骨の記憶
◇ ◇ ◇
目を開けると、見慣れた天井があった。
ここは私の部屋だ。
私の部屋の自分の寝台の上だ。
記憶が混乱する。
今は朝なのか?夜なのか?
眠りに落ちる前、私は何をしてたのだろう?
激しい喉の渇きを覚え、寝台から起き上がるが、天地の区別もつかない程の目眩がした。
体は寒気が酷く、自分の意志とは無関係にガタガタ震えている。
そのくせ、まるで蒸されたように顔が火照る。
ああ、そういえば……
薬を飲んでいなかった。
私は情況を何となく思い出した。
「タマキ、具合はどうだい?」
父が部屋に入って来た。
水差しの乗った盆を持っている。
何だろう?
父が凄く恐い。
いつもの優しい父だ
なのにとても恐い。
「薬はちゃんと飲んでたのか?」
怒られる……そう思ったが、私は正直に首を横に振っていた。
しかし、父は溜め息をつき
「駄目じゃないか」
と、私の汗で湿った頭を撫でただけだった。
水差しの横には見慣れた薬の小さな包みがあった。
「父さん……その薬は何の薬なの?」
熱で朦朧とした勢いで聞いてみた。
「何度も言ってるだろう?病気にならない為の薬だよ。それを飲まないでいたから病気になった。そういう事だ」
私は普通の子と違うの?
その薬を飲まないと、死んでしまうの?
どうして?
父を問い詰めたかったが、記憶の隅に引っ掛かった小さな棘のようなものがその衝動を押し留めた。
脳裏をよぎる真珠の輝き。
それと対になる父への恐怖心。
「薬を飲めば元に戻る?」
喋る度に熱を帯びた息が出て喉が渇く。
早く水差しに入った水を飲みたい。
「ああ、何日かはかかるが、きっと良くなるよ」
父は水差しの水をグラスに注ぎ、それを少しだけ飲ませた後、例の粉薬をさらさらと私の口に入れた。
その後、口の中に貼り付いた粉薬を洗い流すように水を貪り飲んだ。
私を起き上がらせる為に首の後に回された腕はひんやりとして心地良い。
「何か食べなければ駄目だな。今粥を作っているから」
いつもの父だ。
きっと私は熱で頭がおかしくなっていたに違いない。
こんな優しい父が恐いだなんて。
お粥には玉子が入っていた。
玉子は大好きなのに、食べる気がしない。
それでも父が食べさせてくれるので三匙程口にした。
洗濯糊を食べているような感じだ。
父は料理が上手い筈なのに。
きっと病気が私の味覚まで奪ったのだ。
途方に暮れながら体を倒すと、父が毛布を掛けてくれた。
さっき起きたばかりなのに眠い。
と言うか目を開けているのが辛い。
玄関で呼び鈴が鳴っている。
また……誰か
死体を売りに来たのだろうか?
うとうとしながらそんな事を考えていた。