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屍の心




   ◇ ◇ ◇




おかしい。



柱時計の振り子の音だけが響く。

もうとうに6時を回った。なのに



父は帰ってこない。



買い物などの用足しは私が学校へ行っている間に済ませるか、一緒に行く筈だし、仕事の用事は家に居れば富岡さんや死体を売る人達がやってくる。



友人など無いに等しいので、何処かで誰かとお酒でも飲んでいる……とも考えにくい。



その父が、私が帰宅するやいなや入れ替わるように外出したのだ。



そしてこの時間。



何か有ったのでは……



どんな恐ろしい計画を企てていても、たった一人の肉親だ。



しかも秘密の部屋で何が起こっているのか知ってしまった以上、家に一人きりで居るのは不安だった。



反魂香……



あれがきっとそうだ。


あれを焚き染めることによって死者が蘇るとしたら





あの殺された女はいつ蘇るのだろう?







それが今日で無い事を祈った。





死体を生き返らせるなど出来る筈がない。



そう思っていても不安は募る。



自分の子供を、死体のある家に置き去りにする父の神経を疑った。



初めて、死体が恐いと思った。



私は今まで普通ではない感覚で生きて来たのだ。と認識せざるを得ない。



平気で死体を見せ、あまつさえ骨磨きを手伝わせる……



普通の親なら躊躇しないだろうか?




それは




まさか






私 が 死 体 だ か ら











そんな筈は無い!

私は生きて居る!



頭の中にこびりついたこの考えを振り落とす様に首を激しく振っても、疑惑は消えない。



そんな中、玄関の呼び鈴が鳴った。



父だ。



父が帰って来たんだ。



やっと。



私は夢中で玄関に駆け寄り内鍵を外した。






扉の開けたのと、父ならば鍵を持っている筈だから呼び鈴は鳴らさない筈……と気付いたのはほぼ同時だった。



急いで開けかけた扉を閉めようとしたが、がっしりと掴まれ、それは叶わなかった。



誰……?



私はさっきまで感じていたそれとは異質で、しかも更に大きな恐怖を感じた。










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