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第十九話『布と転生の洞窟③』

 「……………」

 「……………」

 

 洞窟を二人で黙々と歩く。

 俺は先程の事がやはり気恥ずかしく声を掛けづらい。アルシャは、おそらく硬直して失態を犯したと思っているのだろう。お互いに言いたい事はあるはずなのだが、何となく口火を切るタイミングが見付けられない。

 だが、いつまでもこうしている訳にはいかない。

 

 「……………………なぁ、さっきの事〈ガコン〉なんだが………がこん?」

 

 意を決して話しかけた瞬間、異音が響き言葉を遮られた。

 アルシャへと振り向いた姿勢のまま、視線を下へと向けると、丁度人の足一つ分くらいの床が一段下がっており、その上に華奢な足が乗っかっている。

 

 「………アルシャ?」

 「……あぅ。ごめんなさい」

 「泣かなくていい。ただ、今度は慌てたり硬直したりっ! しないようになっ!」

 

 涙目になったアルシャを諭している最中に肉壁と化した壁の核を、右側はアイテムボックスから出したナイフでぶち抜き、もう一方は居合いで横一文字に切り裂いた。その結果として、気色悪い肉壁はただの壁へと戻る。

 最初の罠と違い、こういうタイプのトラップは核が存在するから対処は易い。

 

 「ほら、行くぞ」

 「あ、はい〈カチッ〉」

 「全力ダッシュ!」

 

 音が聞こえた瞬間に叫び、反射で走り始めたアルシャを先導するように前を走る。その背後で通路全体へと増殖していく人の物らしき腕は、さすがに相手したくない。

 そんな風に、罠の対処を拒否した事を咎めるかのように―――

 

 〈カチン〉〈ガチリ〉〈ガコン〉〈パキッ〉〈ヴォン〉〈パチン〉〈カタン〉〈ブチッ〉〈スルッ〉〈ガシャン〉〈グチャ〉〈ベキン〉〈ガキン〉〈バチン〉〈スタン〉〈ペキッ〉〈スパン〉〈ガタッ〉〈ガリッ〉〈ズゴン〉〈カチカチカチ〉〈ヴーン〉〈ガチャ〉〈ズルッ〉〈バガッ〉〈バリッ〉

 

 ―――ありえない確率でアルシャがトラップを発動させてくれました。

 もはや背後は《生》のトラップ博覧会と意っても過言ではない状態だ。トラップがさらにトラップを発動させ、その中でも動いてプレイヤー――人間に襲い掛かるタイプのトラップが人(罠?)波となってこちらへと押し寄せてきている。

 生の祠のトラップなので、その様は正視に堪えない光景。

 

 「………ありえねぇよ、もうマジでありえねぇ」

 「はうぅ、ごめんなさい!」

 「謝るなら走れ! 逃げ切るぞ!」

 

 さすがに、あの数はともかく、見た目的な理由で相手をしたくない。誰がR十八指定を受けそうなグロ外見モンスターを好んで相手するというのか。まあ、極一部のイカれた連中なら、グロかわいいとか言い出しそうだが。

 一応、アルシャの速度に合わせているために余裕がある俺は、時折背後を振り返って魔法で虐殺粉砕するのだが、圧倒的多数が通路に犇めき合っているせいで全てを殺せない。しかも、生の罠なので他者の回復を行うトラップも多く、重症でも即復活で、駄目押しとばかりに新しい罠も増えるので全く減らない。

 その上、二度程抜けた過剰回復の通路でどうも進化しているような節も見受けられる。

 特に、現在群の先頭を突っ走っている三体。それぞれ仮称して、有機的人型機械、無機的僧侶型翼竜、元素的精霊型無形体は、未だ稚拙でありつつも知性らしき物を見せ始めている。

 少なくとも、現時点でも協力して俺の魔法を防ぐ程度の知能と知性は持ち合わせているらしい。

 

 

 これを成長しきる前に叩かなければ、少々とは言えないレベルでまずい。

 

 

 レベル六千相当の始祖の攻撃を、いくら俺が近接型でさらに状況から制限を受けている状態とはいえ、防ぐ。この事実自体が、危機的状況をこれでもかと表している。

 もはや、それほどに余裕が無い。

 

 「アルシャ、大部屋に出しだい迎え撃つぞ! 準備しておけ!」

 「……はいっ…………わかり、まし…た!」

 「…………早く大部屋を見つけないとな。【彼の者癒せ】【大治癒(ハイ・ヒール)】」

 

 適度な過剰回復でアルシャの体力を回復させ、さらに先へと走る。その際に壊せる罠は全て壊すが、どうにも多過ぎる罠を全て壊せる訳じゃない。天井や壁にある罠まで全て壊せる訳でもない。

 だからこそ、後方の集団が手を付けられなくなる前に大部屋辿り着き、安堵した。

 

 

 たとえ、そこを埋め尽くすようにモンスターがいたとしても、だ。

 

 

 「ぶち抜く! 【我求むは獄の焔! 罪魔を燃やす獄炎をここに再現せよ!】【獄炎模造(ヘル・フレア)!】」

 

 ゴォ、と音を立て、しかしそんな音を置き去りにして巨大な火焔は目の前のモンスター達を蹂躙する。

 本来は魂まで燃やし尽くすという極悪な設定の魔法なのだが、ここのモンスターは魂などないお陰で気兼ねなく使える。また、一瞬で燃やし尽くして消えていくので、大部屋の中央に巨大な空間を作り上げて痕跡も残さずに消え去った。

 おそらくだが、後方にこれを放っても、ろくに燃やす事もできず終わるだろう。

 小さくため息を吐きつつも部屋の中心へと走りこみ、背後へと振り返った。その動作に合わせて膝を付き、杖を持った手を地面に当てる。

 

 「【我が身を基点とし囲いを破壊せよ】【大地波紋(アースウェーブ)】」

 

 俺から少し離れた場所が円形に揺れ、天井スレスレまで立ち上がった土砂の波が外側へと一気に襲い掛かり、部屋の出入り口を含めて粉砕する。土系の魔法では中級に位置する物で、既存の下級魔法である土波(アースウェーブ)とは、同じ読み仮名だが威力も範囲も違う。プレイヤーの一人が創った魔法だ。

 だがまあ、これも―――

 

 「………時間稼ぎにすらならなかったみたいだな」

 

 〈ドゴン〉、と土の山を一撃で吹き飛ばした三体がゆっくりと部屋へ踏み込んでくる。それに続いて入って来ようとした有象無象は、中心の人を模したモンスターが手で制した。

 最悪な事に、三対にはすでに知性や理性といった物が出来上がっているらしい。

 

 「チッ。成長が早過ぎる」

 

 明らかにこの洞窟ではありえないはずのイレギュラーに対して舌打ちすると、それに相反するかのように、〈ギチギチ〉と微笑みを浮かべた。

 そして、その口から美しいソプラノを響かせる。

 

 

 「そうでしょうか。我々が知を得たのは僥倖ではありませんか?」

 

 

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