三 星降る宙からの使者
一
マックとルナとエリックは、マックによる各メディアを用いた国民への謝罪が終わってからすぐに、湖畔へと向かい、宇宙船にクルーザーで近づいた。運転はクルーザーの持ち主のエリックだ。不審物体つまり宇宙船の調査を政府は水曜日朝から行なうとしているが、三匹は実情を早く知りたくて、無断で宇宙船を調査することにしたのだ。
宇宙船にクルーザーが横づけされると、宇宙船が上下二つに分かれ、一匹の黒猫が現れた。それは火曜日の夜九時ちょうどのことだった。
「シャーロット!」マックは叫んだ。ルナとエリックはこの現実を呑み込めないらしく、ただ茫然としていたが、マックはシャーロットがルナを生んだ時に出来た帝王切開の跡を見てその黒猫が、マックの妻であり、ルナの母であるシャーロットだと確信したのだ。しかし、シャーロットは記憶喪失になっているのか、マックにこう言った。
「あなたは誰?そもそも私の名前はシャーロットではなくてナオミよ、ナオミ大佐って呼んで。」
「いや、ナオミ大佐。君はシャーロットだ。その帝王切開の跡は、僕らの子供ルナを生んだ時に出来たものだ」
「私、夫どころか子供なんていないわよ」
「じゃぁその帝王切開の跡は何故あるんだ」
「知らないわ。そんなことより私は、お伽の国政府のお偉いさんに話をしに月の裏の基地内の軍事研究所から派遣されて来たのよ、研究所では私は軍人でもありAIキャットトルーパーっていう猫型ロボット兵器の開発をしている研究者でもあるの」
「・・・シャーロット。君はナオミじゃない。きっと記憶喪失にされた上で偽物の記憶を埋め込まれたんだ。とにかく、色々話をしたいからこっちのクルーザーに乗り換えないか?」
「面倒ね、ここから動くのは嫌だわ、月の裏からの移動で疲れてるし」
「じゃぁ、こちらからそちらに乗ることにしよう。娘と、エリックっていう仲間もそちらに行く」
「それならいいわよ。私も色々話したいし」
二
宇宙船の中のリビングのソファに四匹は座った。
「シャーロットもといナオミ大佐、肉球占いをしてもいいですか?」マックは言った。
「なにそれ、当たるの?そういうのが私は実は好きなんだ」シャーロットは言った。
マックは一計を案じルナにシャーロットの肉球占いをさせることにした。もうルナは肉球占い見習いを卒業させてもよい頃合いなのであとは研鑽を積むことが重要だし、この方が言葉で話すより鮮烈にシャーロットについて知りたいことが分かるだろう。
「ルナ、大佐の手を見せてもらいなさい」マックはそう言ったが、シャーロットは少し不安になった。
「こんな小さい女の子に本当に肉球占いなんて出来るの?」
「大佐、ルナは最近めきめきと腕をあげていているんだ。大丈夫だよ」マックは言った。
「大佐、利き手じゃない方の肉球を見せてください」ルナは言った。
「・・・いいわよ」シャーロットはそう言って左手をルナに差し出した。
「帝国軍事大学に入学したところから今までの記憶はあるけど・・・それまでが・・・」
「おかしいわね、物心ついてから入学するまでの記憶もちゃんとあるわよ・・・過去や現在より未来が知りたいわ」
「ちょっとまって。やってみたいことがあるんだ」突然エリックが話に割り込んできた。
「何がしたいんだい?エリック」マックは言った。
「ちょっとクルーザーに、大事なものを取りに行ってくる。少しだけ待っててくれ」
エリックは静かにクルーザーに一旦戻り、ほどなくして愛用しているアコースティックギターを抱えて戻ってきた。
そして、マックがエリックに言われリクエストした曲を、ゆっくりと奏で始めた。
ルナはその旋律を耳にしてすぐに、胸の奥が少しだけ温かくなるような気がした。
それは、シャーロットが産後うつになる直前まで、よく口ずさんでいた歌だった。
「なんだか頭痛がしてきたわ」シャーロットは言った。
「回想音楽法という音楽療法を試したのさ」とエリックが言うと、シャーロットは気を失って倒れた。午後十時頃の話だ。
三
シャーロットが目を覚ますと、宇宙船のリビングのソファに寝かされていた。時間は午後十一時になっていた。そしてマック、ルナ、エリックがシャーロットの顔を上から心配そうにのぞき込んでいた。
「マック・・・で、あの時、マタタビの缶、隠したのはあなたでしょ?」そのセリフから察するに、どうやらシャーロットの記憶が戻ったようだ。エリックの音楽療法がとてもよく効いたのだ。
「ああ、そうだ。君がマタタビ中毒になったからだよ。ちゃんと理由があるんだ」そうマックが言うと、シャーロットはソファに寝ている状態から体を起こし、座っている状態になった。
「ルナ、大きくなったわね、少しお父さんに似てきたんじゃない?」シャーロットはルナに向かって言った。
「マ・・・マ、・・・会・い・・たかっ・・・たよ。本・・・本当に。生き・・・てて本・・・当に良かった。私が生ま・・・生まれた所為・・・所為で産後うつ・・・うつになった・・・なったんだね。ごめん・・・なさい、ごめんなさ・・・い」ルナは言葉だけではなく顔もぐしゃぐしゃにして泣きながら言った。
「ルナ、私が失踪したのはたしかに生まれたばかりの幼いルナを育てる為に産後うつになったからよ。でも私は普通の猫より弱すぎたのよ。何もかも私が悪いの。だからもう泣かないで」シャーロットはルナを抱き寄せて言った。
ルナは泣き止まなかった。そしてルナの涙がシャーロットの胸元にぽつり、ぽつりと落ちた。シャーロットはそれを見て、何も言わずにそっとルナの頭を撫でてやった。
「シャーロット、そしてルナ。マスターキャットビレッジに一旦帰ろう。出稼ぎの旅は中断だ。いつか準備が出来たら、今度は三匹で出稼ぎの旅に出よう」二匹のやりとりを見守っていたマックは言った。
「でもね、私が産後うつになって猫の本能なのか誰も分からない場所で死のうと思って家を出た直後に私を拉致した月猫帝国の強力な軍隊が近い将来にお伽の国に攻めて来ると思うの。もしお伽の国が月猫帝国の属国になれば、攻撃しないという不公平な平和条約を結ぶ布石としてお伽の国に私は派遣されたのよ。どうにかしなきゃ」
「そうだったのか。拉致されたのか。そして攻撃してくる。ならばお伽の国に結界を張ればいい、任せておけ」マックはそういうと、宇宙船のガラス張りの天井に向かって、何やら呟きつつ、両手でポーズをとり、一言エイッと掛け声を叫んだ。結界は悪さをする猫やゴーストに効くのだ。
「これでいい」マックはつぶやいた。するとルナがこう言った。「パパ、ママにも結界張ってあげて」
「そうだなお伽の国にはゴーストがいるからな」そうマックは言うとシャーロットに結界を張ってあげた。マックはついでにエリックにも結界を張ってあげた。
「これからの時間は親子水入らずで過ごしてくれ、俺は家に帰る。妻のロリが待っているしな」そういうとエリックはクルーザーに乗り込んだ。そんなエリックにマックはこう言った。
「週一回のメンタルクリニックの通院を忘れないようにしてくれ。それからカウンセリングも専門の人を見つけて通う頻度などを相談してちゃんと受けるようにもしてくれ」
「分かってるよ。でも僕の病気はマックのおかげで、なんだかもう治った気がするよ。新曲も作れそうな気がする」そうエリックは言うと、宇宙船に残った三匹に手を振りつつマリーナの方角へクルーザーを出航させた。
宇宙船に残されたマックとルナとシャーロットの三匹は、マスターキャットビレッジへ向かった。夜の空では、まるで記憶の糸を縫うように、天の川が夜空を横切っていた。
おわり
最後までお読みいただき、ありがとうございました。評価等の方も宜しくお願い致します。
また、勢いで書いた Nagasaki Daydream Rhapsody, 二章三章がぐだぐだな 旅する猫の占い師
最新作 東雲楓十八才、異世界で色々と初体験しちゃいました。も宜しくね。




