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11 それは極秘作戦


 俺が会議室に駆けこむと、皆はもう着席していた。



 別動隊の皆は俺が『番』の引っ越しのために半休を取っていたことを知っているので同情的かつぬるい笑みを返してくれるが、それが逆に居たたまれない。



 その途端、今日の自分のスカーレットに対する行動が脳内再生された。

 バカっ、止めろ俺の脳!! 

 なんで今スカーレットに対する俺のあんなことやこんなことを思い出させるんだ!!



 恥ずかしすぎるだろうっ!!



 と悶絶したいのを必死でこらえ、

「お、おそくなって、もうしわけない」

 羞恥心のあまり挨拶もそこそこにそそくさと席に座ると、ルカンが話し始めた。



「ではさっそく。緊急に集まってもらったのは他でもない、先日のベヒモス召喚の魔法陣、あれを作った魔法使いが特定できたそうですよ」


 皆の視線が一斉にルカンへ向いた。


「オルリッサという魔女です。元はアンガスティグ皇国の皇都で有名な薬師をしていたそうで、古語魔法を使うのだとか」



 古語魔法、と聞いて場がざわついた。



 古代魔法――それは遥か昔、太古の時代、文字が未発達だった頃、特定の宮廷魔導士にしか許されなかった魔法で、現在使われるすべての魔法の基礎になるものだ。



 今では古語魔法が解読でき、使える者はほんのわずか。

 そして、古語魔法が使える者は強力な魔法使いだとされる。



「問題は、オルリッサがどうやらアンガスティグ皇国の宮廷魔法使いになっていることですね。こちらに引き入れるという策はおそらくダメでしょう。ねえ、ゼルウェン?」

「はい。宮廷魔法使いとして招かれているなら、血の契約をしているでしょうから」


 宮廷魔法使いというのは国の機密事項を知る立場なので、どの国でも宮廷魔法使いには血の契約をさせる。

 破れば死、という強力な契約魔法だ。



「先日はベヒモス発見が早かったから別動隊と魔法部隊でなんとかなりましたけど、次はどうなるかわかりません。オルリッサを捕えるか、暗殺するか、というのが戦況を有利にする最も現実的かつ迅速な方法です」

「そんなに簡単に捕縛や暗殺ができるだろうか」



 皆、発言した男を振り返った。



 眼鏡の奥で静かに光る、鋼のようなグレーの瞳。それと同じ色の髪色。

 ティルナックス=ジルドール。ルカンや俺と同じく竜人で、ルカンと共に参謀部別動隊の頭脳の双璧を成す。

 歳も俺たちと同じく二百歳ほどで、如何なるときも冷徹なまでの判断ができる頭脳をもつ『鋼の竜人』だ。


「どういうことですか、ティル?」



 のんびりとルカンが促すと、ティルは長い指で眼鏡を軽く直し、手元の資料に目を落とした。



「諜報隊からの資料によれば、魔女オルリッサは皇都におらず、常に居場所を変えているらしい。暗殺を警戒しているのだろう。我らには時間がない。魔女の捕縛や暗殺より、仕組まれた魔法陣を見破る偵察隊を、魔法部隊を中心に作るほうが今後のためにも得策だ」

「うん、確かにそれもいいですね。でも機会があるならオルリッサを捕縛なり暗殺する方が禍根を断てるのでは?」



 ルカンの自信たっぷりな様子にティルは小首を傾げる。



「どういうことだ」

「実はついさっき、新たな情報が諜報隊からもたらされたのです。……これは参謀部の他の隊は知りません」



 ルカンはそう言って、人差し指を口にあてた。

 この場だけの話だ、ということだろう。



「オルリッサはアンガスティグの山賊を影で操っているらしいのです」

「なんだと?」ティルナックスが眉をひそめた。「では、今だ続く辺境の町や村の襲撃事件は魔女オルリッサが糸を引いているというのか」

「おそらくね。これって良い機会だと思いませんか?」

「……オルリッサごと山賊を一網打尽にするってことか」

「さっすがアル。そういうことです」



 ルカンがにっこり笑うと、皆の表情も明るくなった。



 山賊の略奪被害は甚大で、参謀部が抱える懸案事項の一つだ。

それを古代魔法の使い手排除と共に解決できるなら、こんな良策はない。


「罠かもしれんぞ」


 ティルの氷の一言に、場がしんと静まり返った。


「そんなうまい話があるだろうか。その情報は諜報隊がもたらしたばかりだと言ったが、裏は取れているのか?」

「もちろん、時間があれば裏は取ります。ですが、今の私たちにその時間があるでしょうか?」

「…………」

「互いに腹を探り合っている以上、我が国の諜報隊が動いていることはきっと覚られているでしょうから。嘘の情報をつかまされ、泳がされたかもしれません。ティルの言う通り、罠である可能性は否定できない。ですが」



 ルカンは一同を見渡して微笑んだ。



「先ほども言いましたが、これは我ら別働隊だけでの話です。罠に嵌まるのが三流以下。罠だと気付くのがまあ普通。罠だと気付いた上で乗っかって相手の裏をかくのが超一流。ではありませんか?」



 会議室に感嘆の溜息が漏れる。




 ティルは難しい顔で黙ったままだったが、ルカンのこの一言で作戦方針は決まったようなものだ。



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