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22 謹慎中の訪問者➀



 そう。ミリアさんの言う通り、わたしはどうしようもない劣等種族だ。



 思い上がっていた。

 今まではただ幸運だっただけなのに。

 一人でなんとかできると錯覚していた。


 今までよりも難易度の上がった任務だったのに、あろうことかそれを利用して復讐を果たそうと思ってしまった。


 わたしは宝剣を握りしめる。今日は自宅へ置いていった宝剣を。


 いつも戦場へ出るときにしていたように、これを持っていたらあんなことにはならなかったかもしれない、という思いがよぎるが、すぐにそれを激しく打ち消す。


「わたしはバカだ。それが思い上がりだっていうのよ……!」


 宝剣をぎゅっと抱きしめる。


 剣は使えても、魔法が使えなくては今日の任務は完遂できなかった。そして、わたしは大失敗をしたのだ。宝剣を持っていても結果は同じだっただろう。



 とりとめもない思考を断ち切ったのは、玄関ベルの音だった。



 ドキリとする。

 この家は訪ねてくるのは、エリスや、ゼルウェンさんや、ダンカンさんや……そして。


 苛烈なまでに青く燃えていた双眸を思い出す。また叱責されたらという恐怖と……今まで感じたことのない胸が張り裂けそうな不安に襲われる。



 なんなのだろう、この不安は。



 それを吹っ切るように玄関のドアを思い切って開けた。



「やあ、お邪魔だったかな?」


 立っていたのは麗しい濃緑の瞳を和ませる竜人だった。


「ナレシル少将……と、エリス!」

「し、心配で、その、お見舞いに行こうと思ったら、ルカン様とそこでお会いしたの」


 市場で買ったのだろう、クッキーの缶を持ったエリスが、顔を真っ赤にしてルカン様とわたしを交互に見た。







「もう身体はいいの?」



 柔らかい微笑みでナレシル少将は小首を傾げる。こうして高価なティーカップに口を付ける姿は軍人には見えないほど優雅だ。



「はい、すっかり大丈夫です」

「うん、よかった。まあアルが魔力を使い果たすほど治癒したらしいから大丈夫だと思ってたけど」


 ナレシル少将は困ったように微笑んだ。



「それにしても、番に対する執着というか愛情ってすごいよね。普通、竜人は本能的に戦闘能力を温存するものなんだけど、自分の身も顧みずに君を治癒するなんてさ。さっきのアルの怒りは本物だけど、あれは軍人としての顔だ。君を大事に思っていることは変わらないから、それはわかってやってくれないかな」

「はあ……」



 まただ。またあの不安が襲ってくる。

 胸がきゅっと締め付けられて苦しい。思わず立てかけてある剣の柄を握った。



「それ、見事な品だよね」


 言われて何のことかわからず返答に窮していると、ナレシル少将が笑った。


「君が握っているそれ。その宝剣だよ」


 わたしはパッと剣から手を離した。


「すみません。客人の前に出しっぱなしで」

「いや、いいよ。そんな見事な剣、また拝めて幸運だ」


 わたしが怪訝気に眉をひそめると、ナレシル少将は両手を軽く合わせた。


「ごめん。実は君がベヒモスの一件で病院へ運ばれていたとき、その剣をちょっと詳しく見せてもらったんだ」

「そうでしたか。かまいません。兵の私物の武器について調べるのは軍として当然のことでしょう。下級兵士だったので、軍に正式な届けを出していなかったのはわたしの落ち度です」

「ふむ、君は本当に優秀な軍人だね。番じゃなくてもアルは君のこと好きになったかもしれない。アルや私の周囲にはいないタイプの女性だ」

「ありがとうございます」



 なんと返していいかわらかなかったので、謝辞を口にする。ナレシル少将の隣で、エリスが不安そうにナレシル少将を見つめていた。



 有り得ないことだがナレシル少将がわたしに興味を持ったらと心配なのかもしれない。  

 エリスは、本当にナレシル少将が好きなんだな、と今さらに思う。


 ナレシル少将は隣のエリスの様子には気付いていないようで、鷹揚に話し続ける。


「そんな君が所持しているその宝剣も実に素晴らしい。素材はミスリルで、正体はわからないが何らかの魔法が宿っている」

「……そうなんですか?」



 初めて知った。でも、そうかもしれにない。だってこの剣は――。



「使い手の魔力と共鳴する仕組みだろう。だから君は気付かなかったんじゃないかな。私やアルのように魔法が使える者にとっては、その剣は生きていると感じる。ねえ、エリス?」

「え、あ、はい!」


 エリスは我に返り、じっとわたしの手元を見る。


「確かに、その剣からは生き物の気配がします……」

「ね? 今回の任務で、君にその剣を持たせなかったのはそういうわけなんだ。隠密な任務だから目立つ武器は所持させたくなくてね」

「わかります」

「それに、君に今回宝剣を持たせなかったのは、ある意味正しかった。その宝剣を使っていたら見張りに発砲させずに接近できたかもしれないけど、後からきたリザード二体に君はきっとやられていただろう」


 それはそうだ。いかにわたしが剣術が得意でも、近接戦闘でリザード二体を相手にするのは無理だっただろう。わたしは唇をかみしめる。


「その宝剣は、君の故郷の村に伝わるものだったんだろう?」

「…………」



 これまで、誰にも話したことはない。

 宝剣のことを話せば、あの夜のことも話さなくてはならない。だから。



「どういう謂れのものか、教えてくれないかな」


 沈黙を守りながら、ナレシル少将はこの宝剣にこだわるな、とぼんやり思う。

 エリスがハラハラした表情でわたしとルカン様を見ている。


「申し訳ありません」

「いや、いいよ。誰にでも話したくないことはあるよね」


 ナレシル少将はいつもと同じように端麗な顔で柔らかく笑んだ。


「ついでに、この剣の任務中の所持を今後許可していただけないでしょうか」

「へえ?」


 ナレシル少将の双眸が少しだけ細くなった。


「どうして?」

「わたしは参謀部別動隊でまだ働かせていただけるようです。でも、わたしは別働体の方々と違って魔法が使えません。いざというとき足手まといにならないように、自分の武器は持っていたいのです」


 うーん、と無邪気にうなってからナレシル少将はぱん、と手を叩いた。


「わかった。いいよ」

「本当ですか? ありがとうございます」

「その代わり条件として、任務中はその宝剣の扱いについて、上司からの命令に従うこと。別働隊だったら私やアル、それからティルが指示したら、君は指示通りに宝剣を扱うんだ。守れる?」

「わかりました」

「じゃあ、明日から帯剣してきていいよ」



 少しホッとする。今までどんなときも肌身離さず持っていた剣を置いていくことに違和感があったから。



「明日はまた山中に入って砦捜索、及び魔女オルリッサ捕縛を目指すんだけど、君はアルが言った通り、エリスと同じくゼルウェンの隊に残って後方支援に努めてほしい」

「まだ地図に載っていない砦を予測する作業ですか」

「その通り。指示はゼルウェンから出る。状況によっては後方支援隊も山中へ出動することも有り得るから、そのつもりで待機していてね」

「了解しました」

「じゃあ、行こうかエリス」

「へ?! は、ははあはい!!」

「あ、一緒に帰ろうと思ったんだけど、お邪魔だったかな? もちろんエリスはここでスカーレットとお茶の続きをしてもいいんだけど――」

「い、いえ!! あたしもここで失礼しますっ。ルカン様と御一緒できるなんて光栄ですっ!!」



 必死なエリスに、思わず笑みがこぼれる。

 かわいいなあ、エリスは。

 ナレシル少将は優しく微笑んでいる。きっとルカン様にもエリスの気持ちはダダ漏れなんだろうな。



 そんなことを考えながら、玄関で二人を見送る。

 なにやらルカン様に頭を軽く撫でられて、後ろから見てもエリスのあわてっぷりと狂喜が伝わってきて、わたしは思わず温かな気分で笑ってしまった。



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