屍の来訪
◇ ◇ ◇
父と誰かの話声がする。
何でこんなに良く聞こえるのだろう?と思ったら、父が閉め忘れたのか私の部屋の扉が少し開いている。
「ここに来れば引き取って頂けると聞いて……」
「今は要りませんよ」
やっぱり、死体を売りに来たんだ。
「歳は27です。なかなか無いでしょう?こんなに若い女の死体なんて」
ああ、確かに若い。
町の人が売りに来るのは御爺さんや御婆さんの死体ばかりだもの。
どうでもいいけど早く帰って欲しい。
煩くて眠れやしない。
しかし、その後
私は眠るどころでは無くなってしまったのだ。
「お願いします。お金は要りません。骨にして何処か遠くにやってしまってください」
……お金は要らない?
どういう事だろう?
「訳ありですか。余計お引き受け出来ませんね」
「お願いします!何ならこっちが金を払ったっていいんです」
しつこい。
何でこんなにしつこいんだろう?
「では訳を話して頂きましょうか?」
根負けしたと言うよりは飽きれ果てた父の声。
「絶対他言しないでくださいますか?」
「知っての通り近所付き合いは無いのでね」
死体を持って来たのは、声の感じからして父より少し若い位の男性だ。
たぶん死体の女性の旦那さんなのだろう。
「これは私の妻です。ついさっき私が殺しました」
ああ……なんて事を
父に人殺しの後始末をさせる気なんだ。
どうするんだろう?父は。
いくら待っても父の返事は無い。
「ついカッとなって気付いたら……」
「貴方さえ黙っていてくれたら、この女は男を作って逃げた事にして……」
父が何も言わないせいか、男性は一人でたて続けに喋っている。
「わかりました、お引き受けしましょう」
やっと父が口を開いた。
しかしそれは私も予想出来なかった一言だった。
人殺しの後始末なんて、人殺しと同じ事だ。
そんな事、子供の私でも解る。