第八話『布と雑談』
すみません。非常に遅れた上に今までで一番の駄文です。筆がのらないので、しばらくこんな感じで進みそうなのでご了承ください。
「……ふぅ」
鎧を全てアイテムボックスに入れ、簡素な服に着替えてようやく一息入れる。今居る控え室は本当に質素な物で、そこそこ広い室内の壁際にベンチが置かれているだけだ。この辺は、武闘大会のために合わせた内装だろう。おそらく、ギルドトップクラスの連中には別の部屋があてがわれているはずだ。
不公平とは言わない。ランクはずばりどれだけギルドに貢献したかであり、俺は未だ何も貢献していないのだ。せいぜい、これから譲渡する遺物程度だろう。その遺物だって、大した物は渡さない。交換として求めている物がそれほどの物じゃない以上、過剰な物は逆に関係を悪化させかねないからだ。
(そういえば、何を渡すのかまだ決めてなかったな)
神代の遺物は、ゲームでは主に塔内部から発見できる。プレイヤーに取っては何の価値も無かったが、高値で売れる事や時折クエストのキーアイテムになる事もあって、それなりの需要が存在していた。俺みたいな収集癖のあるプレイヤーは、全種類コンプなどを目指した事もある。その種類の多さに途中で断念したが。
アイテム欄を出し、上からスライドさせて神代の遺物に分類されるアイテムを物色していく。外の遺跡でも転がっている機械の部品やロボットらしき物の残骸から、塔内部最上階付近でなければ手に入らないオリハルコン製の精密機械まで、本当に多種に渡っている。
さすがに部品や残骸は無いとして、要求するものに対してどの程度の対価が妥当なのか、というのが意外と難しい。さすがに、ゲームでそこまでの機転を求められた事がないため、想像以上の難易度だ。
「…………まあ、こんな事でいちいち悩むのも馬鹿らしいか。渡す時になったら適当に選ぼう」
しばらく悩んだが、すぐに面倒になって止めた。外交官でも商社に勤める外回りのサラリーマンでも無いのだから、出来なくて当然だと割り切る事にする。
(さて、そろそろかな)
思うと同時に、扉をノックする音が響いた。誰が来たのか見当の付いていた俺が入室を促し、予定していた通りの客人を迎え入れる。
入ってきたのは男二人に女一人。その内二人の男女は護衛なのだろう。さきほどのコールレイに近いレベルを持っている。二人とも柔和そのものといった顔で立っているが、身のこなしからして技量だけなら達人レベル。そこだけ比べるならコールレイより上かもしれない。
後ろの二人を観察していると、前にたった男――――ギルドマスターが賞賛の言葉を送ってきた。
「とりあえず、決闘勝利おめでとう、と言っておこうか」
「おめでとうと言われる程の事じゃあないですよ。当然の事を褒められても、何も嬉しくありません」
「……あれでも、彼はこの周辺で活動している冒険者では最も強いのだがね。君に掛かれば、彼ほどの者でも大人と子供のケンカと一緒か」
俺の言葉にギルドマスターが苦笑する。これで龍クラスじゃないと苦戦しないと言ったらどうなるか気になったが、わざわざバラす気もないのでそこは口を噤んでおく。
「それで、約束の物は?」
「きちんと持って来ている。ほら、受け取れ」
ギルドマスターは懐から出した俺のギルドカードをピッと投げ渡してきた。それを危なげ無く受け取り、皮肉を返すのも忘れない。面倒な事をさせたのだから、それぐらいやっても良いと思う。
「個人的にはもっと柔軟に対応して欲しかったですけどね。一度受付けにでも立って接客を学んでみたらいかがですか? 主にあの貴族相手にでも」
「手厳しいな。生憎だが、それはできない相談だ。私がそんな事をしていては、ギルドの業務が滞ってしまう。もっとも、君がその損失分を補填してくれるなら構わないがね」
「義務も必要性も理由も無くそのような愚行には走りませんよ。確かに俺のカードですね。では、約束通り、こちらからは遺物を供出しましょう。………そうですね、これで構いませんか?」
そう言って出した小型の携帯ラジオらしき機械を投げ渡す。それを受け取って検分したギルドマスターは、ひょいとこちらに投げ返してくる。まあ、これで満足されてはこちらが困惑するので驚く事はない。
「それはギルドにある。他の物は無いのか?」
「他、というとこれなんかはどうですか?」
ラジオモドキをしまって新たに某狩りゲームのハードを出している会社の物によく似たゲーム筐体を放った。俺は軽く投げたが、パソコンのハードぐらいはあるそれに、さすがに慌てた様子でギルドマスターが手を伸ばすも、その手前であっけなく重力に負けた。
〈ガシャン〉
「………」
「………」
「………」
「………」
石造りの床に落ちて嫌な音を立てた筐体を見つめながら、何とも言えない沈黙が部屋に下りる。
「…………いや、まあ、あれです。まだあるからそれについては気にしない方向で行きましょう」
「………そうだな。今のは無かった。それでいいだろう」
ちょっと気まずくなりながらも、今度はきちんと手渡しで新しい筐体を渡した。
まあ、人生こんな事もある。
終始微妙に気まずい空気が付きまとった交渉は、俺が塔中階層のそれなりにレアなアイテムを出す事で終わった。こちらからの要求もその際に伝えたので、それで一先ず終わり、だと俺は思ったのだが。
何故か、俺は闘技場傍のカフェで護衛(?)二人とお茶をしている。
「あなたが決闘で使用していた装備。あれは呪われた物ですよね。それも、そこらに転がっているような物ではなく、人には解呪が不可能な程に強力な物だと思いますが、違いますか?」
「それがどうかしたんですか? 別に命を奪うような代物でもないのですし、そう目くじらを立てるような問題でもないでしょう。まあ、大した実力も無い者が身に付けたらどうなるかは知りませんが」
一息ついて切り出してきた、柔和な笑みを湛える男に平然と答えを返す。あの後、交渉が終わって場を自走とした俺を、この男が引き止めてここへ引っ張ってきたのだ。多少冷たい返答なのは仕方が無いだろう。
ただ、実際の所、あの装備を付けるなら最低でも初期種族でカンストまで行ったぐらいのステータスが必要になる。もしそのステータスを満たさずに装備した場合にどうなるかなど、ゲームではそもそも装備自体出来なかったために知らない。そもそも、-補正の掛かる装備など、誰も好んで使わなかったし。
そんな俺の疑問を読み取った訳でもないだろうが、女性の方が答えを教えてくれた。
「普通、呪われた装備を一つでも身に付ければ、理性を失って死ぬまで殺戮を続ける人形になるんですけどね。それを平然と無害だと言うあなたは本当に規格外です。もはや、人かどうかという事も疑いたくなりますね」
「悪いですが、これでも一応人間ですよ」
さすがに始祖だと言う気にはなれず、そう嘯く。
「用件はそれで終わりですか? それなら、もう行かせてもらいますが」
「いえ、まだですよ」
俺が席を立とうとすると、男の方に引きとめられた。正直に言うと、待たせているミーナとスイが怖いのだが、ここで無理に席を辞して重要な情報を聞き損ねた、などという事になったら面倒だ。ゲームでも、中堅クラスのプレーヤーがよくやる失敗として、NPC無視によるフラグスルーがあるが、今の俺の立場でそういったミスは本気でまずい。
はぁ、とため息をついて座り直すと、向こうも姿勢を正してから問いを投げかけてきた。
「単刀直入に聞きますが、あなたのレベルをお聞きしたいのです。あの灼斧を軽々とあしらう力と技量をその若さで身に付けるというのは、並大抵の事ではありません。エルフ達のような長命種族ならば、私達人間には到達できない高みにいる事も多々ありますが、同じ種族で抜きん出た強さを持つ事はないと聞きます。それだけに、若くして他と一線を画する力を持つあなたにとても興味があります」
「………俺が強いのは単純に偶然の産物ですよ。別に興味を持たれるような事はありません」
「偶然だったとしても、その偶然に恵まれ、なおかつ物にするだけの能力を有していただけで十二分に興味深いですよ。少なくとも、私達はそう思います。もしよろしければ、どのような経緯でそのような力を手にする事になったのか、お教えいただきたい所です」
よろしければなどと言いつつ、二人とも話してくれるまで食い下がると目で語っている。まあ、最悪逃げればそれでいい。明日か明後日にはここを立つのだから、気を揉むのはその間だけだ。
「どういう経緯と言われても、普通の基準が分からないので、何を話せばいいのかという点からして分かりませんよ。こうして大きな街に来て自分の特殊性には気付きましたが、何が違うのかがまだ理解できていませんから」
「それなら、私達に話してもらえれば分かるかもしれませんよ? 時間の許す限り話しませんか?」
「連れを待たせてるんでお断りします」
何となく即答で拒否してみたが、実際そろそろ危険な頃かもしれない。スイは何とかなりそうだが、ミーナがまた怒っていそうだ。もし怒っていたらギルドマスターに全部押し付けようと思う。そもそもの発端はギルドマスターが不用意にこの二人を連れてきたせいなのだから、罰が当たる事はない、はずだ。
とりあえず、目の前の二人を撒いてからスイ達の所へ戻るか。
なんだか、あっても無くてもいい話でした。次は気分転換に短編物を書いてみようかと思っています。ホラーフィクションでちょっと遅いですが桜の話です。
何か他にリクエストがあれば感想、活動報告どちらでも書き込みください。余裕があったり気分転換したかったりしたらきっと書きます。
下手過ぎる会話、対話文を何とかしたい神榛 紡でした。