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31 隠し砦の美少女


――スカーレットたち後方支援班へ緊急出動要請がある、少し前。

 ティルナックス=ジルドール大佐の班は、新たな地図中にある隠し砦を目指し、山中を移動していた。




 どん、という音がして梢からたくさんの鳥が飛び立ったのは、目標地点のすぐ近くに来てからだ。


「今のなんでしょう、ジルドール大佐」



 問われた竜人は眼鏡に手をやる。何かを考えるときの彼のクセだ。


「山賊にはオルリッサがついている。諜報隊や我らの動きにも勘付いているだろう。音には敏感になっているはずだから偶発的な問題か、あるいは……何かの合図か」

「ジルドール大佐。偵察を出しましょうか」

「……いや、必要ない」



 ティルナックス=ジルドールは飛び立った鳥の群れを見上げて眉を顰める。鳥だと思ったが、あれはおそらく蝙蝠だ。



「音の発生場所は目標地点かもしれない。偵察を出すより行く方が早い。進むぞ」

「はっ」


 班員たちは山中を分け入っていく。七年前の襲撃事件でこの辺りにあった村はすべて火を放たれ業火に焼かれた。そのせいで、あまり草木が育たず岩がむき出しになっている場所が多く足場が悪い。


 ティルは手を上げた。後続の隊員がぴたりと止まった。


「洞窟がある」

 草木が少ないのでぽっかりと開いた黒い穴が丸見えだ。ティルの指示で二人の班員が洞窟の入り口を見に行って戻ってきた。興奮した顔をしている。


「どうした?」

「女の子がいます」

「何?」


 隊員の話によると、見張りはいないが、10歳前後の小さな女の子が怯えた様子でぽつんと座っているという。


「捕虜でしょうか」

「山賊の子どもかもしれん。捕虜なら先程の音は洞窟の中で何か問題が起きた可能性が高い。他には?」

「誰もいません。女の子だけです」



 ティルは一拍考え、頷いた。



「とりあえず行くぞ。少女はいずれにせよ確保する」


 全員で近くまで寄れば、ぽっかり開いた洞窟の入り口、女の子が丸くなって座っていた。


 仕立ての良いローブを身にまとい、カールした金色の髪が背中まで届いている。泥で汚れている部分があるものの、全体的に育ちの良さそうな外見の少女が、膝を抱えて泣いている。



「かわいそうに、きっと運悪く山賊に拉致された皇国貴族の令嬢だろう。おーい、君」

 隊員の一人が近付くと、女の子はびくっと肩を振るわせて顔を上げた。エメラルドグリーンの大きな目が印象的な驚くほど顔立ちの良い少女だ。



「大丈夫。何もしないよ。僕たちはハイリヒ王国軍の者だ。君がアンガスティグ皇国の民だとしても何もしない。君は山賊や魔女にさらわれてここにいるんだろう? 助けてあげる」


 美少女はおどおどと隊員たちを見上げた。


「ほんとうに? たすけてくれるの?」

「本当だよ。こっちにおいで」


 女の子は洞窟の入り口からおずおずと出てきた。

 ローブやエナメルの上等そうな靴は多少泥で汚れているが、怪我はなさそうだ。隊員たちはホッとした。



「捕まったのは君だけ?」

 女の子はこくん、と頷いた。

「山賊たちは?」

「あっち」

 女の子は洞窟の中を指した。その細い指の先に、ティルがいる。隊員の一人がティルに声をかけた。


「お気を付けください! 山賊は奥にいるようです!」

 ティルは軽く手を上げて答え、一人でそのまま奥へ入っていく。


 隊員の数人は洞窟の入り口付近を調べ始めた。


「ここに山賊じゃない人はいるかな。例えば、偉い人とか」

「いない」


 少女に付いている隊員二人は顔を見合わせた。魔女はここではなく、別の砦にいるようだ。



「さっき大きな音がしたんだけど、何かあったのかな?」


 隊員が聞くと、少女は再び膝を抱えて震え出した。やはり音の発生源はこの洞窟だったらしい。

 少女を怯えさせてしまったことに隊員たちはあわてた。


「ごめんね。嫌なことを思い出させちゃったかな」

「こんなに震えているんだ。とりあえず、後方支援班に預けた方がいいよな。ジルドール大佐に許可をもらわないとダ」


 隊員の言葉が不自然に止まったのと、ティルの指示が響いたのは同時だった。



「全員この場から離脱!! その子どもから離れろ!!」



 洞窟の奥から出てきたティルと集まってきた隊員たちは、仲間二人が美少女の傍で石に変化する瞬間を目にした。



 肩を震わせていた少女は立ち上がりローブを翻した。震えていたのは笑っていたからだ。堪えきれないというように腹までおさえて笑っている。



「あーっはっはっはっは、あーおかしい。ほんとにこんなにチョロいなんてバッカみたい」

「貴様……!」



 ティルの全身から魔力が吹きあがり、瞳孔が竜人の特徴を顕わにする。 


 しかし美少女は怯える様子もなく、むしろ楽しんでいるように見えた。踊るように身体を揺する美少女を囲み、誰も動けない。

 いつの間にか美少女からは息苦しくなるほどの魔力が発散され、ピンク色の光芒となって美少女を囲んでいた。単独で攻撃すれば、美少女に攻撃が届く前に自分たちが石にされる。目の前の仲間のように。



 そんな状況を花畑でも見るような目で見て、美少女はうふふと天使の微笑みを浮かべた。


「唯一、君が優秀なのは誤算だったな、ジルドール大佐とやら。君が叫ばなければ、他の子たちも石にできちゃったのにな」


 ぺろりと舌を出した美少女に向かって、ティルは攻撃魔法を溜めた手を掲げた。


「魔女オルリッサ。ベヒモス召喚による戦争協定違反の疑いで身柄を拘束する」





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