屍の研究
◇ ◇ ◇
だが私は父に、高柳医師と会った事は話せずにいた。
学友だからと言って仲が良いとは限らないだろうし、あまり昔の事は語らないのは嫌な思い出でもあるのだろうと思ったからだ。
「勉強は遅れてないか?」
既に朝食を食べ終わり、本を読んでいた父がふいに言った。
「大丈夫、そんなに進んでいなかったから」
それは本当だ。
学校の授業は私にとって物足りない。
ところで、あの殺された女の人の死体をいつ磨くのか気になっていた。
早く処理しないと、腐ってしまう。
土に埋めて肉を腐らせる方法も有るのだが、父はそれを好まない。
「父さん、私が病気で寝ている時、死体を持って来た人がいたでしょう?」
幽かだが父の表情が曇ったのを私は見逃さなかった。
「……あれはいいんだ。研究に使う」
しらばっくれるのかと思いきや、あっさりと死体の存在を認めた。
……研究?
「なんの研究?」
父は読んでいた本を閉じて遠くを見る様な目をした。それは確かに作業場の有る方を見ていた。
「長年の夢だった研究だよ」
それが何なのか、例によってまた語らない。
ただ、父の様子を見る限り公には出来ない、ともすれば神に背く事になる研究。
そんな気がしてならなかった。