても魅力的だ。ぜひ目指そう。
その前に【活性】とやらについて【解析】しよう。
【活性】の技能を持つ者は、魔力を自身の肉体に巡らせて能力を一時的に強化する技術を得る。(魔力を消費して【魔力】を除く全【能力】に補正)
これは魔力による身体強化か。
どれくらい強化されるのだろう。やはり「+3」刻みだろうか?
まあ、わざわざ【魔術】とは別の独立した【技能】なんだから、その分強力なのだろう。
そう考えると【魔の力】は本当に強い。【魔力】が上がり【魔術】も使えるようになって能力を強化できる【活性】まで使える。
魔力の運用配分管理は大変だろうが、これ一つで大体のことができると言っても過言ではない。
これは素晴らしいな。
さて、あとは魔導石か。【解析】しても冒険者さんの話以上のことが分からなかったら悲しいな。
魔導石とは、魔石が持つ魔力を魔術に作り変えたもの。魔石を魔導石に作り変えるには【魔術】技能が必要となる。
なんだか冒険者さんの説明とニュアンスが違う。
確か冒険者さんは「魔術を封じ込めたもの」と言っていた。しかし解析結果には「作り変えたもの」とある。
表現の違いではあるが、イメージが大事な魔術にとってこのニュアンスの違いは大きいのではないだろうか。
とりあえず、俺は【魔術】があるから魔石があれば魔導石を作ることができる、と。
作り方は…その時に解析すればいいか。




