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42 種族に優劣など無い。


「なぜ秘密にしたのでしょうか。秘密にするって大変なのに」

「とういうと?」


 ヴァレンディル少将が聞き返す。ジルドール大佐もわたしを振り返った。


「ロート村の大人たちは確かに何か大きな秘密を皆で共有していました。子どもたちはそれを不思議に思っていたし、ときには腹を立ててもいました。大人になったら話してやるって言われて」

「それは仕方がない。秘密を守るための村の伝統だったのだろう」

 ジルドール大佐の言葉に、しかしわたしは食い下がる。

「でも、宝剣や村を守りたかったら、魔法を使えばよかったのに。だって王国軍最強の剣士だったんですよね? 勇者は竜人や魔族というのが昔話のお決まりだし、言ってみれば建国の雄じゃないですか。守護魔法くらい、使えたのではと」



 ヴァレンディル少将とルドール大佐が顔を見合わせた。



「魔法を使う必要もないと勇者は判断したんだろう。そしてその勇者の決断は正しかった」

 とジルドール大佐。ヴァレンディル少将が深く頷く。

「世界には、時に魔法よりも力を発揮するものがあるからな」

「魔法が最強だと思いますけど……?」



 劣等種族のわたしには、魔法より力を発揮するものなんて思い浮かばない。

 


「皆、隣の芝生は青く見えるということだ」

「はい?」

「勇者は、人間だったんだ」


 わたしは思わずヴァレンディル少将を見上げた。


「人間には獣との共鳴能力や、神羅万象の神秘を感じ取る感性がある。魔法が使えないからこそ感覚が研ぎ澄まされるのだろう。そしてそれは、魔法が普通に使える我ら竜人や魔族やエルフには、いささか足りないものだ。いわゆる勘というやつだな」

「そんな、でも……」



 勇者は人間だった。

 その衝撃に言葉が出ないわたしを間に挟んで、竜人たちは言った。



「人間は劣等種族などではない」

「むしろ、我らには無い感性を持つ稀有な存在。これまで紅い竜の宿った宝剣が、悪用されずに人間によって守られてきたのが何よりの証拠だ。無意識に魔女の魔方陣を暴いてしまうようにな」



 ジルドール大佐が懐から紙を取り出す。それは上官が持つ、作戦資料の地図だ。わたしが予測した隠し砦の位置が線で結んであるのを見て、わたしは目を瞠った。



「六芒星……魔法陣の形……まさか、そんな。わたしそんなことは全然考えてなくて」

「無意識というのが空恐ろしい」

 ジルドール大佐が肩をすくめる。

「ほら。だから劣等種族なんて自分を責めるな。そもそも、種族に優劣など無い」



――種族など関係ない。確かなのはスカーレットが俺の番だということ。



 耳元でささやかれたその言葉は、移動用魔法陣に吸い込まれる揺らぎに消えた。









 数日後。


 アンガスティグ皇国は進軍を開始、戦線はにわかに騒然となった。


 しかし元々、ハイリヒ王国が優位のまま戦況は膠着していたので、皇国の進軍は小競り合い程度に終わった。


 が。


「問題はなぜ今、不利を承知で進軍しようとしたか、だと思います」



 ティルの発言がしんとした会議室に響く。

 軍上層部会議。俺とティルは参謀部別動隊の代表として出席している。



「おそらく何かを目論んでいるのでしょう。宮廷魔法使いのオルリッサは皇帝に新たな作戦を進言しているものと思われます」

「その作戦とはなんだね。予想だけでは対応を立てられんだろう」


 エルフの陸軍中将が不満げに言った。神経質そうに細長い顎鬚を触っている。


「は。申し訳ございません。現在、戦況を分析中です」

「ナレシル少将の不在が大きいな。彼が抜けている今、ジルドール大佐は急ぎ戦況の分析、報告をしてくれたまえ。ヴァレンディル少将、そちらの方はどうなっている?」

「は。ルカン=ナレシル少将は皇国に拉致され、捕虜になっている可能性がやはり高いかと」



 用意していた言葉を言うと会議室がざわめいた。

 つかみは良い。肝心なのは次の発言だ。



「ですからどうか、救出のための隊を編成することを許可してください」


 さらに会議室がざわつき、怒りの声さえ上がる。


「戦況が不透明且つオルリッサの脅威に脅かされているときに一人の救出のための隊を編成するだと? 正気か?!」

 予想された苦言だ。俺は冷静に発言主の空軍中将に真っすぐ向いた。


「ルカン=ナレシル少将は我が軍にとってなくてはならない人材です。苦境の中でも隊を編成し救助する価値はじゅうぶんあるかと」

「貴様っ――」

「私からもお願いしますわ」



 空軍中将のさらなる苦言攻撃を制するように手を揚げたのは、肉感的な美女だ。



「かわいい部下が拉致されたとあっては心配で眠れませんもの。ましてやナレシル少将が拷問にでもかけられていたら……同じ竜人として身の毛もよだつ思いですわ。どうかルカン=ナレシル少将の捜索については、参謀部別動隊にお任せいただけませんか? 全体作戦に支障のないよう全力で配慮しますので」

「む、まあ、直属の上官であるクエンリラ中将がそう言うなら」

「ふふ、ありがとうございます」


 隣の上官をちら、と見る。会議用の社交的な笑みを貼り付けたその顔に『一つ貸しだぞ』と書いてある。

 くそ……。

 ジュリア=クエンリラめ。


「ではジルドール大佐からの戦況報告を待って、参謀部で迅速に作戦を作り直してもらいたい。以上」



 短い会議は終わったが、俺たちの会議はまだ終わらないだろう。



「アル、ティル。別動隊オフィスへ戻るぞ」



 案の定、参謀部別動隊長官ジュリア=クエンリラが妖艶に口の端を揚げた。



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