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第十一話『布と会食(上)』

すみません。またさらに遅れました。申し開きのしようも無いです。

しかもあと二、三話と言っていましたが、サブタイトルからも分かるように予定以上に文字数が伸びたため、一つの話を二つに分けます。つまり、その分つまらない話が伸びる事になります。

毎度毎度、予告からズレてすみません。

 (決闘の時にちょっとやり過ぎたかな)


 指定された時刻十五分前に二人を連れて城へとやって来た中で、不意にそんな事を思う。ただ、もう一度同じ事が起きれば確実に同じ事をするだろうし、死なないレベルまで手加減したのだからそれ以上は過剰だろう。

 まあ、やってしまった事はやってしまった事で割り切って、俺は両隣に座るスイとミーナを見やる。俺もそうだが、スイは初期装備である蒼と白の装飾少なめなバトルドレスで、ミーナもゴスロリは止めてイベント配布の紅いドレスコスチュームを着ている。

 かくいう俺も会食という場に合わせて、かなり前に仲間連中でふざけて作った漆黒のスーツ姿だ。友人の一人が不用意に放った一言で巻き起こった一連の騒動は、今となっても鮮明に思い出せる。


 「わざわざ会食の場まで用意して話す事って何だろうな」

 「さあ? 謁見で何も問題なしって判断して、仲間ごと取り込もうとかじゃない? ていうか、初対面でろくに交流も無い相手に要求する事なんて、そう多くはないと思うけど」

 「他にも何らかの厄介な依頼を持ちかけられる可能性もありますよ。プライベートな時間に依頼すれば、何かあっても知らぬ存ぜぬで無関係を決め込めますから」

 「あのさ、話を振った俺も悪いけど、せめて時と場所を考えて発言してくれるか?」


 食堂まで案内してくれる兵士の動きがぎこちなくなるのを見つつ、俺はため息混じりに暴言を否定する。そうしないと、主に他人からの視線や噂話といった辺りの面倒事が増えそうだ。


 「とりあえず、厄介事を押し付けるなら後で使者でも送ってやればいいし、取り込むならもっと実績のある人格の知れた奴にするだろ。俺らみたいな出自不明、経歴不明、人格不明に能力不明と不明尽くしの輩を雇い入れるようなら、一国の王なんて務まらないから」

 「じゃあ、リンはどうだって思うのよ」

 「一つは俺達がここの王家とそれなりに深いつながりがあると他国にアピールして、最低でも他国に所属されないようにする事だな。あとは、気障男の実家に対して、手を出せば王家に睨まれるぞと暗に示す事で面倒を事前に回避とか。どっちとも、食事をする事よりも食事をしたという事実が重要だな」


 トップレベルの冒険者を圧倒できる実力の持ち主なのだ。それが他国に流れれば、種族特性からして『玄人向けの超高難易度種族』とまで言わしめた人族だ。レベルや質からして数だけが頼りだろうから、国力の関係で相当不利な立場に追いやられる事になるだろう。

 だからこそ、実際には抱き込めなくても、そう思わせるという事には意味がある。他国の王族と会食したというだけで、他の国の重鎮達は警戒する。逆に俺達は、無闇に手を出せば国際問題になる要注意人物として、権力関係のしがらみからある程度だが守られるというメリットがある。

 帰る方法を探すために、どこかへ所属するつもりは毛頭無い俺としては、多少の警戒を受けるよりも一々城だ何だと勧誘を受ける方が面倒だ。そんな事になれば、数日と経たずにキレる自信がある。


 (まあ、今はそんな事より目の前の厄介事か)


 あれこれ考えた所で、それは結局予想でしかない。こうだろうと予想して備える事は必要だが、あまり考え過ぎて思考が固くなるのも駄目だ。予想外の展開になった際に動けなくなる。

 首を振って思考を打ち切ると、タイミング良く食堂に着いたらしい。兵士が食堂の前に立つ二人の騎士に俺達を案内してきた旨を報告し、敬礼した後去っていく。そんな兵士の代わりに、騎士の一人がこちらへと敬礼し、歓迎の意を示す。


 「王はすでに中で席に着いています。ごゆっくりどうぞ」

 「はい。ところで、座る場所は入り口に近い方の端から、という事で合ってますか?」

 「はい。王と王に近しい者が部屋の奥側に座り、客人は反対側の席に着くのが通常の席順です。ただ、時と場合によっては変動もありますから、部屋に入った後、王に一度聞かれるのが間違いないかと」

 「分かりました。お仕事中にありがとうございました」

 「いえ、これも仕事の内ですから」


 礼を述べてから、中へと入る。扉は、それも仕事だからと騎士の人が開けてくれた。

 中に入ってまず目に付いたのは、何メートルあるのか、という程に長いテーブルだ。途中にはいくつも燭台が置かれていて、立てられた蝋燭(ろうそく)は、壁の物と合わせて十分な光量を持って部屋を照らしている。また、壁にはしつこくならない程度に絵画が掛けられていて、その姿はまさしく王侯貴族の食堂だ。

 キョロキョロと見回しているミーナのようにそれらを眺めていたい気分ではあったが、その誘惑を振り切って部屋の奥へと視線を向ける。精霊であるスイが直立不動を保っているのに、契約相手である俺が失態を見せる訳にもいかない。

 部屋の奥で座っていたのは、先程謁見した王と王妃、それに加えて一人の少女が緊張した面持ちで座っていた。王譲りの銀髪に王妃に似たであろう線の細い儚げな雰囲気の美人だ。ただ、残念な事に顔を俯けているために、その造作は見取る事ができない。

 そんな中、黙っている訳にも行かないので、背筋を伸ばして参内を告げる。


 「お招きに与り図々しくも再度参内致しました。何分平民でありますので、礼を失した言動もございますれば、お目こぼしをいただけると幸いにございます」

 「そこまで慇懃な態度を取っておいて、礼を失する事などないと思うがな。まあ、この場においては礼も不要だ。特権階級のパーティでも式典でもないのだ。気を楽にするがいい」


 王の苦笑を多分に含んだ言葉を聞き、内心でほっと息を吐き出す。俺の礼儀作法など見よう見まねの付け焼刃だし、スイはともかくミーナだって宮廷作法などといった特殊な儀礼を知っているはずも無い。この場が一から十まで礼儀を必要とするなら、限りなく緊張する場となっていただろう。


 「ありがとうございます。ところで、早速の無作法となってしまうのですが、私達はどこに座ればいいのでしょうか? 何分このような席は初めてなもので、どうすれば良いのかが分からないのです」

 「む、そうか。だが誰も見ていない席で礼儀に拘るのも面倒だろう。好きな所に座りなさい」

 「……分かりました」


 一瞬こんな人間が国家元首で大丈夫なのかと思ったが、実際大丈夫だからこうして国王をやっているのだし、出かけた言葉は飲み込んでおく。たとえ追求したとして、何の利益も無い。

 二人を促し、とりあえず入り口で聞いたように国王達と反対側の端に座る。なんというか、大声を出さなければ聞こえないんじゃないかというぐらいに距離が離れているのだが、どうにもこの部屋が静かなせいで、ある程度の声量で話せばきちんと向こうまで届く。さらに言えば、こういった食事の場では話をする事自体非マナー行為なので、離れていても問題はあまり無かったりする。

 俺達が迷う事無く正しい席位置に着いたのが意外だったのか、王がほぅ、と声を漏らすが無視して話を切り出す。せっかく滅多に経験できないだろう場所にいるのだ。後顧の憂いは断って楽しみたい。


 「さて。まずは改めて自己紹介をしましょう。私の名はリンセイル。今のところ家名はありません。そして、そちらの獣人族がミーナ、反対側の蒼い髪の方はスイです」

 「うむ。私はこの国の国王であるガルゼンテス・ノーセリア・アヴァロンだ。隣が妻のイセリア・クーズイム・アヴァロン。そして、娘のアルシャ・リースレイ・アヴァロンである」

 「ご紹介、痛み入ります。奥方様もお嬢様もとても見目麗しく、さすがは王の人徳が素晴らしいという事でしょう。未だ伴侶はおろか恋人にも恵まれぬ身には、羨ましく思います」


 いや、お世辞ではなく王妃も王女も美人だ。大陸一と言われれば、本当に信じられそうなぐらいに綺麗な顔立ちとスラッとしたモデル体型は誰もが目を奪われるだろう。

 スイ? あれは元々プログラムだったし、精霊であってそもそも生物の範疇に無い。ミーナ? いや、顔立ちは整っているがさすがに外見年齢がな。俺は別にロリコンじゃないから裸を見た所で驚きはしても狼狽はしないと言い切れる。

 そうして褒めると、さすがに悪い気はしないのだろう、王も若干機嫌良く頷いて見せる。


 「余の自慢の妻と娘だからな。当然の事だ」

 「そうですね。一人身には本当に羨ましい事です。それで、そろそろ本題に入りたいと思うのですが、よろしいですか?」

 「む。まあ、腹に一物抱えたまま食事をする訳にもいかぬか」


 俺の問い掛けに対して、すぐに察した王はやれやれと首を振る。それから、居住まいを正してこちらへと向き直った。それを受けて、俺も、そして他の会話に参加していなかった四人も背筋を伸ばす。


 「では、無駄な話を省いて問おう。先日、城の西にある森でモンスターを大量に討伐したのは主か?」

 「………ええ、まあ。予め言っておきますが、森を歩いていたところにトレイン――――大量のモンスターを引き連れた人物が走ってきたため、仕方なく応戦しただけですよ。そのまま放っておいたら確実にその人物が死んでいたでしょうし、そうでなくても街まで到達してしまっては大惨事ですから」


 今その事を問うてくる理由が思い浮かばず、正直に答える。特に魔物を狩るのが罪という事はありえないだろうし、何の問題も無いはずだ。


 (いや、待て。それにしてもどこでその話を聞いたんだ?)


 あの事を知っているのは俺とスイとミーナ、それにモンスターをトレインしていた少女だけだ。戦闘中に近くに人がいなかったのは確実だし、その後だって見られてはいない。だというのに、王は“討伐”と言った。ただ移動した可能性もあるのに断言した時点で、詳しい経緯(いきさつ)を知っている事になる。

 その事に気付き、訝しげな顔を仕掛けたところで王がうむと頷いた。


 「主がそうだったのなら話してもよかろう。主が助けた冒険者だが、実は余の娘、アルシャだったのだよ。新しい装備に浮かれて森まで行ってしまってな。主が通りかからねば死んでいただろう。今更だが、礼を言う。後で褒美も取らせよう」

 「困っていれば手伝う。危機に晒されているなら助ける。これは冒険者にとってマナー以前に当たり前の事です。だから、お気になさる必要はありませんよ。そのような当然の事で謝礼を受け取っては冒険者としての沽券に関わりますから。それに、ドロップ品で十分な金額になりましたからね。………まあ、先日見事に泡と消えましたが」


 たかだかスィーツ如きに消え去った金貨銀貨を思い出し、最後に小さく付け足して若干遠くを見る。まあ、すでに消え去った物に対していつまでも固執するのも馬鹿らしい事だ。すぐに頭を切り替えて言葉を続ける。


 「そもそも、こうして王族と同じ場で食事を取っている事自体がすでに異常なんです。この上金銭にしても物にしても、何か受け取ったりすれば面倒な事になります。王も本来必要の無い火消しをするのは本意ではないでしょう?」

 「確かに貴族共を黙らせるのは手間が掛かる。だが、それを理由に娘の恩人に何も返さなかったのでは、それこそ王家としての沽券に関わる。受け取ってはくれぬか?」

 (正直全面的に拒否したいんだが。嫌がらせにしかならないのを理解して欲しいね)


 本当なら即答で拒否したい所だが、仮にも一国の王を相手にそれをする度胸はちょっと無い。故に、相手を立てつつ面倒事の発生しない報酬を考えて、そういえばと昨日検討していた事を思い出す。

 “それ”なら、王家に不可能という訳でもなく、かといって誰かに咎められるほどの物ではない。言いがかりを付けられるような隙も無く、王家や国に一切の負担が掛からない分遠慮するだけの理由も無い。そう結論付けて、俺はその提案を王にする事にした。


 「分かりました。では、一つだけ、王家の所有する書庫の自由閲覧許可をいただきたく存じます。王家以外には支払えず、かつ本を読むだけですのでどこにも負担の掛からない報酬です。無論、不可と言うのならば大人しく引きます。いかがですか?」

 「………禁書の閲覧は許可できない。それ以外だけで良いのならば、第二十七代アヴァロン国国王として許可しよう」

 「構いません。元より予定に無かった事です。許可されただけ僥倖でしょう。………二人とも、勝手に決めておいて何だけど、それで良かったか?」

 「リンの決定に異論を挟む気はありません」

 「私はその件には関わってないし、何か言う気はないよ」


 話の落とし所を付けてから、事後承諾となる確認を取ると、二人ともすぐに了承してくれた。その際、ミーナの目がキラキラと輝いていたのはご愛嬌というものだろう。

 そうして話が一段落ついた所で、見計らったかのように食事が運ばれてきた。それらが並べられていく中で、王は手を叩いて笑みを見せる。


 「さて、せっかくの食事だ。冷めてしまう前にいただこうではないか。ああ、作法などは気にしなくても良いぞ。これは私的な会食だ。堅苦しく行くのは無しにしようではないか」


 王がそう言った後、食前の祈りを捧げてようやく今日のメインとなる会食が始められた。

一応、これで王の側は主人公達を絶対とは言えないものの信用のおける人物として見る事になります。知らなかったとはいえ、王女を救った相手なのですから、これで一切信用しないとなれば王家の威厳が地に落ちますね。

報酬に関しては、主人公は以前可能ならそうしたいが無理と結論付けていた事を要求しました。今回以外にチャンスはありませんでしたし、棚から牡丹餅的な状況でしたから、ある意味ボーナスですね。特に他の報酬も思いつかなかったので、これで通しました。

次回は会食後編です。フォールアウト3が中々進まない神榛 紡でした。

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