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静かなる火種

【Side;Ren】


 羊くんは菜緒ちゃんと結ばれてから、明らかに変わった。

 彼女にベタ甘な羊くんを見るのも新鮮だったけど、実況中のトークのキレとか、空気の読み方が明らかにワンランク上がったんだ。そんな羊くんを見て俺は、柄にもなくワクワクしていた。GG4はもっと高みを目指せる。そう確信していた。


 でも、菜緒ちゃんが羊くんのもとを去った日、何かが大きく壊れる音を聞いた気がした。

 それは彼自身だったのか、GG4だったのか、もしかしたら、その両方だったのかもしれない。


 

 あの時の羊くんは、明らかにおかしかった。

 収録中も笑顔は貼りついたままだったが、声に魂がなかった。

 配信を重ねれば重ねるほど、彼の“らしさ”が削れていくのがわかった。

 笑いの間が、トークのタイミングが、絶妙なボケの拾い方が、ほんの少しずつ、ズレていった。

 そしてそれは他のメンバーでは代えが効かない、彼にしかできない魅力だった。


 正直、焦った。

 彼が崩れれば、GG4全体が傾く。

 でも、それ以上に——あんなふうに無理して、痛みに耐えて、潰れていく彼を、仕事仲間としてだけじゃなく、ひとりの友人として見ていられなかった。


 

 そして、すべてを知った。

 菜緒ちゃんが、自分を犠牲にしてGG4の未来を守ったこと。

 アンチコメントを止める代わりに、羊くんのそばから去れと脅されていたこと。

 どれだけ苦しかっただろう。

 どれだけ泣いたんだろう。


 それを知ったとき、俺の中で、何かが決まった。

 これは「敵を倒す」戦いじゃない。

 「自由を勝ち取る」戦いだ。


 羊くんを、そして菜緒ちゃんを、守るために。

 GG4の未来を、誰の手にも渡さないために。



 俺のノートPCの画面には、びっしりとデータが並んでいた。表向きはゲーム系スポンサーだが、Asteria Visionは大手投資グループを母体とする多角経営企業。

 その中でも“例の幹部”はやや異質な存在だった。

 異動歴、取引履歴、社内評価、外部からの評判。

 調べれば調べるほど、彼がAsteria内でも一匹狼的な動きをしていたことが浮かび上がってきた。


 娘を前に出すやり方。

 タレントと個人的に接触する行動。

 裏で外注業者を使ってアンチコメントを拡散させていた可能性——。


 この手の“火遊び”は、本来ならAsteriaの方針からも逸脱している。

 むしろ、上層部が知れば問題になる。

 現に、広報や法務部には、彼の言動に困っているという内部の声もあった。


 チャンスだと思った。

 敵は“会社”じゃない。あの幹部、“個人”だ。


 「個人の暴走であること」が明らかになれば、Asteria自体を敵に回さずにすむ。

 俺たちが目指すのは——復讐じゃない。

 羊くんと菜緒ちゃんが、もう二度と引き裂かれない世界。

 GG4が、誰に縛られることなく、自由に配信を続けられる未来。



 ただ羊くんと菜緒ちゃんを元のサヤに“戻す”だけじゃ、足りない。

 こんな理不尽なことが二度と起こらないように、俺たちが自分たちの居場所を自分たちの手で守る。

 それが、彼女の覚悟に報いる、唯一の道だ。


 GG4は、俺たち4人でGG4だ。

 菜緒ちゃんが遺したその意味を、俺たちが証明する。



 机の上には、まとめた資料が整然と並ぶ。

 幹部の不正行為を裏付けるログ、噂を裏付ける関係者の証言、公式声明との矛盾。

 まだ決定打ではないが、突きつければ黙っていられない程度には揃った。



 「羊くん、セイ、ぐっちさん——こっちの準備は整ったよ」


 自分の中で静かに火が灯る。

 怒りでも、焦りでもない。

 もっと冷たく、けれど確かな意志の火だ。


 これは俺たちがただ、俺たちで在るための戦い。


 決戦の場は公開実況。

 それまでに俺が仕込んだ種を、セイが大きく育て、ぐっちさんが世界に広めてくれるはず。


 “俺たちの未来は、俺たちで選ぶ”

 そう宣言するために。

読んでいただき、ありがとうございました。

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