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二話

冷たい。

最初にそう感じたのは、(ひたい)に触れるひんやりとした感覚だった。

「……生きてるか?」

ぼんやりした意識の底に、低く落ち着いた声が沈んでくる。

「生きてるって何!?普通そこ確認する!?」

別の、やけに元気な声。

うるさい。頭が割れそうだ。

「……おい、朱雀。静かにしろ。気を失ってるだけだ」

「分かってるけどさぁ!でも倒れるの三回目だよ!?人間ってこんなに簡単に気絶しちゃうもんなの!?」

「人は僕達より弱いですから、仕方ないですよ」

会話が、頭の上で交差する。

誰の声か、もう分かってしまうのが嫌だった。

それでも、意識は否応なく浮上していく。

「あ、こーちゃん起きました!」

その一言で、周囲の顔が一斉にこちらを覗き込んでくる。

近い。近すぎる。

恋とか顔面国宝とかの縁が全然なかった十四年間。恥ずかしすぎて顔を隠してしまう。

「どうしました?」

「顔を……隠しているな」

「何処か痛むのか?」

「白虎ずるーい。俺も小春ちゃんを膝枕したーい!」

「膝枕!?」

その単語に驚いて、勢い余って上体を起こした瞬間――ずきん、と頭の奥が鈍く痛んだ。

「いった……」

「ほら言わんこっちゃない」

低く呆れた声と同時に、肩をそっと押されて再び寝かされる。

……柔らかい。

「……?」

恐る恐る、視線だけを下へ向ける。

そこにあったのは、見覚えのありすぎる白い布地と――

「う〜ん……ひややっこ?」

彼は、ソファに腰掛けたまま、当たり前のような顔で私の頭を膝に乗せていた。

眠たげな金色の瞳が、こちらを見下ろしている。

「起きたなら、大人しくしてろ。まだ顔色悪い」

「……ここ、どこ」

「お前の家だ」

即答だった。

「えっと……ねぎま、カメ吉、ひややっこ、にょろ丸………なんだよね?」

「そうだよ〜」

私が四人を見渡すと、ねぎまがニコニコと笑う。

「順番に説明しましょうか」

にょろ丸が、私の視界に入らない位置から静かに声をかける。

「混乱している状態で一気に話すと、また倒れますから」

「それはやめて……」

カメ吉が、腕を組んだまま一歩前に出た。

「まず前提として、我らは本来人間ではない」

「うん、もうそこは薄々察してる……」

「本来は京の都を守護する四神だ。私は四神が一人、玄武(げんぶ)

「俺は白虎(びゃっこ)だ。小春は猫だと勘違いしているが虎だ」

虎の部分を明らかに強調した……。

「俺、朱雀〜」

「僕は青龍(せいりゅう)です。蛇じゃないですよ」

淡々と告げられるその言葉は、不思議と現実味がなかった。

「本当は昔、小春ちゃんに神社で拾われた日にそそくさと帰るはずだったんだけどね〜……居心地が良すぎてそのまま居座ってた☆」

「はぁ……」

思わず間の抜けた声が出た。

「いやぁ、だって」

ねぎまが後頭部に手を回し、へらっと笑う。

「雨はしのげるし、ご飯くれるし、名前まで付けてくれるし?帰る理由なくない?」

「十分すぎる理由だ」

ひややっこが即座に切り捨てる。

「みんなのこと、何て呼んだら良いの?」

その問いに、四人が一瞬だけ言葉を失った。

「……今さらか?」

ひややっこが、わずかに眉を動かす。

「だって!」

私は視線を彷徨わせる。

「四神様、とか急に言われても距離感おかしいし……かといって、ずっとペットの名前も失礼な気がするし……」

「え〜」

ねぎまが楽しそうに声を上げた。

「俺は“ねぎま”気に入ってるけどな〜!それに、鳥に食べ物の名前を付ける子なんか、なかなかいないしね」

「焼き鳥の方が良かったのかな……?」

腕を組んで頭を捻る。

「うーん、このネーミングセンスのなさ……」

ねぎまが天を仰ぐ。

「朱雀と白虎は食べ物の名前ですもんね」

「にょろ丸は龍なの?」

「そうですよ」

何てことないように話すにょろ丸。

(龍って......架空の動物じゃなかたっんだ……)

そう考えていると、ねぎまが抱きついてきた。急に抱きついてきてびっくりしてしまう。

「うわっ!?」

突然、胸元に強い衝撃。 反射的に声が出て、体がびくっと跳ねた。

「ちょ、ねぎま!?」

ねぎまは、悪びれもせず私にしがみついたまま、にぱっと笑う。

「小春ちゃん、やっと笑ってくれて安心した!」

「……え?」

自覚はなかった。 けれど言われてみれば、口元がほんの少し緩んでいた気がする。

「良かった!」

そんなねぎまをどしたのは鬼の形相でねぎまを睨んでいたひややっこ。

「距離が近すぎだ。小春から離れろ」

「白虎、嫉妬〜?」

軽口を叩くねぎまとそれに言い返すひややっこ。

二人を微笑ましく見ていたら、ぐぅぅとお腹が鳴った。…………私の。

「「「「…………」」」」

四人の視線が、同時に私のお腹へと落ちた。

「……今の、小春か」

ひややっこが低く言う。

「え、可愛すぎじゃない?」

ねぎまが即答する。

「うぅ…恥ずかしい……」

「生理現象ですから、恥ずかしがる必要はありませんよ」

にょろ丸は優しく慰めてくれる。

「……そう言えば朝飯はまだだったな。何か作ってくる」

すっとカメ吉が立ち上がって、台所に入っていく。それに続いてねぎまとにょろ丸も台所に。

「俺だって料理くらい作れるのに……」

「ひややっこも料理得意なの?」

「ああ。昔から世話焼きは得意だ」

「世話焼き……」

一体誰を指しているのか容易に想像できた。

「………」

「………」

(気まずい…)

ひややっこは自分から話すタイプではないのか、テレビをつけ始めた。

やがて、「できましたよー」という声と共に にょろ丸が、盆を持って顔を出した。

「朝は軽めにしました」

(かゆ)と味噌汁だ。胃に負担はない」

「ありがとう!」

盆の上には、湯気の立つお粥と、具だくさんの味噌汁。 どちらも、見るからに優しい色をしていた。

「さ、遠慮せず食べて下さい」

「りんごも剥く?」

真っ赤なりんごと包丁を両手に持っていたねぎまをひややっこが睨みつける。

「朱雀、その包丁を置け」

「そんな怒らなくても良いじゃ~ん」

またもや言い争いを始める二人。仲が良いのか悪いのか分からない。

「火傷しないように気をつけてくださいね」

「う、うん……何でみんな私の方を見てるの?」

私の隣に座っているのはニコニコ笑顔のにょろ丸。目の前には静かにじっと見ているカメ吉。ひややっこはねぎまを締めたまま見ているし、締め上げられたねぎまはひややっこの腕を叩きながら「ギブギブ!小春ちゃん助けて〜」と私に助けを求めている。

「ちょ、ちょっと……落ち着いて……!」

助けを求められても、どう助ければいいのか分からない。 ひややっこの腕に締め上げられたねぎまは、ばたばたと無意味に手足を動かしている。

「小春、見るな。目に毒だ」

「えぇ〜!?ひどくない!?俺、被害者なんだけど!?」

「自業自得だ」

淡々と、しかし力は一切緩めない。

その時、バシャッと何処から飛んできた水がねぎまの顔面にかかった。

水を飛ばしたのはカメ吉だった。

「カメ吉!?」

「うるさいから静かにさせただけだ」

ねぎまは目を回して床に倒れておる。

「朱雀は火を操る神獣ですから、水にはめっぽう弱いんですよ」

「そうなんだ…ってことはカメ吉は水を操れるの!?さっき操ってたよね」

「ああ、私は水を操る神獣だからな」

「へ〜!」

純粋に感心して言うと、カメ吉はほんの一瞬だけ視線を逸らした。

「……大したことではない」

淡々としているけれど、どこか照れくさそうにも見える。心做しか首に巻かれている蛇も照れくさそうにそっぽを向いた。

「じゃあじゃあ、台所の洗い物とかも一瞬?」

「ああ」

「最高じゃん……」

その会話を聞いていたにょろ丸が、くすっと笑う。

「便利さだけで言えば、白虎は一番地味ですね」

「おい」

ひややっこが低い声で抗議する。

「でも白虎は力と感覚に優れています。護衛役としては最適ですよ」

「……そういう役目だ」

短く言い切る。

(護衛……?)

「白虎は過保護ですからね〜」

私はスプーンを持ったまま、ひややっこを見上げた。

「じゃあ、ずっと一緒にいてくれたのって……」

「当然だ」

被せるように答えが返ってくる。

そのやり取りを聞いて、床に転がっていたねぎまが、ぴくっと指を動かした。

「最悪……小春ちゃんにみっともないとこ見せちゃった」

水を被ったばかりなのか不機嫌だ。ガシガシと頭を掻いてから床に座った。

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