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第二十二話『布と前座』

 『さてさてさてさて! 皆さんお待ちかね、弱っちぃなら知恵絞れ! 死ぬほど学んでいざ突撃! 楽しい楽しい無い知恵絞り! 千問解けなきゃ帰さない! クイズ《ヴェルダンディの問答地獄》!! はっじまっるよぉ~!!!』

 【【【【【【おおおおおぉぉぉぉぉ!!!!】】】】】

 

 Cの字型の観客席に囲まれた広大なホールの中、ステージに立つヴェルダンディの声に、席を埋め尽くす観客達の声が空気を揺るがす。

 初めから知っていた俺は動揺せずに、ただ響き渡る大音量に顔を顰めただけだったが、アルシャは展開についていく事ができず、面白いぐらいに混乱している。

 

 「えっ、えっ、あれ? え、なんで?」

 「とりあえず落ち着け。何が言いたいのか全く分からん」

 「いや、あの、ええと………もっとこう、厳かな問答を想像してたんですけど…………」

 「あれに厳かなんてありえないだろ。あの軽薄という言葉を人型にしたような性格を見れば、これくらいは普通に想像できる範囲内だったと思うが?」

 

 マイク片手に喋って手を叩いて観客である亡霊達を盛り上げるヴェルダンディを示し、現実を認められるようにきっぱりと言ってやる。

 ヴェルダンディは亡霊を観客にして、不必要なほどに盛り上げるしふざけ倒すが、他の二人が自嘲自虐やら電波受信やらでまともに問答が進まない事を考えると、こちらは早く進む上にきちんと会話のキャッチボールが出来る分遥かにマシな相手だ。

 ………まあ、たまに人“で”遊ぶ事を我慢できれば、だが。それが無理なら他はもっと無理だろう。

 その旨を話してやると、アルシャはガックリと肩を落として大きくため息を吐いた。

 

 「さすがに死者を観客にクイズショーをするなんて想像できません。非常識です」

 「ここに限っては非常識こそが常識だ。慣れろとは言わん。諦めろ」

 「ここで諦めると済し崩しに取り返しの付かない所まで慣らさせられるような気がします」

 「安心しろ。ここで諦めなくてもすでに引き返すなんて不可能だ。常識的な世界から非常識な世界へと現在進行形で全力疾走の最中(さなか)だからな」

 「今すぐ引き返して父様にまともな師を付けてくれるように嘆願してきます」

 「却下。ノロノロレベルを上げていたら、それを知った馬鹿が強硬手段に出るだけだ。それに、都合良くどこの息もかかっていない人間なんているはずが無いだろう。変な事になる前に短期間でレベルを上げる。これが最善で最良。他の選択肢は無い」

 『ほらほらそこそここらこらこら。二人してイチャついてんじゃないっての! リア充に人権は無い!』

 【【【【【リア充に人権は無い!!!】】】】】

 「………ノリノリだな、おい」

 「アハハハハ、私の常識が…………」

 

 ヴェルダンディが会場を盛り上げているのを横目に話していたところ、当のヴェルダンディと亡霊達から斜め上に突っ走ったツッコミが来た。

 

 「というか、お前が一人ではしゃいでるから話してたんだろうが」

 『うっふっふ。ここまで来たからにはもはや私がルールなのよ。あんたなんて虎穴に裸で突入した兎ちゃんなんだからねっ』

 「兎は元々裸だろ。つか、戦う訳でもないんだから、んな事どうでもいいし」

 『ノリが悪い! そこは張り合うかノリツッコミしてくれないと駄目駄目だし! どれくらい駄目かというと、冒険者になるために村を出ようとした瞬間に子供からタックルされて両手両足を複雑骨折した上に剣が折れて防具がひしゃげて幼馴染の女の子に大笑いされた挙げ句、初恋のお姉さんに下の世話をされちゃってその際に「クスッ」なんてナニを見て笑われちゃったくらいに駄目駄目だ!』

 「悲惨通り越して絶望的なまでの惨劇だな、って俺はそこまで駄目か!? つうか、子供にタックルされてそこまでヤバイ状態になるような虚弱体質でよく冒険者になろうなんて考えたな、おい。その無謀さは逆に尊敬するぞ。真似は絶対にできないっていうかしないが」

 『現実とは時に激しく非情な物なのだよ………』

 「確かにそうですよね」

 「いや、アルシャも納得するな」

 「え、でも、そうじゃないですか? 幽霊の娯楽に付き合わされている辺り、とても同感だったのですけど」

 

 誰もが見惚れそうな笑顔で言われて、ついうっかり納得しそうになって首を振る。

 アルシャが毒舌になって来ている事はまずはいい。その辺りは追々、ここの用事を済ませてからゆっくりと矯正するとして、とっとと話を進めないとここで一泊していく嵌めになる。

 このハイテンション馬鹿の根城で一泊………想像すらしたくない悪夢だ。

 そうなった時はアルシャを生贄に差し出すか。

 

 「はぁ。お前の血縁もいるかもしれないんだから、そう無碍にするな。見世物になる事を我慢すれば一問に付き一レベル。今回は千まで上がるんだから、それぐらい耐えてやれ」

 『見世物なんてひどいなぁ。もっと華麗に美しくショーと言ってくれないと聞こえが悪いじゃないか。これではまるで僕が無理強いをしているように聞こえてしまう。無論、双方共に合意である事は実際に聞くまでも無い事であるし、君なりに場を盛り立てようと頑張っているのは理解するが、もう少し言葉を選んでもらえるととても嬉しいかな。まあ、久しぶりのお客さんという事で、全祠にリアルタイムで生放送な訳だけれども、これもきっと聞くまでも無く許してくれると思っているよ。許してくれなくても続行するけどね☆』

 「…………………帰ります」

 「却下だ」

 

 踵を返して帰ろうとするのを襟首を掴んで阻止し、そのまま力任せに持ち上げてクイズセットの回答者席に座らせた上で拘束魔法【縄縛の風(ウィンド・バインド)】で縛り付ける。

 手と首だけはクイズがきちんとできるように拘束しない。逆に言えば、他は一ミリたりとも動かせないレベルで完璧に拘束している。風を縄のように半物質化させる性質のせいで胸やら腰やらが強調されているような気がしないでもないが、まあ、柔らかい羽竜シリーズを使っているアルシャが悪い事にしよう。

 

 【【【【【おおおおおぉぉぉ………!!!】】】】】

 『あはははは! これはえっちぃね。若い女の子が見えない縄で縛られて恥じらっていると言うのはエロエロな中年に大好評なんじゃないかな。思ったよりも胸はちゃんとあるみたいだし、腰がしっかり括れてるから相対的に大きく見えるんだね。いや、スタイルが良いというのは女性としてはうらやむべきかもしれないけど、こんな状況下でそんな事はとてもとても言えないよ。とりあえず少年はグッジョブだ♪』

 「し、師匠っ、お願いですから外してください!!」

 「逃げないか?」

 「逃げません! というか逃げられないのは理解しましたっ!」

 「ならいいか」

 【【【【【ブーブー!!!】】】】】

 

 外野からブーイングが来たが、軽くスルーして魔法を解除する。その際に一応逃げても捕まえられるように構えていたが、アルシャは逃げるよりも体を抱き締めて身を小さくしていた。

 体の線がはっきり周囲に見えたというだけでも、恥ずかしいものなのだろうか。男には分からない話だ。

 

 「………うぅ。もうお嫁に行けません」

 「大丈夫だろう。亡霊はこのまま魂を浄化されて記憶を洗い流される。見ているのは実質俺とヴェルダンディとノルンだけだな。ああ、そういえば他の祠にも中継してるんだったか。まあ、どちらにしろ他者に知られるような事は無いから安心しろ。祠の主にとっては億年の内の一時なんて記憶するような事じゃない」

 『そうだね。超久々なお客さんという事で記憶には残るだろうけど、昔はもっともっと面白い事になったりしたりとすごかったからね。それと比べたら王女様緊縛ショーなんて瑣末だよ。少なくとも、女性なのに局部を葉っぱで覆っただけとか、薄くて体にピタッとくっ付いたスーツを着てるとか、同じ変態方向なら、衝撃的で僕ですら唖然としたような事がたくさんあるからね』

 「あはは。葉っぱと同列ですか。………死のう」

 「おい、トドメになったぞ」

 『ごめんね。わざとだから許して欲しい。もうたくさん遊んで満足したし、その()が戻ってきたらちゃんとクイズを始めるね。フォローがんばっ!』

 

 とりあえず、アルシャを引き戻す前に目の前の馬鹿を滅殺してやりたくなった。

 割と本気で。

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