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第二話『布と鬼の森』

二話目です。まだ話数が全く無いのにお気に入り登録してくれた人がいました。

とても嬉しいです。ありがとうございます。

期待に答えられるように全力を尽くしますので、よろしくお願いします。

 テントを片付け、古い仲間と会う事を考慮して装備を変えた俺は、スイと共に《リーズライロ》へと向かって歩いていた。《鬼の森》は初心者用のダンジョンとしてはかなり広大で、マップを見ながら歩いておよそ五十分は掛かる。待ち合わせ場所は街の入り口なので、歩いても十分に間に合う。

 

 「今回のクエストはかなり時間がかかったからな。もしこれで時間に遅れたりしたら、精神的に殺される事は間違いないな」

 「レベル千五百の真祖が相手でしたから、仕方がありません。いくらリンが二度の転生をして上限の二千レベルまで上げても、ただでさえHPの高い吸血鬼の上位種を相手にすれば、時間が掛かるのは当然ですよ」


 スイが言ったように、昨日から遠出していた理由は真祖と呼ばれる吸血鬼の上位種を討伐するクエストを受けたからだ。吸血鬼はプレイヤーも選択できるが、《半血種ハーフ・シード》と呼ばれる特殊条件種族の一つに分類されている。

 半血種というのは、違う種族のプレイヤー同士がシステム上で結婚し、どこかの国で出生届を提出。その後、《エンドレス》地下千階以降に出現する《祖父神クロノス》の腹部を破壊する事でキャラクターメイキングに追加される高難易度の種族だ。ちなみに、クロノスそのものは強過ぎて攻略など不可能だ。

 そして、エンドレスは階数と適性レベルが同数なので、転生をするためには最低でも千レベルまで達している必要がある。この難条件のせいで、わざわざそこまで育てたキャラを捨てて、一レベルの半血種に乗り換えるプレイヤーは極僅かしか存在していない。

 さらに、同じ冥霊族と魔族でも、その種族の中でさらに複数の種に別れているため、同じ半血種はいないと言っても過言ではないだろう。NPCなら意外と見かけるのだが、まずなるのが難しく、レベルが上がりにくい上に上位種への転生条件が全種族共通となっている最高位種族に次いで難易度が高いので、プレイヤーからは常々敬遠されている種族だ。

 今回は、そんな半血種である吸血鬼、その上位種である真祖と正面から殴り合って来たのだ。しかし、真祖の思わぬHPの多さと自然回復力の高さに恐ろしく時間を取られた。個人的に言わせて貰えば、的が小さくて動きが小刻みな分、天狼やドラゴンバードのような単純に速い奴らよりよほど厄介だった。


 「あれはきつかったな。見た目すぐに回復するから本当に効いてるのか分からないし、焦りすら見せないから精神的に来るものがあった。まあ、実際は向こうのやせ我慢だった訳だけどな」


 それでも、二千レベルのそれも最上級種族の一つである《始祖しそ》の一撃を受けて平然と立たれると堪える。これが闇龍だったなら怒りの咆哮を上げるし、神々の場合は感心したような顔を見せる。全くの無反応だったのは、レベル差のせいで攻撃がほとんど通らなかった時を除けば今回が初めてだった。

 そんな俺の言葉に、スイも肯定してくれる。


 「確かに、あれは少々ゲームとしては不適切なクエストでした。ゲームは楽しむものであって精神的苦痛を伴うものではありません。街に戻ってミーナと合流したら、GMに抗議メールを送りましょう」

 「いや、とりあえず抗議はミーナと別れてからにしよう。あいつにそんな話を知られたら、確実にGMの人が可哀想な事になる。そうなったら、俺が居た堪れない」

 「いいじゃないですか。ミーナさんのクレーマーも真っ青なクレーム技術で一度日本海溝よりも深く反省すべきです。だいたい、調子に乗ってクエスト自動生成機能なんて拡張するからこんな事になるんです。私達AIの情報処理だけで最新のサーバーを八つも潰しているんですよ。正気を疑います」


 とりあえず、ゲームの中なのにリアルな事情など知りたくなかった。


 「というか、なんでゲーム内のAIのスイがそんな事情知ってるのさ」

 「内側からハッキングしました。毎日リンを待つ時間がすごく暇なんです」


 疑問を呈すと、犯罪の自供が取れた。というか、身内というか自分達の作ったプログラムからハッキングされる運営ってどうなんだ。いや、そもそもAIとはいえプログラムが自己判断でハッキングに走る事自体普通じゃないんだが、スイがおかしいのはいつもの事なのであまり気にしてはいけない。


 「あー、スイ。そういう危険な事はやめてくれ。そんな事でスイが抹消されたら俺が困る」


 ようやく上位プレイヤーと同等の所まで成長した相棒が消えるのは、精神的にも実利的にも色々と困るので自重願ったら、スイは何故か顔を赤くしてクネクネと腰をくねらせている。バグか?


 「おーい、どう―――」

 「……うふふ。そうですよね。リンには私がいないと駄目ですよね。ふふ♪」

 「………」


 顔の前で手を振ろうとして、聞こえてきた言葉にどう反応すればいいのか分からず口を閉ざす。なんていうか、非常に声が掛けづらくなってしまい、最終的に何も見ず、聞かなかった事にした。

 とりあえずスイが元に戻るまで待とう。


 「はぁ……どうしてこんな性格になっちゃったかな。初めて会った時はこんな性格じゃなくて、もっと従順で大人しかったのに。矯正とかはやっぱり無理―――――ん?」


 精霊王のピアスを手に入れた頃の事を思い出し嘆いていた所、スキル《自動索敵オートサーチ》にプレイヤーらしき反応があった。場所は今いる場所の後方、鬼の森の奥からかなりの速度で走ってきている。

 何か急ぎの用でもあるのだろうか、等と思いマップにそのプレイヤーの点を投影する。もし走行コースに立っていたら、視界が悪い事も相まって正面衝突しかねない。その場合、相手が低レベルだったとしたらそれだけで死ぬ可能性だってある。


 「微妙に被ってるな。スイ、少し横に移動す、る………」


 スイに声を掛けながら、視界に表示されたマップの変化に声を失った。

 何故なら、こちらへと駆けて来ているプレイヤーの背後に、膨大としか表現できない数のエネミーが表示されたからだ。

 しかも、続々と表示されるエネミーは全く数が減らない。一瞬頭にMPKという単語を思い浮かべたのが馬鹿らしくなる数だ。ここは初心者用のダンジョンで、そうなるとその悪質な行為のターゲットは初心者という事になるが、ここまで集めるような手間を掛けるのはありえない。せいぜい二十、三十が限度だ。

 中級まで行けば、数を揃えられてもこの森のモンスターなら、時間は掛かるが問題なく倒せる。


 「……何がやりたいのか全く分からん。まあ、他の初心者プレイヤーになすり付けられても困るし、俺達で倒すしかないか。……スイ、いい加減元に戻れ」


 未だにクネクネしていたスイを叩いて戻し、周囲を見渡す。道も何も無い森の中なので、当たり前のように木々が邪魔になって動きに阻害が出そうだ。スイに視線で合図すると、意図を理解したのだろう。すぐに自身の右手へと空気中の水を集める。

 集まった水は細長い四角錐を逆さにして底辺に縦長のクリスタルを乗せた形になると一瞬で凍り付き、砕け散った。かと思ったら、スイの手には紅紫あかむらさきの宝玉を乗せた美しい純白の杖が収まっている。《氷龍サイサレル》の角と《恋龍の涙(ピラトゥス・ティアー)》を組み合わせた水氷系魔法杖の上位武装、《氷龍の角杖サイサレル・スタッフ》だ。


 「【秋過ぎて冬となり霜降りる。空は冷たき吐息を大地へ吹きかけ凍った涙を落とす。厚き雲は陽光を遮り長い夜の帳を地へ下ろす。あらゆる全ては冷たき中へと閉ざされ須らく絶対の凍結に至った】氷結による終焉をもたらせ、【絶対なる氷結世界コキュートス・レプリカ】」


 長い詠唱によって発動したのは広域殲滅用の水魔法だ。威力は上の下で、上にはあと三つの広域殲滅魔法が存在するが、今回は別に威力が必要なのではなく、その副次効果――フィールドの凍結が必要だったのだ。

 それに続けて、俺は大地神ガイア混沌杖カオス・スティックに高純度の《雷石》をセット、魔法を発動させる。


 「【雷神の怒りよ、万の牙で穿ち噛み砕け】あらゆる全てに破滅の鉄槌を【万雷の鉄槌(ライトニング・エンド)】」


 最初の詠唱が魔法の指定、次が発動キーとなっている詠唱だ。最上級の雷系広域殲滅魔法が周囲一帯の木々を粉砕する。こういったオブジェクトは一度凍らせると割かし簡単に塵と出来るから楽だ。そのままでも破壊できたが、一定確率で周囲が火の海になるのでやらない。

 そうして出来た、あちこちに拳大から大きいのは子供くらいの大きさの氷が転がる広場に、誰かに連れられたモンスターの群れが近付いてくる。

 距離が近くなってくると、プレイヤーが何か叫んでいるのが聞こえてきた。


 「――――――きゃー! いやぁ! 来ないでぇー!」


 金切り声を上げながら姿を現したのは、中級装備で固めた少女だった。上から《羽竜フェザードラゴンの兜》《羽竜の鎧》《羽竜の帷子》《羽竜の手甲》《羽竜の腰当》《羽竜の脚甲》と、見た目のふんわりした華やかさに反して防御力の高い羽竜装備で揃えているにも関わらず、何故か剣は細身のレイピア。

 オーク鬼やゴブリン等が相手ならあれで十分かもしれないが、竜相手にレイピアはありえない。怪訝に思って使った《個体識別パーソナルサーチ》の結果を見て、ああ、と納得した。

 少女のレベルは十五という駆け出し中の駆け出しのレベルで、本来なら草原でスライムやジャイアントアント、ホーンラビットなどを相手にしているべきレベルだったからだ。おそらく、中級層のプレイヤーがやめる時か、上位の武具を手に入れた際に譲ってもらい、気が大きくなってしまったのだろう。

 何にせよ、このまま放置するのは色々な意味でまずいし、困っている人がいれば助けるのがMMOの基本だと俺は思っている。故に、天刀を抜き放って戦場となるべき広場へと一歩踏み出した。


 「後ろの奴らは俺達が引き受ける! お前はそのまま駆け抜けろ!」


 そう声を掛け、俺は高レベルから来る高いAGIに任せてすれ違うように駆け抜ける。そのまま後ろを振り返る事無く直走ひたはしり、森から溢れるように出てきたオーク鬼やウェアウルフ、雷蛇、果ては滅多に出ない事で有名なレッドキャップを一振りで十数体を一度に斬り飛ばし屠っていく。

 もちろん、いくら強力な神具級の武器といえども、一振りの範囲に入れられる数は本来五体が最大数だろう。だが、天刀はただ耐久値無限で命中率補正が掛かるだけではない。その程度なら上位装備にいくらでもあるし、攻撃力だけでは神具級などとは呼べない。

 

 天刀限定スキル《絶対斬撃領域ワン・ターゲット

 

 一振りで一定範囲に存在する敵全てに一撃加える特殊スキルだ。無論、命中率の関係で外す事もあるが、千もレベル差のある相手なら百パーセントで当たる。天刀の命中率補正もあるので、千二百の敵までならば一撃必中だ。

 つまり、俺の攻撃範囲にいる限りはこいつらに生還の道は無い。

 そんな雑魚に対しては凶悪極まる武装に加え、俺は囮スキル《挑発》を使用してターゲットを無理矢理こちらへと向けさせる。あぶれたのはスイが対処してくれるだろうから、それらはいさぎよく諦めて、こちらに来るモンスターを屠るのに集中する。

 しかし、物理攻撃でチマチマと削っていてもモンスターどもは一向に減る気配を見せない。あのニュービーは一体どれだけの数引っ張って(トレインして)来たんだと心底呆れ果てる。それこそ、森中のモンスターを引っ掛けて来なければここまでにはならないだろう。

 五分以上機械的に葬り続けてそれでも沸いて来るエネミー反応にウンザリした俺は、体術スキル《震脚》で周囲一体のモンスターの動きを止めて混沌杖を引っ張り出した。すぐさまそこに翡翠に似た風石をセットして、片手で持った天刀を使い牽制しつつ短期詠唱を行う。


 「【風よ。我を目に渦巻き全てを斬り刻め】【渦巻き死を撒く大鎌デスサイス・トルネード】!」


 これは最上級の広域殲滅用風魔法の一つで、術者を中心にだいたい百メートルほどを鎌鼬カマイタチの竜巻が多い尽くす凶悪な呪文で、術者以外は味方であっても多大なダメージを負うソロ専用とも言える魔法だ。

 発動中にも俺は挑発をさらに広範囲に向けて行い、釣られたモンスターは例外なく真空の刃によって摩り下ろされる結果を迎える。下級モンスターの群れに対して、自身を中心とした広範囲殲滅魔法+高レベル者の挑発はかなり鬼畜な組み合わせだ。今は非常事態なので遠慮なく使うが。

 しかし、そんな鬼畜技を使っても一割も減らないというのはいかがな物か。ようやく索敵範囲ギリギリに群れの最後尾が見えるかどうかという状態になったが、最高レベルである俺の索敵範囲は小さなダンジョンなら中心に立つ事で全て覆えるほどに広くなっているのだから、終わりなどまだまだ先だと良く分かる。


 「あー。少なくともあと十分は掛かるな」


 せめてあと一人、殲滅しながら群れの中へ突っ込んで潰していけるレベルの者がいれば違うのだが、いないものは仕方が無い。あの少女が使い物になれば――――――こんな面倒な事態にはなってないな。

 HPMP的には超余裕、しかし精神的にはきつ過ぎる単純作業の中、俺は思う。


 (できる事なら投げ出したいな、これ)


 無論、このような明らかにヤバイ事態を見なかった事にする度胸が俺にあるはずも無く、逃走という選択肢を抱えたまま、俺は刀と魔法を駆使して、スイの援護を受けながらオーク鬼を中心としたモンスターの巨大な群れを殲滅し続けた。

 全部雑魚で無双状態とはいえ、もう二度とこんな事はしたくない。

一応ヒロイン候補その一(?)が出てきました。次話で名前とか出ます。

スイの杖は氷龍サイサレル恋龍ピラトゥスの最強種二体を倒さなければ作れないかなりのレア武器です。主人公がスイのために苦労して材料を調達した物だったりします。しかも、屋敷が買えるだけのお金が掛かってます。

そしてリンセイルの大地神ガイア混沌杖カオス・スティックですが、完全な詠唱破棄をしてしまうと、発動する魔法の指定が出来ないので今回のような形になりました。正直、あの短さで最上級魔法はありえないですね。

次の話で、混沌杖の欠点も上げますので、チートなのは流して置いてください。

では、今日はこの辺りで失礼します。

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