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9 両腕を下ろして


しかし

それとこれとは

話が別だ


判ってる


不滅と信じた

アシュレ・ウィルクスなる

幻影から

なぜか知らんが

ある日突然


それも

本人ですら

思いもよらず

君は

解放されたんだろう


放り出されてしまったと

言った方が

当たっているかな?


返す刀で

視界が晴れて

疫病神も

同然だった

はずの男が

ある日突然

目に入り


思い返せば

短くもない

その男との

腐れ縁に

なぜかは知らんが

今初めて

心惹かれて

くれたんだろう


そして即

その足で

提案に来て

くれたと見える


もう生傷を

えぐり合うのは

止めにしよう

互いに

休戦すべき時だ--と


遅まきながら

目覚めた愛を

今こそ全部

差し出すから

過去を赦して

受け取ってくれ--と


俄かには

信じがたい

オファーまでも

耳にした


世辞のひとつも

甘え言葉も

魂胆もなく

口にはしない

勝気な君だ


だからこそ

その必死な形相で

噛みつきそうな勢いで

まばたきもせず

力説されたら


それが

嘘ではないことぐらい

俺には判る


だがしかし

自分で自分に

下した負けの

宣告を

君のオファーで

これ幸いと

撤回するほど

俺も図々しくはない


それ以前に


この10年の

愛憎劇を

「なかったことに」と

一瞬で

笑い飛ばして


心機一転

臆面もなく

再び

愛を乞えるほど


君に惚れ込む

傍らで

気力を残す

余裕はなかった

嘘じゃない


それほど俺は

死に物狂いで

惚れてたんだよ

スカーレット


君に頼る

肉親たちを

女独りの

肩に背負って


数多の男が

屈してくじけた

戦後の廃墟の

地獄から

貪欲に

がむしゃらに

立ち上がった君


直情径行

猪突猛進

女だてらに 

商才に長け


しかし


ときに突然

顔のぞかせる

母親譲りの良心に

驚き

慌てて

まごついた

うぶで

奥手な

幼い少女


賭けたっていい


君みたいな

稀有な女が

この先10年 

いや50年

この国に

現れるとは思えない


そんな

剛毅で愉快な女を

あらん限りの

力を以て

愛したことを


自慢にもならん

我が人生の

唯一に近い

誇りとしながら


この10年

広げつづけた

両腕を


しびれきって

下ろし方すら

半ば忘れた

この両腕を


今は静かに

下ろしたい


そして

ひとまず

退散したい



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