壊された思い、知らされた怒り(2)
俺たちはAsteria Visionへと向かった。受付で面会を求めると、すぐに応接室に通された。しばらく待つとあの幹部が、秘書を引き連れて現れた。
「どうも、皆さん。先程ぶりですね。どうしました?」
にこやかに笑う幹部に、齊藤さんが切り出した。
「率直に伺います。あのアンチコメント騒動の件、心当たりがおありですよね」
幹部の笑みがわずかに崩れた。しかし、すぐに開き直ったように言う。
「……我々とて、あなたたちの人気を落とすつもりはありませんでしたよ。ただ、今まで羊さんとお付き合いされてた方……どうにも、人気者の隣にいる自覚がなかったようにお見受けしましたのでね。ちょっとわかりやすくして差し上げたのです。おのれの力不足に気づいていただけるように。そちらが気がつかないなら、それまでの話だったのですが」
「は?」
四宮が声を荒げかけたが、齊藤さんが手で制した。幹部は続けた。
「その点、うちの娘なら、隣に立っても十分に映えますし、配信で紹介していただいても結構です。むしろ羊さんの株が上がるんじゃないかと。私としても、可愛い娘のお願いは聞いてやりたいんですよ……。羊さんの今後にとっても悪いようにはならないと思いますよ。それに、今は特に“彼女”もいないんでしょう?」
「そんなことのために、俺たちのファンと、俺の大事な人を傷つけたんですか?」
俺の声は低く、抑えきれない怒りが込められていた。
「店だって商品をよりよく見せるためにホコリを払ったりするでしょう? それと同じですよ。娘にはより商品価値の高いものを与えてやりたいですからね」
幹部は軽く肩をすくめて言った。
「……人の気持ちを、何だと思ってるんだよ!」
堪え切れず、四宮が立ち上がって声を荒げる。井口さんがとっさに彼の身体を押さえた。そうしなければ飛びかかりそうな勢いだった。
「それで、たくさんの人を傷付けていいと思ってんのか!? 何様のつもりだよ!!」
幹部は息をひとつ吐くと、言った。
「では、ビジネスの話をしましょうか?」
「今回のスポンサードの件、GG4さんにとっては間違いなく、大変名誉なこと、ですよね? そして、業界の権威とも言える“Asteria Vision”を断った場合……、他のスポンサー企業さんも、今後について、考えを改めるかもしれませんね? 逆に我々と良い関係を築いていただければ、他の道もより開かれる、でしょう?」
淡々とそう言い放つと、「会議があるので」と言って、彼らは応接室から出ていった。
あくまで俺たちを“商品”としか見ていない発言。大手の看板を楯にとった傲慢さ。俺は拳を強く握っていた。爪が掌に食い込み、じんわりと痛みが走った。
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