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RPG~Real Playing Game~  作者: KAITO
第一章「こんにちは異世界」
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第十二節


 そうして翌朝。

 変わらず朝の鐘で目が覚めた。

 まだ少し眠いが、今回は心地よい倦怠感だ。

 大きく伸びをして、朝の準備を始めた。


 とりあえず今日で最初に支払った宿代分泊まったことになる。

 おばさんにチェックアウトの手続きみたいなものがあるのか微妙にぼかして聞いてみたら、「律儀だねぇ」と笑われた。

 そしてチェックアウトの概念はないらしい。

 昼の鐘が鳴るまでに宿を出るか、追加で泊まるのかを決めればいいそうだ。

 そして宿を出る時は半ば勝手に出ていく形になるという。

 その時、部屋に置き忘れた物があったら丸一日後には宿の所有物になってしまうらしい。逆に言えば一日待ってくれるということか。

 だから宿を出るときはきちんと荷物を確認するように、と念を押してくれた。

 置き忘れてくれたら儲けものだよなんて笑っていたが。


 食堂で朝食を摂りながら今日の予定を考える。

 とりあえず冒険者の宿に行ってみて、一日解析と考察に注ぎ込む。

 寝る前に【特典】で経験点を一万点手に入れて使い、明日は冒険者活動。

 大まかにはこういう流れになると思う。

 既に金がほとんどないため、本気で稼がないとヤバいからな。


 食事を終えた俺はそのまま宿を出ることにした。

 大した量ではないため、いつも全ての荷物を持ち歩いているので置き忘れなどない。

 おばさんに宿を出ると挨拶したら、良い笑顔で見送ってくれる。なんて言うか、母親の温かみ、みたいなものを感じた。


 朝の通りは活気に満ちている。

 そんな中を俺は「栄光と剣亭」まで歩いているのだが、ふと疑問を覚えた。

 この世界には、少なくともこの街には「週」というものがないらしい。

 では「休日」はあるのだろうか?

 俺の感覚だと「日曜は休み」「祝日は休み」のような漠然とした休日概念があるのだが、年月日はあっても週のないここだとどうなんだろう。

 少なくとも俺がいた間、麦の祝福亭のおばさんはずっとカウンターに居たし、食事やお湯の入った木桶は同じ男の子が運んでくれていた。

 流石に祝日みたいなものはあるのだろうが、定期的な休日ってもしかするとないのではないか?

 そう考えると、こっちの世界って辛いな。働き通しか。


 なんて考えながら歩いていると冒険者の宿に着いた。

 まだ二度目だが、一応俺も正式な冒険者だ。

 あまり大きな顔をしない程度に堂々と入ろう。

 入り口の戸を開けると、鼻孔を刺激するアルコール臭。

 酒場だから、というより、誰かが中でずっと飲んでいるからだろう。匂いは地味に濃い。

 以前来たときもそうだったはずなのだが、あまり意識しなかったな。

 意識できなかったくらいに緊張していただけかもしれないが。

 ざっと中を見渡すと、酔い潰れてそのままなのかテーブルに突っ伏している人や現在進行形で飲んでいる人(徹夜か?)、普通に朝食を摂っている人や何やら話し合っている人と、意外に人数が居て驚いた。

 看板娘さんが見当たらないのだが、奥に居るのか時間帯が違うのか。

 代わりにカウンターには以前冒険者登録をしたときのおっさんがいた。


 そういえば、冒険者の宿で依頼といったら掲示板だろう。こう、依頼の内容が書いてある紙なんかが張り出してあって、それを見て依頼を受けるみたいな。

 そう思って室内を探すも、掲示板は見当たらず。

 なんだろう、このお約束を外されている感は。

 とりあえず宿をとるためにもおっさんに話かけるか。


「おはようございます」


 まずは挨拶から。と思っていたのだが。


「おう、どうした」


 おっさんの返事は無骨なものだった。


「今日からこっちに泊まることにしようと思いまして。部屋は空いていますか?」


「ああ、一人部屋でよかったか? 一日ストルオス銅貨十六枚だ」


 どうやら空いているようだ。

 一階にいる人数が地味に多かったから、もしかすると部屋が埋まってるんじゃないかと思ったのだが、杞憂だったな。


「分かりました。とりあえず二日分お願いします」


「ああ、確かに」


 銅貨を三十二枚渡し、残金銅貨六十枚。

 おっさんは奥に声をかけると、十二・三くらいの少年が出てきて俺を部屋に案内してくれた。

 二階の、階段から見て割と手前にある部屋が俺の部屋になるようだ。

 内装は麦の祝福亭と大差ないが、広さは三割増しだ。それだけでちょっと豪華な部屋に思える。

 いや、実際高いか。

 少年はそのままこの宿のシステムについて話してくれた。

 食事は一階の酒場で摂ってもいいし、外で食べてきてもいい。飲むならすぐ部屋に戻れるのでここで飲むのがおすすめとか(テーブルに突っ伏してた人居たけどあれは別なのか?)、お湯が欲しかったら適当に呼び止めてくれれば持っていくとか(お代はストルオス銅貨一枚、お湯を受け取る時に支払うそうだ)、基本的なところはほとんど普通の宿屋と変わらないようだ。

 ただ、違うところも多くあった。

 まず、勝手に部屋の掃除をすることがない。

 冒険者は部屋に荷物を置いたまま外に出ることが多いらしいので、勝手に部屋に入られるのを嫌うことが多いらしい。お湯の木桶などは廊下に出しておけば回収してくれるそうだが、掃除は事前に言っておかないとしてくれないそうだ。

 次に賠償金。

 どうやら部屋で暴れて家具や部屋を傷付けたり壊したりする冒険者もいるようで、その場合は賠償金を払ってもらうそうだ。確認のため部屋を引き払う時はチェックが入るという。

 まあ、普通に使用して付く程度の傷なら問題ないそうだから俺には関係ないな。

 最後に防犯について。

 この部屋だが、扉に鍵なんて付いてない。内側に閂はあるが、それだけだ。 ただ、冒険者の宿の部屋へ盗みに入るやつなんてまず居ないとのこと。理由は単純で、そんなことをしたら全冒険者の恨みを買うからだ。つまりリスクが高すぎる、と。

 それでも部屋の扉や置いてある荷物などに仕掛けを施す冒険者はそこそこいるらしい。


 一通り説明を受けた後、メモ用の木板だけ部屋に置いて一階に下りる。地味に重いんだよあれ。

 おっさんに色々話を聞こうと思ってカウンターに向かう。冒険者の心得みたいなのを話してくれるそうだし。

 と思っていたのだが、おっさんは緊張気味な冒険者と何やら話していた。

 おっさんは手に緑色の小石を持っている。大きさは直径が指一間接の半分くらいの球形で宝石か天然石のように綺麗な光沢を持っている。

 どこかで宝石でも見つけて換金しているのだろうか。

 そう思いながら近づきすぎない程度の距離まで近づきカウンター席に座る。

 すると俺が見ているのに気付いたのか、緊張しているように見えた冒険者は一般人か素人かと一目で分かる俺に話しかけてきた。


「坊主、これが気になるのか?」


 坊主って。

 確かに俺は【固有札】を信じるなら十五歳。対して話しかけてきた冒険者は二十台後半に見える。

 まあ、坊主にも見えるか。

 この冒険者、どうやら緊張していたのではなく、興奮を抑えようとしていただけのようだ。

 俺に話しかけてきたのも、他人(ひとに話して自慢したいからだろう。

 こっちとしては情報収集のチャンスだ。


「ええ、とても綺麗ですね。宝石ですか?」


 俺がそう答えると、話しかけてきた冒険者は待ってましたとばかりに話し始める。


「違う。これは魔力の塊、魔石だ。一級だから対して質の良いものじゃないが、それでもこれ一つでストルオス金貨一枚くらいで売れるのさ」


 魔石? ゲームイメージで言えば魔力の結晶とかだけど、魔力の塊? 後でこっそり【解析】しよう。

 とりあえず今はこっちだ。


「すみません、ストルオス金貨ってどれくらいの価値なんですか?」


「ストルオス銀貨は分かるか? 大体四枚くらいだな」


 ストルオス銀貨四枚! 大金だな。


「これ一つで銀貨四枚ですか、凄いですね」


「そうだろう。自分で魔導石に加工できればもっと高値が付くんだがなあ」


 言葉面は残念そうだが、初めから望んでいないように言う。

 おっと、今度は魔導石だ。こっちは聞いてみるか。


「魔導石、というのに加工すれば価値が上がるんですか?」


「ん? ああ、魔導石を知らないのか。魔導石ってのは、魔石に魔術を封じ込めたものだ。これがあれば魔術が使えなくても魔力さえあれば誰でも魔法が使えるんだよ」


「魔法具とは違うのですか?」


「そりゃ違うさ。魔法具はそれそのものが魔力を持っているし、その魔法も強力だが必ずしも自分が望んでいる効果が得られるわけじゃない。その点、魔導石を使った魔導具なら、魔導石次第で好きな魔法が使える。自分の魔力を使わないといけなくなるがな」


 ということらしい。

 基本的に魔法具は強いが、そもそも手に入り難い。

 魔導石は魔石を材料にするが魔法の効果を任意に設定できるようだ。ただし、その発動には別に魔力が必要になる、と。

 他にも魔導具ってなんだとか、気になることはあるが細かい考察は後にしておくか。


「なるほど、勉強になります」


「おう、坊主も冒険者なのか? やっぱり魔法具は冒険者の夢だよなぁ!」


 なんか勝手に誤解しているような気もするが、問題はないだろう。

 しかし、そんな便利アイテムが高額取引されているってことは、魔石は貴重品なのだろうか。

 これも聞いておくか。


「やっぱり魔石って貴重なものなんですか?」


「ああ、魔石は魔物の変異種からしか手に入らないからな」


 気前良く答えてくれる。多分、冒険者の常識程度の知識なのだろう。

 そしてまた知らない単語だ。字面で想像はできるが、正しい情報の入手機会だ。


「変異種ですか?」


「ああ、変異種ってのは、他と少し違う魔物のことだ。基本的には元の種類の魔物と同じなんだが、体が一回り大きくて何より強い。『変異種は二級上の相手と思え』なんて言われてるくらいだ。そして心臓の近くに魔石がある」


 二級上ってかなりの差がある気がする。

 仮に冒険者と魔物の強さが、同じ等級だったら強さも同じだとすると、二級冒険者がそこそこ楽に一級の魔物を狩っていたと思ったら、急に自分よりも格上の相手が出てくる、みたいなことになるんじゃないだろうか。


「ただ、変異種は珍しい上に強いから危険だ。大体元の種類の魔物が出る辺りに現れるから、冒険者がやられることも多いのさ」


 ハイリスクハイリターンってことか。

 そりゃあ、普通に魔物を狩りに行くとしたら、自分の強さに合った場所と相手を選ぶだろう。

 そうして狩りをしていたと思ったら変異種登場。危険なんてものじゃないな。逃げの一手な気がする。

 それもまた、魔石の貴重性に拍車をかけているのだろうか。


 そんなことを考えながら、俺はおっさんが持っている魔石を【解析】してみた。


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