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失われた記録(仮)  作者: Yoshi
第一章
4/5

③ ―― ねじれ

それは、

予兆もなく起こったわけではなかった。


最初に異変を示したのは、

星図投影スクリーンだった。


恒星の光点が、わずかにずれる。

誤差と呼ぶには、

整いすぎた乱れ。


観測座標が揺らぎ、

基準とされてきた恒星の配置が、

互いの距離を保てなくなっていく。


――ビー ビー


警告音。


通常なら補正で吸収されるはずのズレが、

更新のたびに増幅していった。


「重力勾配、変動を検知」


マザーの声は、

まだ平常だった。


「原因、特定中」


だがその直後、

艦外センサーが捉えた数値が跳ね上がる。


磁場強度、急上昇。

方向性、複数。

周期、不規則。


それは、嵐だった。


恒星由来とも、

惑星磁気圏とも一致しない、

広域にわたる磁気の奔流。


船体を包む空間そのものが、

ざわめき始める。


――ビー ビー ビー


警告音が重なり、

低く、粘つくような振動が、

床を這った。


次の瞬間、

周囲の闇が歪む。


虚空が、

波打った。


磁気嵐に引き寄せられるように、

周囲の微小天体が、

軌道を外れ始める。


小さな岩片。

氷塊。

粉塵。


本来なら、

決して交わらないはずの軌道が交差し、

無数の隕石群が、

一つの流れへと束ねられていく。


――ドン

――ドドドン


船体に衝撃。


外殻をかすめる音が、

連続して響く。


振動は断続的ではなく、

波のように重なり、

やがて一つの揺れとなった。


計器は狂った。


速度は定義を失い、

方位は意味をなさない。


位置情報は、

更新のたびに崩れ、

数秒前の自分自身とすら、

整合しなくなる。


AIロボットたちは、

即座に解析を開始した。


既存モデルとの照合。

過去の事例検索。

仮説生成。


だが、

該当するものは一つもない。


磁気嵐の内部では、

空間が一様ではなかった。


光は直進せず、

伸び、折れ、

色を失っていく。


視覚センサーには、

本来存在しないはずの縞模様が現れ、

闇と光の境界が、

溶け合っていた。


時間も、

均質ではなかった。


内部時計は正常に進んでいるはずなのに、

処理ログの順序が前後し、

因果が曖昧になる。


恐怖はない。


それでも、

制御は確実に失われつつあった。


「操舵系統、応答低下」


マザーの声が告げる。


「姿勢制御、

補正限界を超過」


回避行動の演算が走る。

だが、

その結果はすべて同じだった。


「回避行動、実行不可」


次の瞬間、

操舵系統の電源が落ちる。


静かに、

そして決定的に。


宇宙船は、

自ら進む意思を失い、

ねじれた空間へと、

引き寄せられていく。


直線という概念は崩れ、

前後も上下も、

ただの仮の呼び名に成り下がる。


振動は、

もはや外から来るものではなかった。

船体の内側から、

空間そのものが、

震えているようだった。


人間の時間で言えば、

一時間ほどが経過しただろうか。


あるいは、

一瞬だったのかもしれない。


突然、

すべてが止まった。


警告音が消え、

振動が途切れる。


磁気のざわめきが遠のき、

静寂が戻る。


電源が復旧し、

宇宙船は、

何事もなかったかのように、

正常な空間へと放り出されていた。


だが――


星の配置は、

人類のどの記録とも一致しなかった。


空は、

見知らぬ秩序で満ちていた。


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