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第十七話『布と転生の洞窟①』

 ダンジョン『転生の洞窟』の中は意外と明るい。

 その理由は周囲に浮かぶ人魂だ。封印の岩が洞窟を塞いでいるために中へ光がはいる事はないのだが、薄らぼんやりと仄かに発光する実体の無い球体が、ふらふらゆらゆらと漂いながらゆっくりと奥へ向かって進んで行く。しかしそれも、ある一定の場所から分岐し始める洞窟のあちこちへと別れていき、先は見通せない。

 懐から精霊の守護符を出してみれば、それはぼんやりと光を放っている。この守護符が、周辺の人魂やそれが発する霊気に当てられるのを防いでくれているのだ。だからこそ、道の端で人魂を興味深く観察しているアルシャのような只人でも平然としていられる。

 もしこれが無ければ、始祖である俺はともかく、アルシャは霊気に当てられて狂うか、そうでなくともまともに動く事すら出来ないだろう。無論、設定上の話で、ゲームでは一部種族を除いて行動不能に陥るだけだ。

 

 ダンジョンの真っ只中で。

 

 そうなる理由は、隠しパラメータである瘴気汚染値という物があり、それが一定以上になると突然の行動不能状態――俗に言う“()てられた”という状態になるためだ。これは、必要パラメータを満たした上で、必須アイテムを消費する浄化魔法を使えば持ち直せる。

 もちろん、俺もそれは使えるが、それらは本来、強力だけど呪いがヤバイ装備や、防御力自体は低いけど、吐き出す瘴気で敵本体を攻撃できなくなった場合のために神官や巫女として生きていた者達が開発した魔法だ。その種類は多種多様に渡る上、各種宗教を参考にしているために割とマイナス要因も多い。

 正直、呪いの装備は装備するなという話であり、そういった呪いを使うエネミーは、祠と同じマイナスパラメータと知られて以来、精霊の守護符を使って挑むのが普通になっているため、需要はもうゼロに近い。

 精霊の守護符も性能の高低があったため、需要が完全に無くなる事は無かったため、苦労は報われたのだろう。

 

 「まあ、そんな理由があって、守護符っていうのはここでは必須になる訳だ。それ無しで行きたいなら、人なら最低でも仙人や半精霊になるぐらいは必要だ。どっちも生半可な苦労じゃなれないから、素直に守護符を使っておきましょう、っていう話だな」

 「あの、魔法でその、瘴気汚染、ですか? それを防げなかったんですか?」

 「いや、できた。できたんだが、その為には継続的に一定量の魔力を消費したんだ。瘴気に侵された土地っていうのは、基本的に強力なモンスターがいる。そんな場所で継続的に魔力を使い続けるっていうのは、魔法という万能に近い武器を手放すと同義だ。だから、結局使わなくなったんだよ」

 

 初期種族ではその魔法を二千レベルでようやく最低ラインで使えるくらいで、上位種族では十全に魔法を使うために使用せず、最上位種族ではそもそも大抵の種族が瘴気汚染自体受け付けなかった。

 そもそも、精霊の守護符自体は十二分に流通していたため、需要自体無かったのだ。それでも開発したのが極一部の酔狂な開発者集団だったが、彼ら自身が“作った”という事実に満足して広めようとしなかったのもある。

 

 「さて、無駄話はこれまでにして先へ進むぞ。ここは変容型迷宮だ。可能な限り早く突破する」

 「変容型………つまり、迷宮の形が変わるという事ですか。可能な限り早くという事は、時間経過で変容するって事ですよね。なんで、死者が生まれ変わるための神聖な場所がそんな事になっているんですか」

 「暇潰しだそうだ。ここの管理者が退屈な転生作業の片手間に形を変えて遊んでるんだと。少なくとも、俺が聞いたのはそういう理由だ」

 

 変容型迷宮というのは、時間経過、もしくは条件を満たす度、無限に変化、変容するダンジョンの事だ。割と良く知られているのは、不○議のダンジョンだろうか。未だに根強い人気を誇るシリーズで、VRでも一度タイトルを出したらしいが、ターン制等、いくつか仕様の変更を余儀なくされたらしく、人気が出たという話はついぞ聞かなかった。

 そんな悲しい話もあるが、毎回変容するために飽きないという一点から、今ではおおよそダンジョンが出てくる大抵のゲームに必須のシステムとなっている。

 例に漏れず、アルタベガルでもこの形式のダンジョンはよくあるが、さすがにAIの暇潰しと気紛れで変化するダンジョンはほとんど存在しない。………複数あるのは否定できないが。

 そんな話をある程度ぼかして伝えると、アルシャは何か考えるようにボソッと呟いた。

 

 「………迷宮地獄の話はここからできたのかもしれませんね」

 「迷宮地獄?」

 「はい。人を騙して陥れたり、迷宮で殺人の罪を犯すと落ちると言われている地獄です」

 

 アルシャが言うには、一番下の階まで降りると罪が許されるという塔型の地獄なのだが、中の迷宮が変化し続ける上に、様々な生き物の影が襲ってくる場所だそうで、幾度も殺されながら永遠に彷徨い続けるという地獄らしい。

 その噂の根源に心当たりがあるのは黙っておいた方がいいのだろうか。

 

 「まあいい。とりあえず、俺の傍から離れるなよ。悪質な罠に掛かったら一発でお陀仏だからな」

 「分かりました」

 「………近過ぎだ。もうちょい離れろ」

 

 

 ×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

 

 

 転生の祠はおおよそ三つに別けられて、それぞれ《生》《死》《不死》を司っている。それらの管理者は同形の三つ子のような存在で、全員が繋がっているらしいのだが、そのダンジョンにおける嗜好全く違う。

 

 生の祠に行くには、《過剰治癒(オーバー・ヒール)》の掛かり続ける道を駆け抜けたり、異常な回復速度を持つモンスターを倒したり、生きる・生かす方向性の危険が立ち並ぶ。

 

 死の祠へ行くには、即死トラップや毒霧の満ちた小部屋等を突破し、アンデッド系のモンスターを殺し、四つの大部屋からなる茨界・屍界・歯界・刺界の四つの死界を越えていく必要がある。

 

 不死の祠へ行くには、《不死の亡霊インモータル・ファウスト》の群れを幾度も突破しなければならず、さらにはフリーフォールや回復薬でできた底なし沼など、死なないし抜けられないトラップが溢れている。

 

 これら三つの祠の中で、今回向かうのは生の祠だ。今回行うクエストはどの祠でも同じなので、わざわざ難易度の高い死や不死のダンジョンに挑む必要は無い。

 

 カツ、カツ、カツ。

 

 俺はアルシャを連れて洞窟を歩いていく。ダンジョンが変化するのは午前零時丁度なので、あまり気にする必要は無い。最短で一時間、最長の場合でも六時間ほどで抜けられるはずなので、時間的には余裕だ。

 そう、余裕のはず。

 

 「師匠、なんだか、いつまでも代わり映えしませんね」

 「確かにおかしいな。普通、ここまで歩けば一度くらいは敵やトラップに遭遇するはずなんだが」

 

 かれこれ三十分以上歩き続けている。だというのに、ゴールはおろか、小部屋の一つも見えて来ない。

 運良くそういう道に行き会っていないというのも有り得ないし、別に床が進む速度に合わせて動いているという訳でもない。樹海のように方向感覚を狂わせるにしても、迷宮でグルグル回っていればさすがに気付くというか、一応で付けている一定間隔の傷に行き会っていない以上、それも無いだろう。

 

 「………いっそ、ぶち抜くか」

 ―――ビクッ!

 「ん?」

 「え?」

 

 どうせ二、三層の階層があるのだから、わざわざ階段を探すなんて事をする必要も無いよな、と思い呟いたところ、あからさまに通路全体が脈動した。というか、ビクついた。

 つまり、それが意味する所はたった一つだけ。

 

 「ふむ。人を飲み込む生きた宝部屋というのはあったが、生きて人を迷わせる通路というのは初めてだな」

 「あの、やっぱり、そうなのですか?」

 「ああ。生きてるなら延々と道を改変し続けて歩かせ続けられるし、トラップが無いのは迷宮自体がダメージを負うか、回復機能を悟らせないためだろう。おそらく、入り口からそう遠くない場所を延々と歩かせられていたはずだ」

 

 言いつつ、取り出すのは真っ青な短槍。アルタベガル全体で数本――数えるほどしか存在していない最上位の凍結魔法が封じられた強力な槍《凍華の槍棘フロージア・スクリーム》だ。その効果は、MP消費の前方完全凍結攻撃で、ゲームだとINTの高さに応じて前方へと一直線に太い氷の道を作り、射線上の敵を凍らせる。

 そのかなり凶悪な装備を、俺は何の躊躇も無く、ゲームと同じように地面へと突き立てた。

 

 

 〈バキンッガキンッ!〉

 

 

 「わぁお、これは予想以上というか想像以上」

 「び、びっくりしました」

 「俺も驚いた。まさか通路全てが敵性判定とは恐れ入る。というか、強力過ぎるな。機会があれば別の装備も試し撃ちした方がいいか。ぶっつけ本番でうっかり町の一つでも消しちゃいました、じゃ、洒落にならん」

 「というか、そう安易に強力な武装を持ち出さないでください」

 

 氷雪系ダンジョンでもないのに出来上がった氷の迷宮に対して、もはや乾いた笑いしか出なかった。

 これからはもう少し自重しよう。

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