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「ゆかり、ごめんね。」
由美は赤い腫れた目で私をじっと見ながら小さいかすれた声で言った。
「いいよ。てか、気にしないで。」
私は由美の背中をさすりながら言った。
「もう夕方じゃん。ゆかりの家こっから遠くない?」
「うーん、遠いいと言えばそうだけど。別にいいよ。」
「暗くならないうちに帰りなよ。うち、明日の準備とかしないといけないし。ほら、髪色とかさ。」
「あ・・・、そっか。じゃあうち帰るわ。」
スクバを背負って私は由美の部屋を出た。
「玄関まで行くよ?」
「いいよっ。お酒で酔ってんのに、いきなり立ったらあぶないっしょ。」
「え・・・あ、うん。じゃあ、またね。」
「また明日。」
私は由美の前ではずっと笑顔でいた。
階段を下りて、由美のお母さんに挨拶をした。
「由美のお母さん、由美はいい子です。あんな風になっても由美の中は変わってませんから。」
「・・・ありがとう。あの子の面倒よろしくね。」
「はい・・・。」
私は真剣な顔だった。由美の前とはちがって真剣な目つきをしてた。
「お邪魔しました。」
「またいらっしゃいね。」
「ありがとうございます。」
由美のお母さんはいつも暖かいオーラが際立っている。
私が見えなくなるまで、ずっと後ろから見守っていてくれた。
「寒っ。」
と、言った口から白い煙がもわもわ出てくる。
さっきまでオレンジだった空は、もう深い青に染まり綺麗な宝石の粒が舞っていた。
「・・・はあ。」
「・・・かり!」
「・・・ん?」
「ゆ・・・かり!」
後ろを振り向くと、誰がが走ってきた。
身長が高く、後ろにテニスラケットを背負った男子だった。
「・・・ゆかり!」
「・・・誰?」
「俺ー。俺だよ。えっと・・・豊」
「豊?!」
それは、同クラスの香川豊だった。
身長はクラスで2、3番目位に高く、女子にもモテて髪色はオレンジのような茶色で
耳にはピアスが山ほどついていた。
「何そんなビックリしてんだよっ。」
バシッと背中をたたかれた。
「うっ・・・。」
「おっと、ごめん。強すぎた・・・なっ。」
「うっさいなあ・・・。今腰きた~。痛てぇ。」
「ばばあかよ。てか男子みたいだな、お前。」
「うるさいってば。ちょっとは黙ってろ。」
私は豊を睨んだ。
「こええ~。てか、今日なんかあったよな。何だっけ?ギャル女に絡まれたみたいなさあ。」
「あれ、由美だから。」
「えっ!?あれ由美さんなの?」
豊は由美のことを何故だかさんづけにして呼んでいる。
由美は嫌らしいけど、豊はさんづけをやめなかった。
「まじか~。ちょっとビックリ。」
「でも明日は普通になるから。」
「へ~。由美さんもやるなあ。」
「・・・うち、こっちだから。」
私はいつも帰る道を指さした。
「じゃあ、送るな。」
「え?いいよ。めんどくさいじゃん。」
「別に。帰っても兄貴とじゃれてるだけだし。」
「じゃれてるって・・・。何なの。笑」
「じゃ・・・じゃれてるっつうのはな。戦闘してんだよっ!」
「まじで?実は・・・。」
「おいっ!それ以上言ったら殺すぞ。」
豊の大きい手が私の口を押さえる。
こんなに手大きいんだ。
そんなことを思いながら、私の家の前まで来ていた。
「ごめん。何か、送ってもらっちゃって。」
「いいよ。男ってこんな感じだろ。笑」
「豊の言ってることめっちゃわかんない。」
「・・・あっそ。じゃあまたな。」
言いかけながら、豊は元来た道を後ろを振り向かず帰っていった。
「説教かな~。」
そう言いながら私は家へと入っていった。




