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19 隠し砦



 アンガスティグ皇国との国境の山岳地帯は、鬱蒼と茂る原生林と巨石が特徴で、それらが洞窟や自然の要害を作る。



 ミリアさんと別れてからしばらく、前方に巨石が盛り上がった場所が見えてきた。

 地図で目を点けていた場所だ。


 心臓の音が耳の奥で大きく鳴る。



 もし、ここに隠し砦があるなら、別動隊の人々は知らない場所だ。


 そして、隊員たちは魔法で連絡を取り合っていて、その輪に入っていないのはわたしだけ。

 ヴァレンディル少将の他にわたしと積極的に連絡を取りたがる隊員はいない。

 ヴァレンディル少将は班、そして隊全体の統括に目を配らなくてはいけないから、わたしに構っているヒマはないだろう。



 行ける。一人で。



 本当はいけないことだとわかっている。

 わたしは極秘任務を利用して復讐を果たそうとしている。



 せめて誰も巻き込みたくない。

 わたしの胸の奥にいる復讐の獣の姿を、誰にも見られたくない。



 そのとき、巨石の影で何かが動いた。息を殺し、岩の影に身を潜める。



 見張りなのか、二人出てきて何かを話している。

 一人は狼獣人、もう一人はおそらく人間。二人とも手にはライフル銃を持っている。黒い詰襟の服。上半身には袖なしの魔獣の毛皮。


 まちがいない。山賊だ。


 奴らはアンガスティグ皇国の兵士崩れなので、皆、黒い軍服を着て、その上からこの山岳地帯に生息する魔獣の毛皮を身に付ける。



 あの日から七年。

 こいつらの姿を目の前にすることだけを目標に、軍で戦ってきた。

 いち早く黒い山賊を見つけるため、命令されるままカナリヤもやった。



 ついに、ついに見つけた。

「落ち着いて。まだ。まだだから……」

 ごく小声で自分に言い聞かせる。そうしないと押さえられないほど、身体が、神経が高ぶっている。

 胸の奥を喰い破って獣が出そうになるのを必死に抑え、様子をうかがう。



「面倒だな。また引っ越しかよ」

「だな。ハイリヒ国の奴らはここを知らねえんだろ」

「ま、魔女の考えることはわからねえよ。お仲間の暗殺を怖れてんのかしれねえしな」

「だな。俺らも魔女がいることで皇国の中央と対等に話ができるんだ。あの魔女は丁重に扱わねえとな」

「でもよ、気に入らねえよな。俺らを顎で使いやがってよ」



 心臓がどくん、と大きな音をたてる。

 なんという偶然の好機。魔女は、ここにいるのだ。


 相手は魔女。しかも古語魔法を使う強力な魔女だ。魔法も使えないわたし一人では到底、捕縛も暗殺も不可能。

 隊の誰かと合流する必要がある。ヴァレンディル少将は攻守魔法が展開できる人数が揃えば攻撃してもいいと言った。


 目の前にいる山賊を殺してやると、胸の中の獣が吼えている。

 けれどここで出ていっては、魔女を取り逃がす。



 単独行動を起こすつもりできた。が、魔女がいるなら話は別だ。ここは極秘任務を優先させるべきだ。



 わかっている。頭ではわかっているのに身体が動かない。

 すぐにここから静かに撤収し、近くにいる隊員を探せばいいだけなのに。



 そのとき、狼獣人が煙草を取り出した。

 毛むくじゃらの手で大きく毛皮をはだけさせ、内ポケットを探っている。腰に下げたサバイバルナイフが顕わになった。



 瞬間、全身の血がカッと燃えるように熱くなる。



 あの大振りなナイフで、村人たちは次々に殺されていった。

 父さんと母さんも――。



 考えるより先に飛び出していた。



 煙草に火を点けようとしていた手を蹴り飛ばしライフル銃を奪い、倒れた狼獣人の腹に銃床を思いきり打ち付ける。


「がはぁっ」


 狼獣人は泡を拭いた。


「こいつっ」


 隣で人間が構えたライフル銃の銃身を思いきり蹴り上げた。発砲音が山にこだまする。



「一瞬遅かったか」



 発砲されてしまった。わたしは舌打ちして狼獣人から奪ったライフル銃の銃床で人間の顔を殴り上げ地面を蹴る。

 よろめいて倒れた男の上に身体ごと着地し、毛皮の内側からサバイバルナイフを奪って男の喉元に突きつけた。



「言え。魔女はどこだ」

 




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