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封じ込められた日本神話  作者: sadakun_d
琥珀(こはく)の涙
1/6

琥珀の歴史

太平洋に面する岩手県久慈海岸。母親に連れられた可愛いらしい女の子が波打ち際で遊んでいた。


女の子の手には子供用プラスチック製スコップである。


「ひぇ~冷たいなあ」


浜辺に荒波がザァ~ザァと寄せられ綺麗に掃き清められる。


荒々しい波しぶきが去ると浜辺一面に貝殻やかわいくてカラフルな小石、さらには海藻類が打ち寄せられる。


女の子は波が去ると母親と顔を見合わせる。


アラッ


待ってましたとばかりバシャバシャと浜辺に走り寄り海からの授かりモノを拾い集める。


手にした玩具スコップでよいしょっと女の子は目につく貝殻を掘っていく。


貝殻だけでなく小石もかわいくて集めたい。


浜に遊ぶ女の子は荒波と戯れ太平洋からプレゼントをいくらでももらうのである。


「ヒャア~小石は可愛いなあ。お母さん見てみて」


女の子の手にする籠は集めた小石や貝殻でみるみる宝の山となっていく。


小さな手にカラフルな色彩の巻き貝が捕まる。女の子は得意になった。


「お母さんこんなに綺麗な貝殻があったの。あれっワカメちゃんもあるわ。いやだ私お味噌汁飲みたくなっちゃった」


自分で自分が可笑しくなりけらけら笑う。


拾い上げた"海からのプレゼント"


次々に手にしては母親に自慢をするため高く掲げた女の子。


うん?


自分で貝殻と言ったがすぐに違うとわかる。


「あれっ貝殻じゃあないなあっ。だって殻がないもん。パクッて開くお口もない。あらっ餌はどこから食べ食べするのかしら」


スコップで拾った貝殻みたいな小物。苔むした異物のような塊。女の子は盛んに首を傾けた。


「じゃあ小石かな。小さな亀の赤ちゃんかな。お魚さんの丸々しい卵かな。お味噌汁なんて言うから食べられちゃうと思って丸くなったのかな」


手にしたモノは青苔で覆われる塊で女の子には嬉しいプレゼントにはほど遠い。

海からのプレゼントをとりあえず小さな籠に入れる。スコップで掘って集めた海の蟹や海藻類も籠に入れていく。


知らない間にかなりの収穫があった。


「ひゃあ集めたわね。お母さん見てみて。籠はいっぱいよ。もう充分だわ。お腹いっぱいだわ。キャア~嬉しい」


女の子は色とりどりな海からの収穫を見るとにっこりする。


籠の中にかわいい蟹がよちよち歩いていた。


浜辺の後ろから母親の声がする。日傘を差し女の子に近づく。


「よく遊んだわね。お父さんが心配するから帰りましょうか」


母親はサングラス越しに女の子の籠を見る。何やら小さな海の産物で溢れている。


母親に呼ばれた女の子は帰りましょうかと言われて元気に"はぁ~い"と返事をする。


クルリと振り向く。そこにやさしい母親を見る。


「帰りましょうかお母さん」


浜辺に脱いだ長靴をはいた女の子。長靴はちゃんとはかれなかったらしく浜辺を危なっかしく走ろうとする。


ガシャアーン


母親の後ろ姿を追い駆けようとした。出だしで長靴が縺れて転んでしまう。


女の子は手にした籠をバシャンと落としてしまう。


アチャア~


転んだ女の子はベソをかく。


母親は振り返りびっくりする。


「まあまあそんなに慌てなくても。(転んで)大丈夫っ痛くなかったかしら」


浜辺である。痛くはないが恥ずかしさから女の子は涙がこぼれた。


母親はホラホラッ泣かないでっと女の子の顔をハンカチで拭き取る。手足についた砂を落としてやる。


「うん痛くないわね。あらっ籠がひっくり返ってしまったわ。蟹さんが逃げちゃうわ」


母親はひっくり返した籠に拾い集める。女の子が一生懸命にかき集めた貝殻や小石をせっせと。


早く帰りたいがため目についた小物だけ集めると女の子の手を引いた。


蟹はどこかに逃げてしまいつかまえられなかった。


「さあ行きましょうか」


"青い苔の塊"は母親が拾い上げることを忘れた。そのまま荒波が押し寄せ再び海辺に戻っていってしまった。


琥珀の涙は悲しみの象徴。幸せな家族には涙は必要がない。


青森県境に近い岩手の久慈海岸。複雑に入りくんだ海岸線はリアス式で有名である。


その久慈はもうひとつ有名なものがある。


日本でも珍しい"琥珀(こはく)博物館"の存在である。

久慈の琥珀は太古より産出し古代人に地下深く埋蔵の存在がわかっていた。


歴史の中にも重要な役目を果たす。岩手を含む東北の地は地質学上中生代に地殻変動があった。


久慈は針葉樹林(松)が一面に生い茂り大自然の楽園を形作っていたという。


その中生代(白亜紀・ジュラ紀)に久慈の並木は埋没をし針葉樹から(やに)や樹液が流れ地殻変動の波に呑み込まれた。


大自然の恵みは地殻に深く埋没する。これが久慈琥珀の源になる。


中生代の細分化は10~20とも分類される。大きな区分は白亜紀/ジュラ紀。琥珀が形成された中生代。


中生代なる"古代地球"は巨大な恐竜が至るところ棲息していた。


地球そのものは温暖で巨体の恐竜の食を満たすための食物・餌も豊富である。


野山には原始的な裸子植物などが生え映画の『ジュラシックパーク』そのものがそこにあった。


久慈琥珀からは古代の昆虫類が封印され出土している。恐竜と共生をしたというロマンチックな逸話も頷ける。


岩手の夏は短く終わりはすぐにやってくる。


8月の半ばに季節が変わり秋の気配が訪れている。久慈の浜辺はまばらな人で一抹の淋しさを覚える。これから岩手の長い冬の訪れを予感させる海岸の風景である。


海岸は荒々しい波がザブンザブンっと打ち寄せており日増しに厳なる冬の訪れを感じていく。


まばらな人影の中に家族連れである。父親の運転する白いキャラバンが浜辺の木陰に止まり母親と女の子たちが現れた。


バックドアを中心にビーチパラソルが立てられちょっとしたダイニングが出来上がる。


優しい母親がおにぎりと卵やお菜などの入ったバスケットを大切そうに扱う。


小学生の女の子たちはお昼に食べるおにぎりとおやつが大の楽しみである。


お昼頃にキャラバンにキャンプの食事の用意が整う。

やさしい母親がバスケットからおにぎりをひとつひとつ取り出す。子供の顔が和む瞬間である。


「お母さん美味しいね。海で食べるおにぎり。ハイキングのお弁当は気持ちいいなあ」


女の子は笑顔でおにぎりを頬張る。おやつの果物も小さなお口でムシャムシャと平らげられる。


楽しい昼食が済むと女の子らは母親に色とりどりな帽子を被せてもらう。


かわいい笑顔の女の子にリボンのついた帽子である。

派手な色の帽子は女の子たちの迷子防止の役目も果たしていた。遠目でも他の子供と区別がつくように鮮やかな色を選んである。


「お父さんお母さん行ってきます」


元気に挨拶すると女の子たちは待ちきれず一目散に浜辺に走り出す。


冬が近い久慈の海岸線。早くしないと日が陰り寒くて浜辺にいられない。


海岸の日射しはさして強くはない。まして肌を焼くこともなかった。女の子らは波打ち際に素足をつけた。


チョンと爪先をつけるだけでピリッと冷たい。


「ヒェ~足が凍りそうだあ。やだあ海から逃げたいなあ」


元気な女の子たちはキャアキャアと波と戯れる。


波を相手に走ったり逃げたり。カケッコは忽ち疲れてしまう。


次の遊びは海からのプレゼントを拾い集めることだった。


「お母さんにビニール袋をもらって来ましょう。綺麗な貝殻を集めたいわ」


女の子たちは浜辺に打ち上げられる海からのプレゼント(貝殻・小石)を真剣に拾い集める。


海辺を眺めるといくらでもきらびやかな海産物が転がっているではないか。


「凄いなあ。この浜辺に綺麗な貝殻がいくもあるわ」


キャア~


キャア~


探してみればいくらでもかわいくて小さな貝殻はある。


「ほらあそこ。やだ足元にもある。あらっこれは小石だった。でもカラフルなものね。綺麗だわ」


二人で拾い集めたらビニールはいっぱいになってしまう。拾い集めた海からのプレゼントは大切そうに母親の元に運ばれた。


「お母さん見て見て。可愛い貝殻さんよ。カラフルなんだね。素敵だわあ」


女の子はかわいいしぐさで耳に貝殻をあてた。


「お母さん。綺麗な貝殻を耳にあてたら海からのメッセージが聞こえてくるわ。潮の香りとメッセージが貝殻にはあるのよ」


パラソルの下で母親は微笑みかける。女の子から差し出された小さな貝殻を母親も耳にあてる。


母親の耳元にカラカラっと海のざわめきが聞こえる。

「本当ね。貝殻さんからお話が聞かれそうね」


母親と女の子たちは目を閉じると夢の世界に埋没していきそうである。


「お母さん見てちょうだい。こんなに貝殻が集まったの。この綺麗な貝殻からは音楽が聴かれるの。お母さんの子守り歌よ」


母親は女の子の顔を覗くとよく集めたわねっと頭を撫でた。ご褒美ですよっと可愛いらしいキャンディをひとつふたつバスケットから取り出した。


「見て見てお父さん。わあっ~こんなにかわいい貝殻があるのよ。こちらはキラキラして綺麗な小石よ。海岸をずっとずっとキラキラを拾いながら行きたいなあ」


父親はパラソルの下で音楽を聴いていた。女の子の可愛い白いブラウス。父親が眺めていたら海風にヒラヒラとなびく。


子供は元気が何よりだっ。まだまだ浜辺で楽しんでいるなっと思い再び音楽を聴き始める。


女の子たちは浜辺に走り出す。浜辺の波に逆らって貝殻拾いに進んでみる。


だが忽ち冷たい波に負けて逆走をしてしまう。


波が去るとその場にしゃがみ込む。打ち上げられたばかりの小さな貝殻と小石がそこに散りばめられている。


女の子たちは可愛い可愛いと小さな貝殻を見つけてはどんどん拾い上げていく。

浜辺で遊ぶ女の子たちを遠くから親が見つめている。いずこにもある幸せな家族の姿である。


波がザブ~ンザブ~ンと浜辺を掃いた直後である。


新しき魅力的な宝石が打ち寄せられた。


キラキラ


キラキラ


女の子たち浜辺に光輝くそれを発見する。


ワアッ~


ワアッ~


新たなる発見に小躍りしながら歩み寄る。


ワアッ~綺麗ねっと鈍く光輝く"キラキラ"を拾い上げた。


女の子は何も不思議なこともなく自然と手を伸ばし浜辺から拾い上げた。


なんだろうかなっ。手に持ってみる。


うん?


鈍き光りのキラキラは貝殻ではなかった。ましてや小石でもない。


「ちょっと…。なんだろうかねっこれ?」


女の子たちは互いに顔を見合わせた。


荒々しい波が幾度となく打ち寄せた浜辺。可愛い女の子が拾ったキラキラは海からのプレゼントである。


貝殻でも石ころでもない。ましてや海藻などでもない。


大自然からの貢ぎ(プレゼント)である。女の子らはすぐに父親の元に駆け寄る。


貢ぎ物を持つ女の子の手のひら。父親の前に出してゆっくり開いてみる。


父親は娘らの様子が違っていると気がつく。


「うんお姉ちゃんは何を拾い上げたの。変わった貝殻かな。可愛いい小石。それともお魚さんが海からやってこんにちはをして来たかな」

父親は音楽を聴くのをやめる。差し出された娘の手のひらを見つめた。


何か知らぬが胸騒ぎがしてしまう。


ホラッ見てみてお父さん


ギュっと握りしめられた娘の手のひら。ゆっくりゆっくり開けられていく


神々しき光を放つ宝石(琥珀)が見えてくる。女の子のかわいい手のひらに相応しい煌めきのある宝石であった。


父親は手のひらをホォ~と眺め息を呑む。


こいつは貝殻じゃあない!

横から母親がヒョイッと顔を出した。父親の様子が違っていた。


「まあっどうしたの。これ琥珀じゃあないの。あら可愛いわね。よく洗わないとわからないけど相当なものよ」


琥珀があるの。


女の子はエヘッと照れ屋さんになった。


「大変な代物(しろもの)を拾い上げなあ」


太古の昔から久慈の海岸に琥珀が打ち上げられている。


日本の歴史には先土器・縄文・弥生文化とあるが琥珀そのものは太古から延々と眠り続ける。


久慈の海岸沿いは縄文時代から人類が定住をし狩猟と海洋で営みをしている。


久慈の縄文人は早くから琥珀の存在を知っている。


青苔むした塊。女の子は母親から琥珀よっ宝石だわよっと言われてにっこりとする。


「お母さん琥珀(こはく)ってなんなの。この苔の塊って光るの。どうしたら宝石になるの。お湯をかけたらいいのかな」

お湯っを掛ける?インスタントと同じと言われて大笑いである。


「やだあ私って大変なもの拾っちゃったあ~キャアキャア」


磨けば磨くほど鈍く光る久慈琥珀である。


女の子が拾い上げた琥珀は苔むしておりくすみがかり青っぽい塊だった。


父親がタオルで外観をゴシゴシ擦ると鈍い光が少し見えてくる。


「お父さんお湯をかけたら光るわ」


女の子は母親の後ろから呟いた。


太古からのメッセージ琥珀は日本国内で産出をされる。北海道・福島・茨城・埼玉・千葉・石川・島根と意外にも産出記録が残り古代からその存在は知られていた。


だが産出量も多くその良質さも他を寄せ付けないのが久慈の琥珀である。


大きな塊をドッカッと産出するのは三陸沿岸北地域と千葉県銚子地域。


三陸海岸(久慈)の琥珀採掘は縄文時代前期に始まり平安時代にまで至る。


採掘された琥珀。神々しき光りから人々を魅了し交易の有力な代物となる。


美しき輝きを誇る琥珀に心奪われ欲しがる時の権力者が多数いたのである。


日本列島各地に久慈の琥珀は権力者の独占欲を満たすために散らばる。


有名なのは5~6世紀の奈良の古墳群であろうか。権力の誇示を見せつける装飾品が数々出土した中に最も光り輝くのは琥珀である。


科学分析の結果久慈地方産出と特定されている。


久慈市中長内(なかおさない)遺跡からは琥珀の工房が出土している。


遺跡は奈良時代から平安時代にかけての住居跡であろうか。


琥珀の大塊や破片・半製品の玉などが発見されている。


琥珀の装飾工程は採取→あら割り→粗削り→穿孔→研磨。そして宝石装飾の琥珀の完成に至る。


久慈の海岸で女の子が拾い上げた琥珀をキャラバンの中で父親がゴシゴシと擦り始める。


鈍き光りがそれとなく輝きをみせてくる。


うん!


ムシャムシャ


ガサゴソ


青苔の塊の琥珀。しっかりごしごしと摩擦をされて熱を帯びてくる。


アラッアワアワ


女の声が琥珀の精が目覚めの時を迎える。長く眠る女神は目覚めを感じたようである。


パチッ


琥珀の女神は片方の瞳を開けた。


浜辺の人々が琥珀を見ようかと増えてくる。キャラバンの周りに人だかりができた。噂が噂を呼んでしまう。


一目みたい魅力的な琥珀である。


「ちょっと琥珀を見せてよ」


2~3人の小さな人だかりがだんだんと膨れていく。


「あの女の子が(琥珀を)拾い上げたらしい。波打ち際にひとつだけもあるまい。しっかり探してみたらいくらでも琥珀はあるぜ」


日が陰りつつあるも大人や子供は素足となって久慈海岸に行く。波打ち際や岩壁の溜まりなどを隈無く見ての宝探しである。


浜辺でのんびりしていた観光客もざわめく。俄に始まる宝探しに夢中となる。


「うーん見つからないぜ。ひとつだけしかないのかな。探してもないとは不運だなあ。女の子がたんまり拾い上げた後かもしれない」


久慈の宝探しは寒風とともに暗礁に乗り上げてしまう。


夕陽は沈み観光客らは浜辺を惜しみながら帰っていく。


女の子の家族も浜辺を後にする。父親がダイニングセットをキャラバンにしまいこむとエンジンがかかる。

「お父さんお母さん今日は楽しかったわあ。綺麗な貝殻も小石もいっぱい拾えたもん。お母さんのおにぎりも美味しかったもん。また春になったら来たいなあ」

女の子たちは後部座席で笑顔である。


膝の上にあるビニール袋は貝殻などでパンパンに膨れていた。女の子の楽しみは貝殻に糸を通しビーズと合わせて綺麗な首飾りを作ること。


女の子は拾い集めた貝殻や小石を眺めては大切そうに抱きしめる。


やがて遊び疲れてスヤスヤと寝入ってしまう。


キャラバンを運転する父親と助手席の母親。子供らが寝ていることを確認するとあらあらっと毛布を掛けてやる。


「1日中走り回ったから疲れたみたいね。まあお姉さんと仲良く体をくっつけて寝てる。どんな夢をみているのかしら」


娘たちが寝ついたと聞くと父親はギュっとハンドルを握りしめた。


よりいっそう安全運転に気をつけていく。


母親は娘のビニール袋を取る。中から琥珀を取り出した。手に持ち光りにかざしてみる。


「琥珀は専門家に加工してもらわないといけないわね。青い苔を洗い落として研磨して。久慈琥珀博物館に行けば装飾品にしてもらえるかしら」


母親は琥珀の鈍き光りをじっと見つめてみる。


琥珀は女性の心を何かと掻き立てる。眺めていくうちに光り輝く装飾宝石に見えてくる。


琥珀の女神はじっと母親を見つめている。ついついうっとりとしてしまう。


「おいそれよりもさ」


母親は夢心地でいたが父親は現実的な考えをする。


この琥珀の価値はいくらぐらいになるのだろうか。高価な琥珀とはどんなものだろうか。


「なんとなく高価なものに思うな」


途中で久慈琥珀博物館に寄ろうかと相談をする。母親は時計をチラッと眺める。


遅い時間だわ。


「あなた急いでください」

アクセルはグイッと踏み込まれた。


「加工して製品にしてもらうと琥珀の値段(売値)はいくらになるんだろうか。青い苔を取ると中に昆虫や樹木の破片が残っていたりしてな」


※琥珀に古代の封入物があるとかなりの高値がつく。

昆虫が綺麗に封入された琥珀は貴重である。中世(ジュラ紀)に棲息をした昆虫は生物学の面から重宝される。


琥珀が形成された太古の中世紀。日本海は存在せずアジア大陸と陸続きだったと学説がある。


陸続きならばアジア大陸から恐竜や古代生物がぞくぞくと餌を求めてやって来ている。


久慈の海岸で太古のアジアが学説上重要になることもある。


キャラバンで眠る女の子らは大変な宝石を拾ったと喜びで胸一杯で夢心地である。


浜辺で拾った小物が装飾加工をされて高値(値段)となるとショックであるかもしれない。


キャラバンは久慈琥珀博物館に到着する。父親が相当飛ばしてくれたため閉館まで30分ほどである。


母親は館内を巡り学芸員を探した。


「うちの娘が琥珀を拾ったんです。よろしければ加工して装飾品にして貰えないでしょうか」


綺麗に折り畳むハンカチにくるんだ琥珀を博物館の学芸員の前に取り出した。


琥珀博物館員はほほぉっと苔むした琥珀を手に取って眺めてみる。


「かなりの大きさの琥珀ですね。うーんそうですね。青い苔を綺麗に洗浄してみたら立派な装飾となるでしょうね。そちらのカウンターで装飾加工の手続きをしてください。数日で"宝石の琥珀"になると思います」


学芸員は差し出された琥珀を手にしたら光りにあてて盛んに観察する。


代物は珍しい程に大きいのか。青苔があるから内容物がわかりにくいのか。


じっくりと興味を示しながら眺めていた。


母親はカウンターで加工料金の支払い手続きを済ませる。


博物館の館員によろしくお願いしますと席を立つ。閉館に間に合い用を済ませると急に気楽になる。


琥珀の売値を確かめておきましょうと博物館のショーカウンターを覗くことにする。


色とりどりな宝石/装飾品がところ狭しと並ぶ。


金銀の装飾プラチナチェーン飾りがつけられた琥珀があった。


えっ!嘘おっ~!


見た目のそれなりの高価な値札があった。


母親は持ち込んだ同じサイズの琥珀を探してみる。


「学芸員さんの言うようにかなりな琥珀になるわね」

ショーケースを渡り歩いてさらに値段のはねあがるコーナーを見る。


あらっ!まあっ!


大きさが同等と思う琥珀のコーナーの前である。


2百万~5百万と"~000"がいくらでも並んでいく。母親は危うく卒倒しそうになる。


「そんなに高価な価値がこの拾い上げた琥珀にあるの。こりゃあ大変な拾い物をしたわね」


ウチのオコチャマさん。偉いぞって褒めてあげなくちゃ。


ウキウキしながら足早にキャラバンに戻っていく。母親の頭の中はお金持ち気分になっていた。


「なにしてんだ。早く帰るぞ」


琥珀ひとつを預けるのに長いぞっ!


運転席の父親は遅いぞっと怒鳴りつけた。


そんなことは一向に気にならない。頭の中に琥珀の売値数百万円がちらついてしまう。


「あらっ遅いかしら」


それだけの高値を手にしたら車のローンを支払い一戸建ての家を物色できる。


キャラバンのドアを開けるまで"それだけ"を考えてしまった。


取らぬ狸の皮算用。諺は2人の娘を持つ"母狐"にぴったりと当てはまるようである。


「なんだいオマエ。やたらニヤニヤして。気持ち悪いぞ」


バタンとドアを閉めたらキャラバンは一路自宅に向かった。

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