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眩しい光が目の中に飛び込んでくる。
お母さんの声と目覚まし時計の音が混ざってうるさかった。
「ゆかり!今日何曜日だと思ってんの。今日は大事な部活の日じゃないの?さっさっとリビングに降りてきなさいね。お姉ちゃんはとっくに起きてるんだからね!」
私はお母さんに取られた布団を頭までかぶせて時計に目をやった。
そして、五分くらい経ってからむっくり起き上がりリビングに降りた。
「ゆかり。ほら、早く準備しないと。部活は七時半じゃないの?」
「・・・七時半?今何時?」
「七時十分。」
お姉ちゃんはメールを打ちながら答えた。
「・・・やばい。遅刻する!」
「さっさっと起きないからでしょ。早く行きなさい。」
私は制服に着替えて、なにも入っていないスクバを背負ってから靴を履いていた。
「ゆーかり。これっ、昨日やってたでしょ?忘れるよ。」
お姉ちゃんは昨日徹夜してやった英語のプリントの束を私に突き出した。
「ありがと~。忘れるとこだった。いってきまふ。」
「いってらっしゃい。」
私は急いでエレベーターに入って、中についている鏡を見て身だしなみを整えた。
お姉ちゃんは高校3年生の麻美という名前。
学校で一番か二番に綺麗な美人。
肌は透き通っていて、長い金髪の髪にふっくらした頬はピンクに染まっていて
目は透き通った真っ黒な色。足は美脚で長くて身長は180センチもあった。
すっきりした小顔。彼氏は大学になるまで作らないって言ってから
これまで何人フッてきたのだか・・・。
「・・・今日も頑張るじぇ。」
なんて噛みながら言って私は鏡で自分の顔をじっと見ていた。
私は高校1年生のゆかり。
お姉ちゃんと一緒に茶金に染めた。長いさらさらな髪と真っ白な肌に林檎色の頬は誰にも負けない。
エレベーターが開いた瞬間、私は猛スピードで駆け走って自分の学校の生徒をぐいぐい追い抜かす。
「朝ごはん食べて来るの忘れた~。」
とか叫びながら。
学校に着いたのは七時四十分。
「・・・間に合わなかった。先輩に怒られるし。」
するとまわりは一気にざわざわした環境から静まり返った。
「・・・?」
何があったと思いきや、私を呼ぶ声が背後からした。
「ゆ~か~り~。おはよ~♪」
「・・・誰?」
そこにいたのは、金髪でかなり盛れてる髪型にスカート丈が半端なく短く
一番は顔黒と呼ばれるギャルの肌。全然対面したことのないギャルだった。
「誰とか。まじうけるう。」
なんだろうとか思いながら、その場から立ち去ろうとしたとき。
「うちだよォ~。何で気づかないのォ?由美なのにィ。」
「・・・由美?!」
由美。それは、私の親友だった。昨日まで黒髪ストレートでスカートは普通の長さだった由美が今ギャルになって私の前にいる。しかも、たった一日なのに。
「もォ~。ゆかりったらあ。」
「うっ・・・。由美お酒臭い・・・。」
「お酒~?ちょっと飲んだだけだよォ。」
確かに由美の口からはお酒の臭いがした。
「早く教室行かないと遅刻するよォ~。」
由美は酔っているせいかバランスを崩し私にもたれかかってきた。
みんなの視線が痛かった。
「由美、帰ろ。」
「え~。せっかく間に合ったのにィ。裕くんに送ってもらったのになあ。」
「裕くん?」
久しぶりに由美から聞いた男子の名前だった。
由美に肩を貸し、よろよろしながら私は由美を家まで送ろうとした。
こんな状態が先生に見つかったらきっと退学にまで及ぶかもしれない。
「昨日オールだったからな~♪」
「オールね。うちは徹夜で宿題だったし。」
「宿題とかァ。」
由美は酔っていて訳も分からないことを一人でべらべらしゃべっていた。
そして、あっという間に由美の家の前だった。
ついでだったので、お邪魔もさせてもらった。
「ふあ~。眠い。」
由美の部屋は女の子っぽい人形がいっぱいな部屋だった。
ベッドに横になりながら由美は真剣な顔になっていった。
「ゆかり。うち馬鹿なことしてた・・・。」
「ん?」
「ねえ、聞いてくれる?」
由美・・・そう。
由美は悔しかったのかも。
半年前に由美はとってもお似合いな優しい佐久間さんという彼氏と付き合っていた。
一つ年上で由美はずっとその人を信じていた。
長い付き合いで、愛を分かち合っていた二人は本当に結婚するくらいの勢いだった。
けど、2年くらい経つと佐久間さんから連絡がうすくなってきていて
由美はずっと連絡を待っていた。
ある日、由美は彼氏に久々にデートへ誘われて待ち合わせの場所へ行った。
けど、待っても相手はこなかった。
「どうしてだろ・・・。」
由美が帰ろうとしたときメールが届いた。
佐久間さんからだった。
近くのファミレスに来て、と書いてあった。
急いでいくと、そこには佐久間さんだけじゃなかった。
もう一人の女性だった。
イチャイチャしてる。
由美は悔しかった。
怒りが抑えきれなくて、自分をコントロールできなくて
左手にはいつの間にかファミレスの机に置いてあったナイフがにぎられていた。
ゆっくり、ゆっくり佐久間さんともう一人の女性に近づいて
刺そうとした。
けど由美は泣き崩れて、その場に倒れこんだ。
店員は由美に駆け寄り大丈夫ですかと訪ねて、お客さんも心配してくれた。
しかし、由美の目には深く刻まれた。
佐久間さんは由美って気づいてるはずなのに、こっちに指を指してゲラゲラ女性と肩を組みながら
由美の泣き崩れた顔を笑っていた。
「・・・悔しい。ゆかり、抑えれなかった・・・ナンパに着いていって、この気持ちを抑えたかったの。」
「・・・。」
「悔しかった。見返してやりたくて・・・ひどいよ。ひどい・・・。」
「由美・・・。」
その目には一粒の涙がこぼれ落ちていた。