第五話『布と宿』
第五話です。
ふと見ると、総合PVが六万五千を軽く突破してました。
びっくりです。そしてとても嬉しかったです。この作品を目に留めてくださった方々には感謝してもしきれません。本当にありがとうございます。
それと、その内外伝書きます。内容は主に作品開始以前の主人公のコメディ物になる予定です。コメディは初の試みになりますので遅くなると思います。出たらご意見など厳しくバシバシお願いします。
リーズライロはまず中心に城があり、そこから時計と同じように十二本の大通りが伸びている。その大通りをおよそ五百メートル毎に環状の道が繋ぎ、さらにそれを細かい路地が繋ぐ。あとは、そうやって分けられた土地に整然と建物を並べて行けば、円の弧の部分に大通りへ繋がる門を付けた城壁を置いで完成となる。
俺達は、そんなリーズライロの七番目の通り――――《午通り》にある個人経営の小さめな宿にいた。
「――――んむ。じゃあ、私達は異世界に、あむ、来たって言いたいのね?」
「とりあえず、その可能性が現状では最も高い、といのが俺の考えだ。まあ、それがどういった理屈で、どういった原因によって起きたのか、という仮説までは立ってないけど」
宿の食堂で食事を取りながら俺達は会話をしている。ちなみに、この食事と宿に泊まる代金は今日森で得たドロップ品を売ったお金で払った。
アルタベガルは良くあるようなモンスターを倒すとお金を落とす方式ではなく、モンスターを倒した際に手に入るアイテムを売り払ってお金を手に入れる方式だ。ゴミ同然の代物からレアな素材まで幅は広いが、全てを売ればチリも積もれば山になるように、かなりのお金となってくれた。
あと、この際にアルタベガルとこの世界の貨幣が同じだった事が分かった。それは同時にこの世界で生きるに限っては莫大な資産を手にした事を意味する。
本当に必要な場面でなければ、大金を見せびらかすような真似は控えるべきだろう。
「異世界とかどこぞのマンガや小説じゃあるまいし、信じられないわね。あ、これおいしい。まあ、オカルト的な事が起きてるっぽいのは事実だし、確かネットの都市伝説にもそんな話があった気がするけど、実際問題として証拠が何もないじゃない」
「状況証拠で良いならいくらでも出てくるんだけどな。ギルドマスターが違ってるとか決闘の申し込み方法がゲームと全く違うとか。これが完全に知らない世界ならともかく、思いっきりアルタベガルの世界そのままだからな。信じ難いのは分かるけど、信じてもらわなきゃ話が先に進まない」
「正直、進ませたくないんだけど、聞かなきゃ駄目なの?」
可愛らしく上目遣いに言って来るが、これでも長い付き合いだ。俺はやれやれとため息をついて却下する。
「駄目だ。これがバグやイベントなら何の問題も無い。というより、無かった。だけど、もう本来の晩飯の時間も過ぎてる。俺の家は飯の時間には厳しいからな。ミーナの家がどうかは知らないが、飯の時間に降りて行かなかったらギアを無理矢理剥ぎ取られる。だから、すでに普通と言える状況は過ぎてるんだ」
毎日夜六時に揃って食事を取る。これは、俺がまだ幼稚園に通っていた頃に母が決めた絶対の規律だ。父ですら例外でないこの決まりを一人でも破れば翌日一日食事抜きになる。そのため、誰かが忘れるようなら他の家族が必ず強制連行する。俺の場合は妹か父が連れに来る。
それが起きていない時点で、俺にとってこの世界がゲームだという可能性はほぼゼロになった。
「最低でも、接続関係のバグやゲーム自体のバグではありえない。もっとオカルトの領域に踏み込んだ現象が起きてる。現実逃避している間に助かるなんて可能性はほぼゼロだよ。それこそ、奇跡が起こる事にでも期待するしかない」
「私としては夢オチ希望ね。厄介事に巻き込まれるのはリンだけにして欲しいわ」
「いや、俺だってそんな厄介事に巻き込まれてばっかりは――――――してるかもしれないな」
今日だけでも森でモンスタートレインに遭遇してその後東門前に正座で晒し者になり、気障男から決闘を申し込まれてギルドカードの関係でギルドマスターと面倒極まりない交渉をする破目になった。それに、仮説が正しいなら異世界トリップまでしてるし。
そうじゃなくても仲間という仲間が全員個性的で、割かし常識人側の俺は纏めるのに苦労させられている。いや、いつも一緒にいる訳ではないのだが、一度集まると集まっていなかった分だとでも言わん限りに巨大過ぎる騒ぎを起こす。そして、運営にきちんと押さえておくようにと俺が怒られるのだ。
一人なら、いや、一人でいる時も割とPKだの恐喝だのと面倒事にぶつかっているような。
……考えないようにしよう。
「とにかく、現状じゃ外からの救出なんて考えられない。なら、自分で動くしかないだろ。これがイベントなら、クリア条件はリアル世界への帰還。クエストなら難易度SSSクラスだな。確実に対神戦闘級に厄介なイベントだ」
「ま、そう考えるのが一番楽か。で、クリアのためのフラグは分かってるの?」
「一番簡単なのは神々に会うことだな。出てくるモンスターの最低レベルが一万の《神原域》を旅する事になるが、この世界で最高峰の存在なんだから、可能性としては一番だろう」
「逆に言えば、神でも不可能なら私達では絶対に無理というレベルの事象という事になってしまいますね」
スイがもっともな事を言う。実際、始祖も精霊も神より数段下の存在だ。
プレイヤーの場合、人の最高レベルが二千と言っても、初期種族から上位種族、最上位種族になる際にはステータスを引き継いでレベル一になるから、俺やミーナはレベル六千相当のステータスがある。
だが、神は素で云十万というレベルなのだ。モンスターでも最高で一万から二万なのに、神は普通に最弱でも十万のレベルがある。ゲームのシステム上敵対する相手ではないが、プレイヤーでもダメージを与えられない絶対的存在だ。自身の十倍のレベルの相手までなら、きちんと装備を整えれば攻撃も通る。だが、神は違う。アルタベガル世界で、攻撃力特化で単発なら最強のプレイヤーが全力の一撃を叩き込み、無傷だったという伝説を持っている。
そんな怪物に不可能なら、たとえ人が一丸になって掛かろうとも不可能な話という事になる。
「まあ、実際にこうしてこっちに来ている以上、帰る方法も確かにあるはずなんだけどね。そうじゃなきゃ、そもそもこんな状況に陥る事自体ありえない事になるし」
言いながら、空になった皿を脇に積み上げる。それから話を続けようとした所で、積んだ皿を持ち上げた給仕の少女が肩に手を置いてきた。別に美少女とまでは行かないが、藍色の給仕服は質素ながらもデザインに凝っていて、クリッとした目元や束ねて上げている金髪が愛嬌ある顔を際立たせている。
彼女は俺が顔を向けて見上げると、とてもいい笑顔をして
「後が詰まってるから何も頼まないならさっさと空けてね?」
と言って去っていった。あの細い腕のどこに山積みになった皿を片手で持つ腕力があるのか気になったが、言われた事はもっともな事なので席を立って二階の奥に取った俺の部屋に向かう。スイがいる都合上、ミーナの部屋よりも俺の部屋の方が若干広いからだ。
「で、異世界だっていうのはいいとして、明日の決闘が終わったら神原域に行くの?」
ミーナがベッドに腰掛けて足をぶらぶらさせながら聞いて来る。確かに神原域に行くのは最短だが、俺は首を振って否定した。それにしても、外見小学生の少女と成人間近の男が真剣に会話する光景とか、傍から見たらかなりシュールな光景だよな。
「いや、最初はユグドラシルの方に行く。そっちには確か巨大な図書館があったはずだ。スイ、なんていう名前か分かるか?」
「《大賢図書館》ですね。設定では世界中の書籍が集められているという事です。クエストにも、貴重な本が盗まれたから取り返して欲しい、という物があります。報酬はA級の魔道書ですね。炎系上位魔術《紅蓮の炎槍》を覚えるための物です。リンはモンスタードロップで手に入れましたから、このクエストは受けていませんね」
「あー。報酬が魔道書の奴って、別途で手に入れたら受注できなくなるからな。ていうか、そのクエストのためだけに図書館作ったのか? 開発陣営の頭の中身が見てみたくなるな」
「当然、それだけではありませんよ。図書館内にはモンスターの生態を書いた本や風景百選など、様々な本が置いてあって、一定条件を満たせば各国の重要施設やダンジョンの地図なども閲覧できるのです」
「あー、念入りに準備する人のための施設って事か」
アルタベガルでは自身の得たダンジョンなどの地図を受け渡す事ができないから、どのダンジョンも初攻略はまっさらな状態で挑まなければならない。だが、事前に地図を確認できれば成功率が一気に上がるだろう。まあ、そんな場所がある事自体、俺は初めて知った訳だが。
「ん? という事は、表側には魔道書関係は置いてないのか? 書庫に仕舞ってあるとか」
「いえ、ガラスで区切られた区画があって、そこに纏めてあります。入るためには許可がいるという事で、プレイヤーが立ち入る事はできませんでしたが、レベルと種族を明かせば、許可は簡単に降りるはずです」
「やっぱり、《始祖》っていうのは特別よね。条件が神原域の全ての神から依頼を受けて達成しなきゃいけないし、掲示板じゃ鬼畜なんて言われるぐらい高難易度だったものね。能力が高いって言っても、他の最上位種族より半歩秀でてるだけだし、結局、始祖になったのって古参でも数人だけよね」
「他の上位種族は割と溢れてたけどな」
ミーナの言葉に苦笑しつつ頷く。最上位種族になるための条件はレベルと後はせいぜいS級のレアアイテムを手に入れたり、キーモンスターを倒す事だが、他の最上位種族はせいぜい一つ二つの条件しかない。
例えば、割とよく居る魔法関係に多大な補正の掛かる《魔神》(体が半分悪魔の種族。似た最上位種族に半精霊族がいる)になるためには、魔法関係のスキルを全て覚え、ニヴルヘイムの北西にある《闇の倉》でアズモデウスを筆頭としたレベル一万の悪魔を倒す必要がある。
一見これも十分鬼畜に思えるが、魔法スキル関係はプレイヤーが後から創った物は含まないし、一万と言ってもパーティで挑めば倒せない相手ではないのでそれほど難しくは無い。
だが、始祖は全く違うのだ。
まず、パーティ禁止なので単独で挑まなければならない。それなのに条件となるクエストは全て神原域でこなす物――――つまり、最低一万のモンスターが出てくる神原域を放浪しなければならないのだ。一万と言えば、本来はダンジョン最奥で待ち受けるボスモンスターのレベルだ。
これだけでも鬼畜なのに、ランダムで選ばれるクエストの内容が神原域のモンスターからドロップするアイテムを複数入手だったり、レベル二万の龍を殺す事だったりと心身ともに追い詰められるようなクエストばかりだ。
もし、途中で神原域を出たらやり直しとかだったら一人として存在しない種族だっただろう。
「ていうか、あれだけ人を追い詰めるような条件だったのに、扱いが他と同列だったらやってられないだろ」
「あー、私は割りと楽な方のクエストだったけど、リンはかなりやばかったんだっけ?」
「一番簡単だったのが【フェンリル二十頭討伐】だ。夏休みで休憩入れて三日潰したぞ」
俺のこなしたクエストを聞いて、ミーナの顔が引き攣った。実際、ミーナがこなしたのはダンジョンの奥にあるアイテムの取得が主で、討伐系は二度くらいしかやっていないらしい。AIの件もあるし、確実に人を見てクエストを選んでると思う。神共、俺がクエスト終わらせて行ったら驚いてたし。
「話戻すけど、死んだらどうなるかも分からないのに危険地帯を歩くなんてやってられないし、可能なら神原域に行くのは最後の手段にしたいんだが、二人はどう思う?」
「私は構わないと思います。リスクに対して確実にリターンがあるとは限りません。私は不定形で死という概念がありませんが、始祖とはいえ元々不死でもないリンとミーナは違いますから。死んだら最後に寄った王都で復活するなら、初めから最短ルートを推奨しますけどね」
「ミーナは?」
「もちろん賛成するわ。人相手なら負ける道理は無いし、神原域なんて、ゲームでもそう何度も行きたい場所じゃないし。あんな所、必要でもないのに行くのはマゾだけよ」
酷い暴言を吐いてベッドに倒れこむ。ウェーブの掛かった髪がぐしゃっとなって広がるが気にした素振りも見せない。まあ、そんな事を気にする奴が戦闘が主のゲームなんてやらないか。
「はぁ。ま、とりあえず方針は決まったな。明日、ギルドマスターに話を付けたら準備をして、明後日の昼に出よう。昼に出れば、夕方までには森を抜けて安全地帯まで行けるだろ」
とりあえずの方針を決め、俺は部屋の脇にある椅子に腰を下ろす。体を起こしたミーナの髪をスイが梳くのを眺めながら、明日の面倒事を頭から追いった。
それから他の宿泊客が寝静まるまで、俺達は他愛も無い雑談を交わして夜の時間を過ごした。
宿屋です。今後の仮方針が決定です。予定通りになんか進ませませんが。
半血種に加えてさらに新しい種族が出てきました。魔神とか、内容的にかなり反倫理的です。半精霊族とかいうのも禁忌の匂いがむんむんとしてます。
というか、最初に書いた全種族を出すという目標がどんどん遠のいていってます。半血種の設定だけでフルマラソン並の厳しさなのに、新種族とか自分で自分の首を絞めてますよね。
これでもし物語の中で出せなかった種族が出た場合は、外伝で出せるように努力します。
では、また後日お会いしましょう。