骨を磨く
◇ ◇ ◇
重曹を入れた水で死体を煮る。
重曹を入れると早く骨から肉が離れるからだそうだ。
大きな鍋……と言うより鉄の浴槽からは死体が煮える嫌な匂いがする。
鶏や豚を煮る匂いなら美味しそうなのに、何で人間を煮る匂いは嫌な匂いなんだろう?
いつの間にかぽつりと呟いていたようで、父が答えた。
「そりゃ、人間は色んなもので汚れているから」
汚れているから。
特に心が。
そうか、だから人間同士で差別や迫害や嫌がらせをしたり、戦争なんか起こすんだ。
綺麗な心の人間の死体を煮たら、いい匂いがするんだろうか?
死体が煮上がりお湯が冷たら、今度は骨を洗う。
煮ただけでは取り切れなかった肉や組織をタワシや細かいブラシを使って落とすのだ。
そうしないと、後から腐って骨が黄ばんでしまう。
これは私もよく手伝う。
人間一体とはいえ、骨の数は膨大だから、父一人では1日がかりになってしまうのだ。
その後、石灰に漬けて骨を白くした後、石灰を落としながら骨を磨くのも手伝っている。
「タマキは骨磨きの天才だな」
喜んでいいのか解らないが、父に誉められると嬉しくなる。
それに、真っ白に磨き上がった骨を見ているとある種の達成感があり、誇らしい気分にもなれるのだ。
「ねえ父さん」
「何だい?タマキ」
「父さんは学者だった頃何の研究をしてたの」
何回も訊いたような気がする。
「今だって学者だよ」
ほら、答えになっていない答えでいつもはぐらかされるのだ。