同じ未来をみよう(1)
【Side;菜緒】
打ち上げの空気は、まるで夢のようだった。
私たちはメンバーとスタッフ、近しい関係者たちとともに、打ち上げ会場であるレストランに来ていた。広々としたフロアには笑い声と話し声が混じり、グラスの音がリズムを刻んでいる。
乾杯の音頭を取ったのは、やっぱりというか、もちろんというか、セイくんだった。
「GG4史上、一番ぶっ飛んだ一日だったけど、マジで最高だったな!!」
グラスを高く掲げ、満面の笑みで叫ぶ。
笑い声と拍手、そして「かんぱーい!」の掛け声。
次々にグラスがぶつかり合い、テーブルを囲む空気があたたかくなっていく。
私も、その輪の中にいた。
智士くんの隣で。GG4のみんなの笑い声に囲まれて。
その当たり前のような光景が、優しくて、幸せで。
数日前の自分では想像もできなかった。今は……心から、嬉しい。
「菜緒さ~んっ!」
可愛らしい声が聞こえてと思って、振り向いた先には——
「みのりちゃん!」
走ってきたのは、井口さんの娘、みのりちゃん。ぎゅっと抱きついてきた腕の温かさに、涙が出そうになった。
「会いたかったよ! また会えて、嬉しい!!」
「私も嬉しいよ!」
そんなやりとりのあと、みのりちゃんが得意げな顔で言った。
「今ね、私、たっくんにアピール中なんだよ!」
その場の空気が、ぴたりと止まった。
「たっくん……?」
ぐっちさんが眉をひそめながら聞く。
「クラスの男の子ー! 足が早くて、かっこいいの! 」
「……ッ」
ぐっちさんの顔が、音もなく能面になった。
「そっかー! たっくんってかっこいいんだ?」
セイくんがニヤニヤしながら、わざと大きな声で聞き返す。
「そうなの! でもライバルも多いから、私アピール頑張ってるんだ!」
ぐっちさんの表情に明らかにノイズが走る。
追い打ちをかけるように、Renさんが口を開いた。
「でもまあ、娘っていずれはお嫁に行くもんですし……」
「……」
ぐっちさんの顔色が、完全に真っ白になった。
「ぐっちさん! 息!! 息してください!!」
智士くんが慌てて声をかけ、周囲が大爆笑に包まれた。
よれよれになったぐっちさんが悲壮感たっぷりに言う。
「菜緒さん……なんでうちの娘が、恋愛ステップ踏んでいるんですか……俺、心の準備できてない……」
「ちょっと、私の口からは何とも……」
Renさんが笑いを堪えきれず、それでも冷静に
「ぐっちさん、将来に向けて心の備えは必要ですよ」
と追い塩を振るのを忘れない。さすがだった。
皆が笑って、晴れやかで、いつまでも続いて欲しいと思える、そんな時間だった。
いつの間にか私の隣に来ていた智士くんが私の手をそっと取って、優しく囁いた。
「ねえ、菜緒さん」
「ん?」
「楽しい?」
「……うん。すっごく楽しい。嬉しくて、幸せで、ちょっと泣きそうなくらい」
「俺も。最高だわ」
その声に、胸がじんわりとあたたかくなる。
ただ笑っていられる。
ただ、ここにいられる。
私の居場所はここで、ここに帰ってこられたことが何よりも幸せだった。
彼の手の温もりを感じながら、皆の笑い声に包まれていた。
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