気づけなかった罪、ぶっ壊す覚悟
【Side;セイ】
菜緒ちゃんが羊くんのもとからいなくなった——そう聞いたとき、俺は正直、何が起きたのか、まったくわからなかった。
最初にそれを聞いたのは、ある日の違和感から。羊くんのトークが、何か“変だ”って思って、配信終わりに直接連絡したんだ。「羊くんがそんなんじゃ、菜緒ちゃんも心配してるんじゃねーの?」って。そしたら、言葉を濁しながらもあいつは言った。
「……別れた……っぽい」
その一言の重さに、しばらく頭が止まった。
だってさ、あのふたり、すげえ幸せそうだったじゃん。羊くんはさ、普段は女性に塩対応のくせに、菜緒ちゃんが来ると、めっちゃ甘々になって。それをからかうと、「しょうがねぇじゃん、好きなんだから」って、照れながら笑って砂糖漬けの返り討ちにしてきたくらいなのに。
そんなふたりが——なんで、別れる?
でも、それが始まりだった。
羊くんのトークは明らかに落ちていった。反応がワンテンポ遅れる。笑いの拾い方に迷いがある。いつもなら流れるように突っ込んでくる奴が、言葉を詰まらせる。
ああ、やっぱり壊れてるんだなって。
あの別れは、絶対ただの別れじゃないんだって、やっとわかった。
でもさ、気づくのが遅すぎた。
菜緒ちゃんが自分の想いを全部犠牲にして、俺たち、GG4の未来を守ってくれたこと。
それを知ったとき、腹の底から自分にムカついた。
俺はずっと近くにいたのに、2人を見ていたはずなのに、何も見えてなかった。何も気づけなかった。
「だったら、今度は絶対に気づく。立ちはだかるもの、ぶっ壊してでも、助ける」
口に出した瞬間、胸が軽くなった。
これはもう、“やるかやらないか”じゃない。“やるしかねえ”。
Renさんが集めてくれた資料を見て俺の頭はフル回転した。
どの証言が信用できるか。誰に当たれば証拠が取れるか。俺は配信歴もそれなりに長いし、いろんな実況者と絡んできた。業界の裏側もそれなりに見てきている。
動き始めたら、意外と話は早かった。
過去にAsteriaのあの幹部に絡まれて嫌な思いをしたストリーマー、無理な案件を押しつけられて飛ばされた中堅タレント、アンチコメントによって潰された配信グループの噂——。
バラバラだった点が、少しずつ線になっていく。
証言の録音、DMのスクショ、スケジュールの矛盾。
時間はかかったけど、“奴”の黒い部分は確実に浮かび上がってきた。
そして俺はただ動き回るだけじゃ足りないと思った。
GG4は“企画力”も、“空気”も、全部ファンと一緒に作ってきたチームだから。
だから俺は、自分の配信で話すことにした。
もちろん、名指しなんかしない。だけど、わかる人にはわかるように。
「例えば、の話なんだけどさ」
ある時の配信で、マイク越しに、俺は語りかけた。
「スポンサーってめっちゃありがたい存在じゃん。でもさ、例えば、そこに“個人の感情”が混じって、配信内容とか、誰と付き合ってるか、とかまで口出されたら……俺、やってけねぇな」
コメント欄がざわついた。
《え、それ誰かに圧力かけられてるの?》
《なにそれ、怖》
《でもさ、そういえば人気配信グループの〇〇って、仕組まれたアンチコメで潰されたって噂あったよね…》
そうやって、空気が揺れ始める。
「俺たちはさ、好きなゲームを、好きな仲間と、好きなようにやってきたんだ。それが俺らGG4のやり方。そうじゃなくなったら、それはもうGG4じゃねぇと思ってる」
「だからさ。今、俺ら、ちょっと大事な戦いをしてんのよ。俺たちのやり方を、守るための」
視聴者は正直だった。
《応援してる》
《信じてる》
《絶対、勝ってね!》
そんなコメントが、次々に並んだ。
世論ってのは、少しの風でも動く。
大きな力じゃなく、小さな“違和感”が積もって、やがて世界を動かす大きな台風になる。俺はそのことを知っている。
だから俺はその最初の“風”を、今、吹かせる。
「Renさん、証拠、こっちはもう揃った。あと一押しだな」
「さすがセイ。それにあの配信。お前じゃなきゃ無理だよ。誰よりも感情を揺さぶれるお前じゃないと、な」
「お互い様だろ。羊くんにも早く知らせたいな。あとで、メシでも行くか」
言葉の奥にある、決意と安心感。
俺たちは、ちゃんと“チーム”になっている。
あとは、ぐっちさんが何を見せてくれるか——あの人の言葉、すげぇから。楽しみにしてるぜ。
この先、またGG4がいつも通り、はちゃめちゃな配信をして、視聴者が笑って。
収録後に、差し入れ持って来てくれた菜緒ちゃんに、羊くんがすっ飛んで行って。それを俺らが茶化す。
そんな未来を俺は絶対に取り戻すんだ。
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