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第九話『布と召喚状』

遅れに遅れてしまいすみません。

本当は先週にホラー短編を出す予定だったのですが、難航したためにこちらを先に出す事になりました。楽しみにしてくださっていた方がいらっしゃたらごめんなさい。

今回もつまらない半分幕間的お話です。どうぞ。

 「へぇ、そんな事があったんだ」


 場所は王宮に程近い場所にある高級カフェテリア。そのオープンテラスで俺から先程までの出来事を聞いたミーナは、一つ金貨一枚もする超高級パフェを悠然と口に運ぶ。すでに他にも馬鹿みたいな値段のデザートがミーナの腹に収まっており、今日だけで俺の所持金が底を突くんじゃないかという勢いだ。

 それもこれも、馬鹿みたいに高いくせに申し訳程度の量しかないこのカフェのメニューが悪い。少ない量で多くの種類をなんて、一体どこの高級フレンチのフルコースだ。

 正直、勘弁して欲しい。


 「………そうなんだよ。いつまでも帰してもらえないorどこまでも付きまとって離れない雰囲気があったから、強引に席を立って高速移動で撒いてきたけど、可能なら明日の昼にはここを出たい。なんていうか、一歩間違えたら延々と付いて来そうな気がするんだよな」

 「で、気が付いたら旅の仲間に、って感じ? まあ、話を聞く限り、うちの連中と負けず劣らずなイロモノみたいだし、可能性としては十分ありえそうよね」

 「話を聞く限り、可能性は高そうですね。一応、周辺の警戒は怠らないようにしておきます」


 ミーナの言葉に同意して、スイがスプーンを持った手を軽く振った。すると、小さな球形をした下級の《水の精(ウル)》が数十体顕現し、すぐに空気中へと溶け込んでいった。それと同時に、周囲一体に“何か”が広がっていく様が知覚を掠め、数瞬後には欠片の違和感すら残さず消えた。


 「《精霊術》か。便利だよな、それ。精霊かエルフしか使えないのが玉にきずだけど」


 中級以上ならともかく、下級精霊の姿は同類もしくはエルフにしか見えない。それが原因で《主従契約コントラクト》による使役が出来ないため、下級精霊を使役して成す精霊術はエルフと中級以上の精霊だけが使える固有技能となっている。

 実際、今の顕現も始祖のでたらめステータス+上級の精霊であるスイとの《対等契約エンゲージ》があるために見えただけで、どちらか一方でも欠けると見えないらしい。スイ曰く「精霊王様との契約ならはっきり視認できるかもしれない」との事。試す気にはとてもじゃないがなれない話だ。


 「もう一つ、新しく実装予定だった種族も使えるという話でしたよ。まだ具体的な話もできていませんでしたが、始祖よりも廃スペックにする予定だったようです。それに合わせて、神原域より高難易度のフィールドが追加されるらしいです。一体どれだけ手を広げれば気が済むんでしょうか。すでに広さだけなら地球とほとんど変わりませんし、開発には馬鹿しかいないんでしょうか」

 「あー、まあ、始祖を実装した時も色々と叩かれたんだから、学習するべきだとは思うな。新しい種族とか、今でさえ全種族を把握しきれないぐらいにいるのに、これ以上増やすとかやり過ぎだろ」

 「今更私達には関係ないけどね」

 「まあ、別にその設定がそのままこっちに反映される訳でもないしな。ていうか、されたら困る。んで、話を戻すが移動するに当たって何か希望とかあるか? どこそこが見てみたい、みたいな。俺個人としては《精霊王の楽園(ティル・ナ・ノーグ)》を見ておきたいな。少し遠回りになるだけだし」


 この世界がアルタベガルと同じ姿形を持っているのならば、精霊王は神に最も近しい立場の存在だ。先にそちらへ寄って話を聞くのも検討する価値のある事だと思う。幻想的な楽園を実際に見ておきたいと思ったというのも確かだが、そちらの方が切実だ。

 俺のそんな打算を含んだ提案を受けて、すぐに賛成したのはスイだ。


 「私もティル・ナ・ノーグには寄っておきたいです。リンと共にあるのは絶対としても、最低限の礼儀として精霊王様に挨拶しておく必要がありますから」

 「ああ、そうか。公式設定だと精霊は全て精霊王の配下で、中でも下級精霊は“支配下”なんだよな。話を通しておかないと、今後精霊術が使えなくなる可能性がある訳か」

 「はい。私達はこの世界の異分子ですからね。顔を見せて無害をアピールしておかないと、精霊王が精霊に私達に協力する事を禁じる可能性もありますから。自我を持つ中級以上はともかく、下級精霊は私の言う事を聞いてくれなくなるでしょう」


 確か、スイは精霊の中でも《大精霊》と呼ばれる上級の一つ上、特別な階級の精霊だったはずだ。それでもその懸念が出てくる以上、精霊王の支配というのは本当に強力なのだろう。


 (まあ、向こうが渋るなら実力行使でもいいか)


 カンストレベルの始祖が二人に一五〇〇レベルの大精霊が一人。装備的に考えて、龍相手だったとしてもオーバーキルになりそうな気がするが、相手は精霊王だ。三人揃ってようやく互角かもしくは向こうが上といった感じだろう。しかし、決して勝てない訳ではない。やろうと思えばやれるのだ。

 結果、戦った土地が人外大決戦的な事にはなるだろうが。

 そんな不穏な思考を感じ取ったのか、珍しくスイが「ケンカを売ったら駄目ですからね」と釘を刺してきたので素直に頷く。実際、俺としてもケンカ“を”売る気は無い。


 「じゃ、そのてぃなんとか言う場所に行くのは決定ね。どうあっても行く必要があるみたいだし」

 「だな。それで、ミーナは無いのか? どこか見てみたい場所とか物とか」

 「んー。今の所はないわね。私としては、現実的リアルが売りのVRMMOから来たんだから、今更何を見るのかって感じだし。ただ、本については買い漁るかもしれないから、あらかじめ言っておくわね」

 (あー、そういえば、ミーナって重度の活字中毒だったっけ)


 広大な屋敷に関わらず、本で壁が見えない彼女の住居ホームを思い起こして納得する。四階建て地下三階という大きさにも関わらず、部屋の九割が本で埋まっていたのだ。それだけで十二分に中毒の度合いが伝わってくる。


 「とりあえず、拠点でも作るまではアイテム欄に入れとけよ」

 「当然でしょ。出しっぱなしにしてたら雨とかで駄目になっちゃうじゃない」

 「なら良し」


 以前に一度、移動のための馬車を本で埋め尽くしてくれた事があったため注意すると、即答で頷いてくれた。ただ、その理由が理由のため、当時した説教がきちんと効果を発揮していたのかどうかは不明。まあ、反省していなかったら、また二十四時間耐久説教コースをすればいいだけだ。

 俺の思考に反応してか、ミーナの顔が若干青くなった気がしないでもないが、とりあえず今は無視。


 「とりあえず、あれをどうするか、という話だよな」


 まだ遠いが、冒険者らしき男に案内されて歩いて来る二人の騎士を見て呟く。それを受けて、ミーナも騎士のいる方向へ振り返った。スイは何も反応を示していないが、先程の精霊術で気付いていたのだろう。


 (やっぱり、公爵家の人間に怪我をさせるとは何事か~って感じかな)


 こちらへ向かって来る騎士を見て、面倒だから蹴散らして逃げるか、などと思い、否定する。そんな事をすれば問答無用で指名手配だ。どうせ差は圧倒的なのだし、話を聞いてから行動してもなんら問題はない。


 「とりあえず俺が話すから、二人は黙っていてくれ」


 二人にそう言って、俺は武器をアイテムボックスにしまって三人を迎えた。レベル差があり過ぎて、もし攻撃を受けたとしてもダメージは無いし、向こうに争う意思が無い事を示すにはこれが一番だ。

 こちらの姿をはっきりと視認した騎士二人は、一度足を止めてこちらを窺うようにしたが、相手が丸腰だと知って自身が優位と思ったのだろう。実に堂々とした様子でこちらへと歩み寄ってきた。


 「貴殿がリンセイルだな」

 「確かにそうだが、騎士が一体何の用だ? ああ、公爵の息子に手を上げたとかふざけた理由だったら叩き潰すから、それだったら今すぐ回れ右した方が賢明だぞ」

 「………そのような用件ではない。我々がここに来たのはガルゼンテス王の勅命だ」


 予想される用件に対して先回りするように言うと、騎士は一拍の沈黙の後にそう言って来た。権力に頼ったくだらない用で無かったのは良かったが、国王に呼び出されるような覚えは無いため眉を顰める。


 「一国の王が一介の冒険者に対して騎士を動かす、ね。先の事を考えるとあまりいい気はしないな。それで、一体何の用なんだ?」

 「ガルゼンテス王より召喚状が出ている。明日四刻に王城へと出頭せよ。これが召喚状だ」

 「言い方があまりにも横暴過ぎて行く気が起きないんだが? それに、出頭しろってのは用件じゃないだろう。顔を出して一体何をするつもりなのか分からないのに行く気は無いぞ。のこのこ出て行って仕官か処刑かなんて言われても困るからな」


 胸を張って言って来たもう一人の騎士があまりにも横柄な態度だったので、少し挑発的な言葉で拒否してみると、面白いぐらいに顔が真っ赤になってプルプルと震えだす。視線に若干の殺気が混ざった事でスイが背後で構えるのが分かる。

 そんな中、今まで隣でずっと黙っていた男が口を開いた。


 「抑えろ、クレイ。激昂しやすいのはお前の悪い癖だといつも言っているだろう」

 「………すみません」

 「いい。そちらも、こちらが多少横柄な態度だったのは済まないと思うが、挑発的な態度は謹んで貰いたい。くだらない事で争うのはそちらにとっても望まない事だろう」

 「その通りだな。そちらは謝罪しよう。だが、どういった用件かも分からないのに召喚に応じるつもりは無い、というのは事実だ。こっちとしては呼び出される理由が無いからな。その辺りをきちんと説明されないと、たとえこの国で一番の権力者であっても応じる気はないぞ」


 実際は武力行使でどうとでも出来るとはいえ、そうなれば確実に死人が出る。ゲームなら何百人殺したところでしょせんはデータと割り切れるが、この世界に生きて根を張っている『人』を殺すのは強い躊躇いを感じている。だからこそ、争いになるような事は極力避けたい。


 「安心して欲しい。今回の招致はおそらく貴殿の人となりを確かめるためだ。突如現れた実力者が害を成す者か否かを見極め、何か起きた際の適切な対処を決めておくのだ。Aランク以上の猛者は必ず一度王城に招かれるからな。同等以上の実力者である君もそうなるのは当然の結果だ」

 (見極めるね。有用なら登用、有害なら要監視のブラックリスト入り。ここは承諾してなおかつ謁見では無害で無能なように見せるしかないか)

 「分かった。明日四刻に召喚状を持って王城へと出向こう」

 「そうか。良かった。では、確かに伝えたからな。我々は戻るとしよう」


 騎士の男はそう言って、もう一人と冒険者の男を連れて来た道を戻って行った。それを見送ってから、俺はため息を吐いて空を仰ぐ。


 「はぁ………。全く持ってままならないな」


 そんな呟きは誰の耳にも届く事は無く、そのまま雲一つ無い蒼穹へと吸い込まれていった。

今回は王城に召喚されるまでのお話でした。あっても無くてもどうにでもなるようなお話ですが、個人的に必要と思ったので入れました。

ちなみに、カフェで一番高いのは金貨五枚取られる希少な食材ばかり使ったケーキです。例によって三口ほどで食べ終わってしまうような大きさで、しかし本当にケーキか疑うような造詣に凝った物です。

そして今後出る予定はありません。

つまらないお話はあと二、三話で終わる予定です。それが終われば、アルシャさんにはちょっとした地獄を見てもらい、ミーナさんにはしばらく本に埋もれてもらいます。ほんのひと月くらい。

詳しい内容は言いませんが、ひたすらに主人公がアルシャを苛め抜きます。たぶんの予定なので変わる可能性も大なり極大なりありますが。

という訳で、地獄月間が始まるまで見捨てるのは待っていただけると感謝です。

とりあえずアルシャ頑張れと思う神榛 紡でした。

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