骨の夢
◇ ◇ ◇
……誰かが泣いている。
それにしてもキナ臭い。
ここは何処だろう?
火に炙られた木材がはぜる音がする。そしてその匂い。
幽かだが、木が焼ける匂いとは違う匂いが漂っている。
何だろう?お香のような、そんな香りだ。
ああ、まだ誰か泣いている。
やっと開いた瞼の間から泣き声のする方向を見た。
狂ったように泣く男。
膝を附き、何かを抱き抱えている。
あれは父さんだ。
空襲で私と母さんは家ごと焼夷弾にやられた。
いつもの1日だった。
二人で父さんの帰りを待っていた。
母さんは笑っていた。
それなのに、耳をつんざく爆音と供に何もかもが壊れた。
母さんの笑顔が壊れた瞬間を私は覚えている。
怖い。悲しい。悔しい。苦しい。
そんな感情が入り交じって、でも小さな私にはどうする事も出来なくて、目の前を闇が覆った。
父さん、おかえり。
私もいるよ。
やっとの思いで声を振り絞ると、父が、泣いていた父が
酷く驚いた顔でこっちを見た。
「ああ、タマキ……母さんは……母さんは……生き返らなかったよ」
父は私を抱き起こしながらそう言ったが、その時の、その言葉のおかしさなど私に解る筈も無い。
抱き起こされて視界が変わると、小さな香炉から煙りがたゆたうのが見える。
「タマキだけでも生き返って良かった」
私は小さいから、その言葉の意味も解る筈は無い。
ただ父の腕の温もりで、心底安心した。
「タマキちゃん」
キナ臭さやお香の匂いは一変して消毒薬の匂いになった。
白い天井、白い壁。
「タマキちゃん!良かった、気が付いたんだね」
高柳医師だ。
思い出した。私は彼の話を聞くうちに気が遠くなって……
今まで見ていた夢は何だったのだろう?
小さい頃の記憶?
そんな筈は無い。私は何も覚えていない。
きっと高柳医師の話のせいで変な夢を見ていたんだ。




