俺たちが選んだもの(1)
「……ほんとにありがとう、みんな」
言葉が喉の奥で震えた。
齊藤さんが徹底的に資料を積み上げて反撃の種を作ってくれた。
四宮が怒りとともに証言をかき集めて、横暴に立ち向かう、風を巻き起こしてくれた。
そして井口さんがそれを追い風にしてくれた。視聴者に語りかけ、俺たちは守りたい人たちのために戦う、と示して。
菜緒さんの覚悟に報いるために。GG4を守るために。
四宮がにやっと笑って言った。
「何言ってんの。菜緒ちゃんとGG4のためだ、当然だろ?」
「全部取り戻そうぜ、俺たちの手で」と井口さんが肩を叩く。
「お前がお前でなきゃ、チームにならねぇよ」
齊藤さんはいつもの冷静な表情で、でも確かな目で言った。
そして一言、言い添える。
「準備は整えた。あとは……お前だな」
その言葉に、胸が熱くなる。
菜緒さんは、きっと公開実況に来てくれる。あの人なら、見届けに来てくれる。
だから俺は、見つける。どれだけ観客がいようと、どれだけ距離があろうと。絶対に。
気づけば、拳を重ねていた。羊、Ren、セイ、ぐっち——4人でGG4。
これが俺たちの形だ。そしてそれは、これからも変わらない。
公開実況の会場は、スタジアム。観客は満員御礼。心臓の鼓動のような音響。華やかなライトアップ。絶え間ない声援。舞台裏にいても熱気が伝わってくる。
舞台袖には、Asteriaの幹部と娘。娘は相変わらず艶めかしい笑みを浮かべてこちらを見ている。幹部は花束を持ち、上機嫌。最後の花束贈呈で“スポンサー発表”を飾りたいらしい。
まるで俺たちのステージを“自分たちの作品”にしようとしているような態度に、胸が冷える。
……でも、その通りにはならない。させない。
ステージに立つと、歓声が一気に押し寄せた。
「GG4、待ってましたー!」
「Renさん、今日もカッコいいー!」「羊ー! キレッキレのツッコミ頼むぞー!」「セイくん、叫んでー!」「ぐっちさーん! 鬼畜プレイ、期待してる!」
笑った。自然に、心から。
今日はやれる。どこまでも、行ける。行ける気しかしなかった。
「よっしゃ、いくぞー!」とセイがマイクを持つ。
実況が始まれば、空気は一変した。
俺も、セイも、Renさんも、ぐっちさんも、迷いなんて一切なかった。
ただ、ゲームの世界にのめり込み、笑って、はしゃいで、観客を巻き込んだ。
セイがボケて叫ぶ、ぐっちさんが高笑いしながら猛突進する、Renさんは冷静にナビゲーションして流れを作る、そして俺は皆の呼吸を読んで確実にツッコミ、盛り上げる——全部がきれいに噛み合って、久しぶりに“全開のGG4”が戻ってきた。
「ちょっとRenさん、それ、俺のターゲット!! 横取り禁止!!」
「いやいや、お前が遅いだけだろ——そこだっ!」
「ねぇ、ぐっちさん、このルート、まさかの……」
「何言ってんの! 突っ走るしかないっしょ、羊くん! 今、いいとこなんだから! うわぁぁぁぁ!」
熱狂の中、迷いなく声を出せた。
ファンの笑顔が、仲間の声が、体にしっかりと火を灯してくれる。
あの頃から俺たちは、何も変わってない。ただ、仲間とはしゃいで、笑って、この楽しさを観客に伝える。一緒に盛り上がる。
今日も、声を届ける。
読んでいただき、ありがとうございました。
もしよろしければ、評価、感想いただけると嬉しいです。




