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スレッジ・ハンマー

作者: 逆さ藤
掲載日:2025/12/21



なんというか、凄まじい修羅場とはこの事だろうか。


「あなたね、少しは考えてちょうだい。スケジュールが押してるんです」


 私の職業は小説家。つまるところ誰からも羨む自由業だ。

しかし内実と言えばお寒いもので、どうにかこうにか毎日過ごしているだけである。文章で飯を食うってのは滅茶苦茶大変なことなのだ。


「で、で、でも」


 声をつまらせながらそれでもどうにか私ーー渡瀬夏は言葉を出した。恥ずかしくてどうにかなりそうだ。この性格のせいで私の世間はひどく狭く、そして居心地の良いものになってしまった。


それもこれも目の前の背丈の高い女性のお陰なのだった。


「あなたはね、こうやって小説家になったわけよ。そしてその才能1本で生きてかなくちゃならないわけ」

「ひ、酷いな鹿野さん。一応、その」


 鹿野紫苑。とても風雅な名前だ。柔らかそうな黒髪を長くし、それがダークスーツと相まってとても似合う。きっとシルエットにすれば一直線で、わたしのようなチビとは対照的だった。


「聞かない。だってそうじゃないの。綺麗に喋られず、人見知り。羊みたいにびくびくしちゃって」

「……誰しも鹿野さんみたいじゃないんです」

 私は負けおしむかのように言った。

 

「憧れられると光栄ね」

「ひひ、皮肉のつもりですよ」

「何が皮肉だか。もーいいからちゃちゃっと仕上げてちょうだい。あなたにはないかもだけど私には予定があるの」

「うう」


 呻いた。なるほど鹿野さんなら引く手あまただろう。何かしらの予定も満載で、私とは大違いだ。

 狭いアパートで引きこもって小説を書く私とそれなりの出版社で意気揚々と働く鹿野さん。どうして交われたのかすらもはや覚えていない。


「それで、何だって? 今時編集部員を家に入れるなんて希少よ稀有よとても稀よ。そんなあなたが何を言うかと思えばさ」


 そうだ。

 私は彼女にこう言ったのだった。


「友人が助けてって……」

「あなた友人いたのね」


 心にぐさりと突き刺さった。言葉のトゲの威力をなめないでもらいたい。パソコンに向かって滑らかに動いていた指が鈍くなる。


「そうしたいのなら早めに原稿あげてちょうだいね」

「うう」


 呻いた、本当ならこんな感じで苦しむスケジュールじゃなかったはずだ。エアコン代の節約のため近くのショッピングモールに向かい、そこで執筆をする。それが出来るだけの余裕があったはずだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「お願いします! 空前絶後の大天才渡瀬先生っ!」

「は、はぁ……」


 朝方玄関先で鹿野さんが土下座していた。

 寝起きに放られた爆弾のような大声に私は寝ぼけ眼で答えてしまったのだ。高校以来全然発育しない幼児体型にちくはぐな部屋着の私。そこに下手な男性より大きく、下手なモデルより美人な女性がやってきて叩きで頭を擦り付けている。


 なんだろう。これ、夢?

 それとも学校で虐められたり空気扱いされた私が、カースト上位の権化のような鹿野さんに八つ当たりする妄想なのかな。


「ウチのボケカス……もといボンクラ、いやいや編集部員がミスをしてしまいまして」

「えーと……」


 急に事情を説明し始めた。こっちは髪すら整えてない。


 要するに話はこうだ。鹿野さんの部下が一人、結構なミスをした。あろうことか結構な大御所作家の怒りを買ってしまったという。考えるだに恐ろしい。


 しかも原稿使用の禁止を明言した。御社との取引は今後一切お断りするとの事だ。どんなミスをすればここまでの怒りを買うのか。


 泡を食ったのは鹿野さんたち以下編集部員たちだ。もうすでに「今回はこうしますよ」的な会議も済ませ、刊行への準備も済ましていた中でのこの騒動。流石の鹿野さんもクールビューティーな横顔に汗を滲ませながら対応した。


そしてそれが破綻したというわけだ。

 

「明日までに、いや、今日の夜までに。出来たら昼までに1本小説を拵えて下さい……」

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