姫ぎみ誕生2~不思議な神殿
なんて立派な神殿なの。白木造りは思わず息を呑むほどである。
本殿全体を眺めて拝殿に目をやるとこの巨大なお社に不思議と興味がわいてくる。
さらに社の奥に入って覗いてみたくなる。
「これだけ立派な神殿なのに。誰もいないのかしら」
怖さと興味半々。岩手の乙女は幻の中にある神殿を徹底的に探求したくなる。
拝殿から右手に回ってみる。色とりどりな幕が先を遮っていた。
拝殿の中が見てみたいわ
紫色や紺色のカラフルな幕をひとつ摘まみ中を覗いてみようとした。
次の瞬間背後から人の声が聞こえてくる。
オッホン!
えっ
クルリと振り返った。
拝殿横に杖をついた老人の姿がぼんやり見えてくる。
白髪の老人は身振り手振りで何かしら話かけようとしている。
姫っ…
姫ぎみ~
老人いた。
が、なにを言っているのかとんとわからない。現代人と異なる言葉を老人は話していた。
繰り返して同じ言葉を言われれとなんとか老人に慣れてくる。
「姫っ!ソナタは姫ぎみ様であらせますな。待ちましたでございます」
老人の背後に草むした古代人衣裳の老臣下が歩み寄ってくる。老人は地位が高い身分である。
杖をつき"姫っ"とか"姫ぎみ"と盛んに語りかけている。
聞き取り難い古代人の言葉だが"オト"だとか"オト姫"だとか耳に残っていく。
バスの中は眠っていた園児たち。そろそろ目を覚ましキョトンとしている。
ガラス窓越しに園児は先生を眺めてみる。
園児も茫然である。皆目何がなんだかわからず。口をポカンと開け目をパチクリするだけである。
老人が近く来るとはっきり顔がわかる。
「えっ!この老人は私に向かって姫って言ったわ。私は姫ぎみっと呼ばれた」
オト姫様?
何が姫なの
わけの分からぬ話である。
臣下の老人は手にした杖を大きく振り被る。呪文を唱えるかのように体の回りに大きな輪が描かれていく。
老人の立ち居振舞いを見たバスの園児たち。ひとりふたりと降りてくる。
不思議なことに泣いたり怖れたりする園児はいない。
老臣下が杖をぐるぐる回してもらう。姫と呼ばれ"自分の姿"を見た。
パッと視野が様子が変わっていく。
「あらっ」
自分で自分の衣装を見てしまう。
そこに今まで見たこともないきらびやかな衣裳を纏う可愛いらしい姫があった。
「あらっなんですの。何ですか?この衣裳は。一体なんなの」
テレビでも見たこともない民族衣裳を纏っているではないか。
ましてや自分で着たはずもない和装の衣裳である。
我が身を見て驚く。
幼稚園教諭の普段着は園児たちを引率するためにラフなTシャツにタイトスカートである。
だが老人に姫と呼ばれた今は全身艷やかな貴族女性の和装である。
カラフルな出で立ちは平安貴族なる十二一重にも見えた。
頭が重いと髪に手をやると豊かな黒髪がある。しっかりと後ろ髪は結いておすべらかしであった。
どっどうしちゃったのっ私
充分な驚きである。
女のたしなみは長い髪。これ程まで伸ばしボリュームたっぷりにたくしあげたことはなかった。
和装の衣裳もしかりである。首からぶら下がるきらびやかな装飾品の数々。
金や銀の宝石が幾重にも飾りつけられている。
胸元にあしらわれた一際大きな宝石。それは琥珀であった。
「あらっ。この宝石や装飾品はどこかで見たわ。そうだ!」
見学した琥珀博物館で館内いっぱいに飾りつけられていたものばかり。
姫っ~
オト姫ぎみ
和装の姫は老人に弟橘比売命(おとたちばな姫)にされてしまった。
「姫ぎみ様。ソナタは弟橘比売命姫さまであらせます」
弟橘比売命(おとたちばな姫)?
オト姫ぎみ?
「お待ちいたしておりました。そちらは臣下が控えておりますな」
老人から幼い園児らは臣下に見えた。
杖を突き老人は弟橘比売命(姫)であるとした。どこにでもいる幼稚園教諭は今は弟橘比売命という姫ぎみと呼ばれていた。
臣下?
家来?
従者?
弟橘比売命の後ろから足音がザクザクと聞こえてくる。バスから颯爽と降りてくる園児たち。
わんさか連なってバスを降りてくる男児と女児…
ズンズン
ズンズン
男児はどんどん臣下(お姫付き家来)に変化していくではないか。家来の様相に変わる男児らは皆が皆成人をし立派な大人となる。
変化を遂げた男児は立派な臣下に成り代わり勇猛猛々しき成人男性になる。
ある者は弓を持ち。
ある者は剣を脇に差す。
そして臣下の胸に勇者の誇り琥珀の飾りがひとつずつ着飾られている。
「弟橘比売命って私?臣下って園児のこと」
姫に変わったの?私。
男児は臣下であり家来となっていた。
「あの老人は私を姫って呼んだ。『弟橘比売命』はお姫さまの名前なのかしら。う~ん私はどうなっちゃったの」
はたまた女児は女児で芳しき乙女の和装姿である。可愛く古代に成り代わり侍従女となる。
髪飾りや着物の着飾りに琥珀の装飾品があり思い思いに個性的な侍従女である。
侍従は神殿の袖に仲良く並んだ。
姫である弟橘比売命はその場にある劇場のヒロインとなっていた。
老人は杖をくるくる回して魔術を掛けていく。杖を右へ左へと向けて臣下をすべからくコントロールする。
神殿に向かっていく。園児の化けた臣下も侍従女も弟橘比売命を取り囲んでついていく。
拝殿に老人は来ると深い礼をひとつ。
大声を挙げた。とても老人とは思えない大声と張りである。
申し上げます!
申し上げます!
「天さまに申し上げます。姫がこられました。何卒お伝えのことを」
この大きな声に答えたのが神殿の奥であり神々である。
おおっ~申し受けまする
勇ましい男の雄叫びが神殿に鳴り響く。荒々しき男の声がしたと思えば柱から廊下からゾロゾロと宮殿に武装をした臣下が現れた。
全員が鎧兜に武器を持ち勇ましい姿である。老人は膝をつき頭を下げた。
「天さまに。今宵の喜びを申し上げます。姫ぎみをお連れいたしました」
武装をした勇ましい神殿の臣下たち。弟橘比売命と園児の臣下を平倪する。
姫ぎみがいると知るや否やサアッ~と態度を改めた。
武装兵士は全員が全員きれいに整列をし直す。弟橘比売命に向かい直立不動の姿勢である。
兵の隊長が号令を出す。
敬礼!
姫ぎみ様に最敬礼!
弟橘比売命は神殿にある部隊の荘厳さにドングリ眼を向けるだけであった。
姫と呼ばれるからには身分は偉大なものであり尊きもの。この最敬礼で自覚をした。
杖つく老人に従い神殿にどんどん入っていく。神のみが許される拝殿の間に通される。
拝殿に至ると女児が3人現れる。弟橘比売命の後部からつき従う。
何かと思うとサッと広がる後ろ髪を手にした。
女児らは重々しい和装物の袖や裾を払い手伝っていく。弟橘比売命はクルリっと振り返る。数メートルもの長裾が拝殿の間に広がっていた。
畳数丈にも至る長い髪に本人が驚く。
「弟橘比売命様。天さまがお待ちでございます。ごゆるりと」
老人は一礼すると拝殿の奥に引きこもる。それが老人を見かけた最後の姿となった。
天さま?
天とはなんだろうか。
弟橘比売命は拝殿の間に女児とともに待たされた。
カンカン
拝殿の裾柱から銅鑼の音が鳴り響く。支配下にいた臣下らは全員膝を折り蹲踞した。
神々しき光りが神殿奥に見え隠れし始める。侍従の者が現れてくる。先導は大童(おおわらわ・子供)であった。
弟橘比売命も男児臣下の者と同じく頭をさげ何が起こるか見守ってみる。
尊き人が神殿に出現である。
「今からなにが起こるのかしら」
わけのわからぬうちに自然とかしづいていた。
拝殿に鑼の音がゴンゴンと響く。武装した臣下たちははぁはぁっと最敬礼を拝殿に向かい繰り返した。
神殿の奥がパッと光り輝く。回りは暗くなる。その時に何やら声がした。女性的な弱い感じの声である。
"皆のもの苦しゅうない。臣下よっ面をあげよ。(姫は)余に(顔を)よく見せよ"
天の声は柔らかい響きがありなんとなく女っぽいのである。力なく男か女か区別がつきにくい言い回しに聞こえた。
天の声に言われ顔を挙げてみる。
そろり
そろり
拝殿に向けて徐々に上げていく。
眼前に神々しき男あり。神殿の台座に神々しくお座りになりこちらを見ている。
"ソチは弟橘比売命なるか。余によくその美しさを見せよ。美しい弟橘比売命を見せよ"
女らしき声に弟橘比売命は従い頭をあげてみた。
弟橘比売命のおすべらかしの長い髪。サラサラときらびやかに輝く。女児は弟橘比売命の数メートルもある髪をサラサラっと伸ばした。鮮やかな黒髪はきらびやかである。
声の主は僅かに顔を隠していた。
弟橘比売命はスクッと背筋を伸ばし神殿に進む。
天の声を間近に聞く。
アッ!
頭をあげてみる。拝殿の間になにやら神々しき光りがちらついている。
神殿の台座を見てみる。近くに寄ると尊い人物であることがわかる。
神々しき光りが目映く感じてくる。
「そこにいらっしゃるのは誰なの」
大変に尊い人物であることは臣下が緊張をする雰囲気から感じ取られた。
弟橘比売命の視線の先を導き出すのは後光差す尊き人である。
その尊き人は両脇に大童をはべらかせている。
拝殿にあらせるは現人神であった。
(古代の)天皇である。
神々しき後光差す天皇は弟橘比売命を頭の先から足許まで見つめる。
古代は第12代景行天皇その人である。
神殿は神の域である。
天皇は神そのものである。
現れた神は微笑みながら弟橘比売命に手を差し出す。細く力のない腕がヒラヒラと動いて見える。
「そなたは弟橘比売命であるか。噂に聞く美形な女じゃ。姫は見栄えよき美しき女なるぞよ」
景行天皇は弟橘比売命の麗しき容姿に魅了されうっとりとなる。
弟橘比売命に近くに来なさいと手招きを繰り返した。
拝殿に上がりなさい。
天皇にはべりなさい。
小さく小さくヒラヒラと手を振り招き入れてくる。
「美しき弟橘比売命。近くに(来なさい)。ソナタの美しさをより近くに見たい」
天皇の声は柔らかく抑揚がまったくない。女性的なのである。
手招きされた弟橘比売命は吸い込まれるように天皇の主座にいく。
天皇への謁見は庶民など赦されぬこと。幼稚園教諭の身分をすっかり忘れてしまう。
弟橘比売命の背後にいる大童たち。景行天皇の手招きのしぐさに前に出る。
長い髪を束ね持つ大童は弟橘比売命を天皇に召し出すかのようにしゃしゃりでた。
拝殿前にあがると天皇は女性的にシナをつくり弟橘比売命の手を握りしめる。
古代天皇に触られている。
いと尊き天皇にギュッと手を握られている。
一瞬にして恥ずかしさから顔が赤らむ。古代日本の統治者に手を握りしめられていると思うと緊張感が走る。
天皇は小柄な方である。手も小さかった。さらには細い腕は冷たい感触でとても男の手には思えない。
皇太子として生まれ重いものなど一度たりとも持たぬ天皇の手であろうか。
オホホッ
天皇は優しく笑った。女性的な顔でしっとりと笑っていた。
見れば見るほど美しい弟橘比売命である。天皇はさらに好意を持ち我が手に抱きしめた。
「可愛い女じゃのう。余の見た女の中でも可愛いものよのぅ弟橘比売命っオホホッ」
目を閉じる。ジッとしてなすがままになる。
天皇の手で優しく抱きしめられる弟橘比売命。尊き世界と思い緊張が走る。
さらに耳元で繰り返しオホホッと上品笑いで囁かれるてしまう。
尊き天皇に抱きしめられる弟橘比売命は不思議と心はなごんでくる。
天皇は弟橘比売命の長い髪を撫でる。しっくりとした黒髪はさらさらできらびやかである。
「素敵な髪じゃのう。オホホッまことに可愛い女。なんという弱女なんじゃ」
天皇におすべらかしを撫でられると弟橘比売命は快感である。
天皇に気に入られると…
十二単の袖口に手を入れてきた。直に素肌を触りたくなってきた。
「吸い付くようなすべすべの肌であるな。たまらぬたまらぬ」
弟橘比売命は優しい天皇の手を受け入れた。弟橘比売命は天皇の愛撫を受けてしまう。
知らぬ間に天皇の小さな手が肌に吸い込まれていく。
小さな手が冷たい感触で柔らかな乳房を弄んでしまう。
弟橘比売命は顔を天皇の胸に埋めた。
ハッ
弟橘比売命は気がつく。私は何をしているの。天皇の胸に弟橘比売命は触れ乳房を触られているではないか。
やだぁ~私って
(はしたない女に見られる)