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8 一陣の風


スカーレット


守ってやりたい

愛しいものを

守ってやれる

機会さえ

自分にはないと

悟ったら

人間

何を思うと思う?


己の全てを

投げ出してでも

守ってやりたい

愛しい女が


自分を求めて

くれることなど

未来永劫

ありえないと

観念せざるを

得なくなったら


当の男は 

自分の心に

どう折り合いを

つけると思う?


他の男は

いざ知らず

俺に関して

白状するなら


恨みつらみは

一切言わずに

去ろうと決めた


信じてくれと

言ったって

おいそれとは

無理かもしれんが


ボニーを

神に託した

あの日


あの

葬式の日


俺の中に

一陣の風が

吹いたんだ


予期せぬ

しかし

確かな風だった


ボニーが俺に

最後の別れを

言って

通ったのかもしれん


余りに早く

召されたあの子が

天国へ行く

道すがら


もうそろそろ

潮時だと

哀れな父を

慰めてくれたのかもしれん


だが何にせよ

風に吹かれて


あのとき不思議と

肩からひとつ

荷を下ろした気に

なれたんだ


やるだけのことは

やった


だからこそ

君に負けたと

自分で自分に

言って聞かせて

悔いはなかった


以て

瞑すべしだ


それなのに 

アフロディーテの

女神ときたら

きまぐれにも

程がある


俺が白旗

掲げたのと

ほとんど時を

同じくして


まさか君の

10年越しの

化け物みたいな

憑き物が

こうもたやすく

剥れ落ちて

しまおうなんて

誰が想像しただろう


10年という歳月が

長いか

あるいは短いか

さしあたっては

措くとしてもだ


1人の男が

10年かけて

人として

およそ取り得る

ありとあらゆる

手段を以て

してもなお

太刀打ちなど

かなわなかった

君の頑固な

憑き物が


アシュレ君への

君の

渾身の執着が


よもや

今さら

こうもあえなく

消え失せて

しまおうとは


いったい

何があったんだ?


月と見えた

はずのものが

あに図らんや

月じゃなかった?


それとも月は

仰ぎ見てこそ麗しと

今ごろ

得心がいったのか?


あるいは


よそう


俺にはもう

どっちにしたって 

大差ないこと


俺もまた

君という

求めるべくもない月を

欲しがったんだ

お互いさまだ

   

それより

一言言わせてほしい


今の君は

断じて

いつもの

君らしくない


敗者だと

自認している

俺から見たって

今の君は

とてもじゃないが

勝者には見えん


おろおろと泣き

取り乱し

ましてや俺に

男に向かって 

赦しを乞うなど


君という女にして

何たる体たらく


土壇場で

息の根を

止められかかって

なお昂然と

上を向く

いつもの君は

いったいどこに

隠れちまった? 


いや

君を責めてる

わけじゃない


君も俺も

見方によっちゃあ

痛み分けなのかもしれんと

言いたいんだ


であればこそ

敗者が敗者を

責めるなど

なおさら道理も

通るまい


恨みつらみなんか

君に言えた

義理じゃあないよ



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