episode4
来る翌日。天気はとても良く、見合い日和となった。
シャルロッテは真紅に金色の刺繍が施されたドレスを身にまとっている。彼女の金色の瞳とマッチしてきてとても美しい。
「おお、シャルロッテ!美しいではないか!今は亡き母にとても良く似ている。」
「ありがとうございます。お父様。」
「くれぐれも王子殿下に失礼のないようにな。」
「...ハイ...」
「大丈夫です、旦那様。何かありましたら自分が止めに入りますので。」
「頼もしいぞ、ウェンよ。よろしく頼む。」
シャルロッテはウェンをジト目で見つめていた。
「ウェン...」
「大丈夫。大丈夫ですよロッテ様。安心して下さい。」
シャルロッテの睨みにも動じなくなったウェンだが、ほんの少し冷や汗をかいていた。
そうこうしている間に馬の蹄の音が近づいて来るのが聞こえてくる。
そして屋敷の前で音が止まると馬車の扉が開き、中から金髪碧眼の美しい青年が降りてきた。
「初めましてシャルロッテ嬢。私はジークハルト=ヴァロワと申します。隣の国のヴァロワ皇国の第一王子をさせて頂いております。」
青年は礼儀正しくあいさつをし、シャルロッテに手を差し出す。
「初めまして、ジークハルト王子殿下。シャルロッテ・オベールと申します。本日は遠くから来ていただきありがとうございます。」
シャルロッテはジークハルトと両の手で握手をする。
「シャルロッテ嬢はこの間の様なお転婆姿も良いですが、お淑やかな貴方も美しい。」
「...まさかとは思いますが...」
「えぇ。魔法で子供をあやす所も、悪漢をボコボコに締め上げた所も拝見致しました。」
シャルロッテは頭が痛くなるのを感じた。
まさかあの姿を見て尚婚姻を申し出したとは...
彼女が引き攣った笑顔になったのを理解したのかしていないのか、ジークハルトは満面の笑みを浮かべている。
「さ、さぁ、外で立ち話は何ですから応接間で温かいお茶でも飲みながら将来についてでも話をしましょう!」
シャルロッテの父が場の空気が悪くなりかけているのを感じ取り、屋敷の中へと促す。
「そうですね。ではお言葉に甘えて。」
家主を先頭に皆が屋敷へと入って行く。
ウェンはシャルロッテの笑みが氷点下になっているのを感じてしまった為応接間までの廊下が非常に長く感じた。
応接間へと辿り着くとメイドが扉を開け、お客様であるジークハルトを席へと案内する。彼が座ったのをキリに皆が席へと着き、温かい紅茶でもてなす。
「実を言うとシャルロッテ嬢の噂はかねがね聞いていて興味を持ったのです。」
「む、娘の噂とは...?」
父はまさかと思いつつも冷や汗をかきながらジークハルトへと伺う。
「一番私が好きなのは"鮮血の舞姫"ですね!
悪党をちぎっては投げちぎっては投げ。そして拳や蹴りを入れる。一連の動きがまるで舞でも舞っているかの様な姿、この目で見る事が出来たのは運が良かった。」
ウェンの予想が当たってしまい彼は頭を抱えた。
あの姿を見て惚れるなどと...一国の王子殿下がこれでいいのかと困惑してしまった。
そして、黙って話を聞いていたシャルロッテは氷点下の更に下になった笑みを浮かべていた。
「王子殿下。よろしければお手合わせ願えませんでしょうか?」
シャルロッテは我慢の限界が来てしまい、ジークハルトに手合わせを申し出る。父やウェンがシャルロッテを止めようと立ち上がったが当のジークハルトは瞳を輝かせ喜んでいた。
「シャルロッテ嬢!よろしいのですか!」
「えぇ、座っているよりも身体を動かす方が好きなのです。それに王子殿下にはありのままを知って頂きたいですからね。」
心無しか彼女の笑みは黒く光っている様だった。
そんな彼女に気づいてか、気づいていないか、ジークハルトは嬉々としてしていた。
「手合わせは体術ですか?それとも剣術?」
「王子殿下。私に敬語は不要ですわ」
「...君がそう言うならそうさせてもらおうかな。で、どちらが良いかい?」
「ありがとうございます。王子殿下。では、体術で。魔法は使ってもよろしいですか?」
「もちろん。それでは手合わせをするに当たり一つだけ。」
「?」
「私が勝ったら名前で呼んでくれるかい?」
「...はぁ。わかりましたわ。」
それでは裏庭へ。とウェンが促した。
裏庭へと着くと二人の間に緊張が走った。
「それでは審判は自分がさせて頂きます。お二方よろしいですか?」
「あぁ、いつでもいいよ。」
「私も構いませんわ。」
「では。...始め!」
合図がされた途端、開いていた距離が一瞬で縮まった。シャルロッテは氷気を纏わせた拳をジークハルトへと打ち込んだ。しかし、その拳は既のところで受け止められてしまった。
「結構冷たいね。それに思っていたより重い拳だ。」
「それはどうもありがとうございます...!!」
シャルロッテはすぐ様体勢を立て直し拳の連打を打ち込む。それは全て魔力のバリアに弾かれてしまった。
が、ジークハルトの足元がガラ空きだったのでシャルロッテは体勢を低くし蹴りで足をはらった。
「おっと...やるねぇ。」
ジークハルトは足元は盲点だったのか、素直にシャルロッテを褒め称えた。
「私、手も出ますが、足癖も悪いのですのよ?」
そう言うと彼女は思いきりジークハルトの脇腹目がけ蹴りを入れる。しかし、その足は脇腹へ届く前にジークハルトの手に捕まれてしまう。
「ジャジャ馬娘は大人しくさせなくてはね!!」
ジークハルトはシャルロッテの足を掴んだままグルグルと回り始めた。
彼女もそこまでされるとは思わなかったのか急いで魔力のバリアを身に纏う。次の瞬間ジークハルトは手を離しシャルロッテの身体は空中を舞い、地面へと叩きつけられる。バリアのお陰で衝撃は間逃れた。
急いで体勢を立て直しながら立ち上がろうとすると目の前に氷の剣が現れた。
「魔術は使用可だからこれはセーフだよね?」
「クッ...ハイ...私の負けですわ。ジークハルト様。」
「うん!」
シャルロッテは全てを諦めジークハルトの名を呼ぶ。
すると彼は上機嫌で頷き返事をした。
「これは...決着ですかね。」
ウェンは内心シャルロッテが一国の王子殿下に傷をつけないか心配をしていたが杞憂に終わったようだった。
「いやぁ、鮮血の舞姫と手合わせが出来て私は幸せだ!それに、更に君に惚れてしまったよ...」
満面の笑みで恍惚の表情を浮かべながらジークハルトはシャルロッテに話かけた。
「でも王子殿下は凄いです。ロッテ様に膝をつけさせたのは王子殿下が初めてですよ?」
「君も名前で呼んでくれていいんだよ?えぇ...と」
「ウェンです。」
「そう。ウェン。私は君とも仲良くなりたい。」
「光栄ですジークハルト様。」
男二人は何か分かり合ったかの様に笑い合った。
シャルロッテはそんな二人を見て、
「もうお二人がご結婚されてはいかがです?」
「ちょっ!ロッテ様何でそんな事になるんですか?!」
「そうだよ、ロッテ。私には君しかいないんだよ?」
「ジークハルト様に"ロッテ"と呼ばれる事は許してはいませんが?」
「まぁ、良いじゃないか。私達は拳で語り合った婚約者なのだから。」
「婚姻を了承した覚えはありませんわ。」
シャルロッテが否定するが、「問題無い!」と彼女の父がどこからが現れた。
「ここまで分かり合えたんだ。二人の婚約は決定事項とする!」
「お父様?!」
「ありがとうございます、お義父様!」
そんなこんなでシャルロッテとジークハルトの手合わせは終わり、正式な婚約にも進んでしまった。
シャルロッテはどっと疲れを感じ地面へとへたり込んでしまった。
「ロッテ様?!大丈夫ですか?!」
「えぇ。大丈夫ですわよ。大丈夫...」
シャルロッテの元へとウェンが駆け寄ると彼女は弱く頷いた。
「ロッテ。これからよろしく頼むよ。」
満面の笑みのジークハルト。まるで新しいおもちゃを手にした子供の様だ。
「そうだ。来年から私もこちらの国の王立学園へと編入する事にしたから、仲良くしておくれ二人共。」
「そうなのですか?!」
「あぁ。少しでも婚約者の傍にいたくてね。」
ジークハルトはシャルロッテに微笑みかけた。
彼女は「そんな...」と顔を青くし項垂れる。
「私の楽しい学園生活が...」
「ん?私がいると何か問題でもあるのかい?ロッテ。」
「いえ...なんでもありませんわ...」
シャルロッテは力無く項垂れるのであった。




