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六話

そして放課後。

チャイムが鳴った瞬間、教室の空気が一気に解放された。 椅子を引く音、部活勧誘の声、帰り支度のざわめきが混ざり合う。

……その中で、明らかに異質な一角ができていた。

「朱雀くーん!」

「朱雀くんって部活入らないの?」

「連絡先交換しよ!」

予想はしていたけれど、思った以上だった。 ねぎまの机の周りには、すでに女子が数人集まっている。

「え、え? ちょ、ちょっと待って!?」

本人は完全にキャパオーバーで、羽があったら今にも広げそうな勢いだ。 その様子を、少し離れたところからにょろ丸が苦笑しながら見ている。

「……すごい人気ですね」

「ごめん……予想以上に……」

私が小声で謝ると、にょろ丸は首を振った。

「いえ。人に好かれるのは、悪いことじゃありませんから」

そう言ってから、少しだけ声を落とす。

その言葉に、カメ吉が静かに頷いた。 首元から顔を出した蛇も、同意するように小さく舌を出している。

ひややっこはというと――

「……静かになったら起こしてくれ」

そう言い残して、まだ机に突っ伏していた。

(自由すぎる……!)

―――と思ったのも束の間だった。

「青龍くんもさっきからチラチラ見られてるよね」 私の耳元で、真央が小声で囁いた。

視線の先を見ると、にょろ丸の机の周りには直接声をかけず、一定の距離を保った女子達が数人。 ノートを広げるふりをしながら、明らかに様子を(うかが)っている。

「……青龍くんって、落ち着いてて知的だよね」

「園芸好きなんだって。絵になる〜」

「話しかけたいけど、なんか緊張する……」

にょろ丸本人はというと、そんな視線に気付いているのかいないのか、丁寧に鞄を整えている。 気付いた瞬間に会釈でもされたら、多分全員倒れると思う。

一方――教室の後方。

「白虎くん、無気力系なのかな?」

「分かる……無気力なのに存在感強すぎ」

「近寄りがたいけど、逆にそれが良い」

ひややっこは相変わらず机に突っ伏したまま、微動だにしない。 それなのに、一定の間隔を保って形成される半円。

そして最後は。

「ねぇ、玄武くんって真面目で優しいし、必要なことは喋らないから、そこも良いよね〜」

「大人の余裕ってやつ〜」

カメ吉の周りには、男女混合で人が集まっていた。 質問されれば淡々と答え、分からなければノートを覗き込んで説明する。 その様子に、何人かは完全に心を撃ち抜かれている。

首元の蛇も、得意げなのか、ゆらりと揺れていた。

(わーすっごい人気〜……)

私は教室全体を見渡して、改めてそう思う。


お買い物当番のひややっことにょろ丸プラス私は食材を買う為に近くのスーパーへ足を運んだ。

夕方のスーパーは仕事帰りの人でごった返している。

「人が多いですね」

レジカゴを持っているにょろ丸に、周りのおばさん達が「ドラマの撮影!?」ってギョッとしている。

「今日は何にしましょうか…。こーちゃん、何か食べたい物はありますか?」

ペットフードを両手に持ちながら内容量と値段を見比べて唸っていた私に声を掛けてくれた。

「こーちゃん?」

「うわっ!びっくりした〜」

ハッと顔を上げる。

「ご、ごめんなさい。驚かせてしまいましたか?」

にょろ丸が少し申し訳なさそうに身を引く。その横で、ひややっこは白菜を片手に淡々と野菜売り場を眺めていた。

「集中しすぎだ」

「だってこのペットフード、同じように見えて中身全然違うんだもん……」

そう言って棚に並ぶ袋を指差すと、にょろ丸が覗き込んでくる。

「栄養成分……確かに細かいですね。ところで、誰に買うんですか?」

「カメ吉の蛇。みんなは普通に食べれるし、蛇だけで良いかな〜って」

「あの蛇は何も食わんぞ」

「え!?」

思わず素っ頓狂な声が出た。

「食べないの?」

棚に並ぶペットフードと、ひややっこを交互に見る。 ひややっこは白菜をカゴに入れながら、さも当然のように言った。

「あれは玄武の一部だからな。玄武本体は表情が乏しいが、蛇の様子を見ると機嫌や感情が分かる」

「へぇ……だからあの蛇、表情豊かなんだね!」

何て会話をしながら、にょろ丸の表情を見てみると、めちゃくちゃ青ざめていた。

「ど、どうしたの?」

「今、家に誰がいます……?」

「誰って、朱雀と玄武だろう。………あ」

(どうしたのかな?)

「朱雀と玄武は仲が悪いんですよ。それはもう本当に」

「別に殴り合いとかの喧嘩はしないが、空気が重くなるな」

「そ、そうなんだ……」

確かに性格は真反対だから、馬は合わないよね。

お買い物を済ませると、私は時短ということでにょろ丸に抱き上げられて、人生初の空を飛んだ。

ひややっこは定員オーバーらしい。

視界が一気に上がった。

「わっ……!?」

反射的に、にょろ丸の服を掴む。

「落ちませんから、大丈夫ですよ」

そう言う声は落ち着いているけれど、私の心臓は全然大丈夫じゃない。

下を見ると、夕方の街並みがどんどん小さくなっていく。

車の音も、人の話し声も、少しずつ遠ざかっていった。

「す、すご……本当に飛んでる……」

「はい。最短ルートです」

下の方を見ると、スーパーの袋を片手に歩いているひややっこが、こちらを見上げていた。 ……いや、正確には見上げているようで、特に興味もなさそうに帰って行った。

しばらく飛んでいると、あっという間に自分の家が見えてきた。

玄関先にはすでにひややっこがいる。

「早っ!」

(いつも眠そうな気だるげな感じは何処行ったの!?)

恐る恐る玄関を開けると、思っていたよりもねぎまが明るく出迎えてくれた。

「おかえり〜!」

カメ吉はソファに座って黙々と本を読んでいる。

しかし、何故か空気が重い。

「二人きりだと会話しないどころか目も合わせませんよ」

にょろ丸がコソッと耳元で教えてくれた。

「小春ちゃん、学校どうだった?」

「楽しかったけど、みんなすごい人気だったね」

「まぁね!」

「不本意だがな」

「人気良ければ全て良し。というやつでしょうか?」

「多分、違う」

その時、カメ吉が静かに口を開く。

「……小春殿」

「?」

「我らは、目立たぬよう努めよう。……小春殿が困ることは、決してしないと約束する」

「ありがとう」

その心遣いがめっちゃ嬉しくて、胸の奥が暖かくなる。

でも、小春殿っていう時代劇でしか聞かないような呼び方もやめてくれると助かります………。

私の考えていたことが分かったのか、カメ吉は一瞬だけ視線を逸らして「……善処する」と、答えた。

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