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26 胸騒ぎ sideアル


「何かいいことがあったでしょう」



 ひとしきり作戦について話した後、ルカンが言った。にやにやして、揶揄うように俺をのぞきこむ。



「べ、べつに」

「顔に書いてあります」

「そんなはずあるか!!」


 ルカンがぷっと吹き出した。


「そう言いつつ顔を触ってしまう君が愛しいですねえ」

「揶揄うな」

「揶揄ってないですよ。いたって真面目です」



 ルカンがテーブル越しにグッと顔を近付けてきた。もう二百年近く傍にいて見慣れているが、ルカンの瞳はエメラルドで作られた迷宮のようだ。一度ハマったら吸い込まれ、底が知れない。



「長年の友であり同僚でもある私との作戦会議にも水を差すとは、つがいとの蜜月に妬けてしまいますね」

「ばっ、そんなんじゃない!!」

「顔、真っ赤ですが?」

「…………」



 いろんな意味で何も言えない。



 蜜月、という言葉で連想されるあんなことやこんなことをスカーレットと……と考えても悶絶死しそうだし、スカーレットとはまったくそんな空気ではなく額にキスをするだけのいたって清い関係だ、とこの場で爽やかに言い切るのもどうかと思う。



「まあいい。作戦、頭に入りましたよね?」

「無論だ」

「よろしい。昨日と同じく、班員に確認したら消してくださいね」

「了解」



 今さらながらルカンの手腕には驚く。諜報隊は俺たち別動隊が援護活動をしていると信じて疑っていない。

 同じ参謀部の者たちを騙すようで気が引けるが、魔女オルリッサ確保は軍にとって、我がハイラル王国にとって大きな利益をもたらすものだ。作戦がうまくいけば極秘にしていた理由は後からいくらでもくっ付けられる。



「この作戦は速さが勝負です。諜報隊に知られず、オルリッサの居場所を突きとめなくてはならない。昨日は残念ながらオルリッサを見つけられませんでしたが、クライン補佐官のおかげで予想を立てることができる。これは大収穫です。指令を無視して謹慎ものの行動をとった元はじゅうぶんに取れてます。いやあ、さすがアルの番ですね」

「……嫌味か?」

「まさか。心からの称賛ですよ」


 ルカンは中世的な美貌に女神の笑みを浮かべる。


「それから、クライン補佐官に帯剣を許可しました。この意味、わかりますよね?」

「……後方支援隊にも出動指令を出す可能性が高い、と?」

「というか、確実に後方支援隊にも来てもらいます」

「なら最初から一緒に出動すればいい」

「いいえ。私たちの目的はオルリッサを捕縛すること。できるだけ人手が欲しいのです。でも最初から全員で出動したら諜報隊に怪しまれる。だから後方支援隊には後からきてもらう」


 なるほど。さすがに徹底している。


「だから戦場に慣れていて、剣術が得意なスカーレットに帯剣させたのか」

「そう。彼女の剣はとても頼りになる。そうでしょう?」



 軍で七年、生き残れたのは運もあっただろうが、彼女の剣術の腕によるところが大きい。


 昨日、過去のことを聞いて改めてそう思った。


 たった11歳の人間の少女が、山賊相手に軍に保護されるまで一人で戦ったのだ。

 負ったのがあの額の傷一つだけとは、奇跡に近い。

 それだけ彼女の剣の腕が優れているということだが、しかし。



「あまり無理をさせたくないのだが」


 私情を挟みたくないがつい言ってしまう。ルカンが朗らかに笑った。


「心配いりませんよ。魔女オルリッサもいることですしね。あくまで彼女は戦力の一つ。アルの愛しい番を危険な目に遭わせたくないのは私も同じですから」

「すまん」

「当然ですよ。エリスにも怒られてしまいますし。ああ、ところで」



 ルカンは資料の束をテーブルの上で几帳面に揃えた。



「エリスを知りませんか? 見つからないんです」

「エリス? 俺は見かけてないな。ゼルウェンの班だから、一緒にいるんじゃないか。ゼルウェンなら地図を入手するために資料室へ行ったようだが」

「ふうん。私も資料室へ行ってみようかな」

「俺は会議室へ向かう。そろそろ皆集まってくる頃だ」



 立ち上がり、ドアへ向かう。

 俺の執務室と会議室は同じ階なので急ぐこともないのだが、何か胸騒ぎがして思わず足を止める。



 何かが引っかかる。何かが。



「ルカン」

「ん?」

「七年前の襲撃事件もオルリッサが裏で手を引いているのだろうか」

「そうですね、確証はありませんが、そう考えるのが自然かと」

「だとしたら、なぜオルリッサはオビ山脈周辺の村を襲ったのだろうな。オルリッサは一応、アンガスティグ皇国の宮廷魔法使いだ。戦況を攪乱するにしてはやり方が奇妙だ。他にもっとやり方があるだろうし、場所も国境ということならオビ山脈周辺でなく、平地の叩きやすい場所があったはずだ」


 ルカンの腕が肩に回された。俺とルカンは身長が同じくらいなので、ルカンのささやきは耳元で聞こえる。


「さすが我が敬愛する友。良い所に目を付けますねえ」

「な、なんだよ」

「それは私も思ったことです。ですが」



 ルカンはにっこり微笑んだ。やっぱり女神のように。



「今は魔女オルリッサを捕縛することだけを考えましょう」



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