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壊された想い、知らされた怒り(1)

【Side;智士】


「全部……仕組まれていたんだと思う」


 静まり返った控室で、俺の声はとても低く響いた。

 齊藤さんがゆっくりと頷く。


「あぁ。俺もそう思う。あのタイミングでアンチが一斉に湧いたのも。俺たちの配信が不自然に荒れたのも、たぶん、全部——」


「Asteriaの、あの幹部が仕掛けたってことか」


 四宮が信じられない、といった顔で眉をしかめる。井口さんが、不安気に言う。


「でも、なんで? 羊くんと菜緒さんとのこと、なんでそこまでして邪魔する必要があんの?」


 俺は唇を噛んだまま、言葉を探す。そして、目を伏せて語り出した。


「たぶん……あの幹部の娘と、俺をくっつけたかったんだと思う。あの娘の“ファン”だって話も、それが本当かどうか、今となっちゃ分からないけど。でも、あいつにとっては、“配信者・羊”を手に入れることが、ビジネスでもプライベートでも都合が良かった。だから俺の周囲をコントロールしようとした。その中に……菜緒さんがいた」


「それで、菜緒ちゃんに……別れろって言ったのか?」


 四宮の声が震えている。


「しかも多分、ただの脅しじゃない。あいつらは、アンチコメントで俺たちを狙い撃ちした。狡猾に、執拗に。あのままじゃGG4は崩壊していたかもしれない。下手したら称号も、ファンも、他のスポンサーも、すべて失ってた。そこに恐らく揺さぶりがあったんだ。羊くんと別れれば、アンチコメントを流すのを止める、って。だから、きっと菜緒ちゃんは——」


 齊藤さんは冷静に話してくれていたが、言葉に詰まった。


 俺の脳裏には最後に見た彼女の姿が蘇る。何かを心の奥に隠していた、無理矢理な笑顔。

 絞り出すように言葉を発した。


「自分がいなくなれば、全部収まるって……そう思ったんだ。俺たちのために、GG4のために。誰にも言わず、自分の気持ち、全部飲み込んで」


 沈黙が落ちる。誰もが、信じられないものを飲み込もうとしていた。


 四宮が口元を手で覆って誰に聞かせるわけでもなく言った。目が大きく見開かれている。


「じゃあ、菜緒ちゃんは……俺らのこと守ろうとして……?」


「自分の気持ち犠牲にして……。全部、1人で……」


 井口さんが拳を握りしめる。


「そんなのって、あんまりじゃんかよ……」


 齊藤さんは深く息をついて、(くう)を見上げ静かに言った。


「知らなかったとはいえ、彼女をそこまで追い詰めて、辛い決断をさせた。俺たちも……同罪だよな」


 その言葉を、誰も否定できなかった。


 俺は顔を覆った。最後に会った彼女の姿が浮かんでくる。何を思って俺にキスをした? 涙を隠して、気持ちを押し殺して。「じゃあね」って……。


「俺が……気づくべきだったんだ。あの日、明らかに菜緒さんは、いつもと違っていた。無理に笑って、無理に触れてきて……全部、別れを決めてたんだ」

「なのに俺は、自分のことでいっぱいいっぱいで。彼女の不安も、覚悟も、何一つ気づけなかった。情けないよ……」


 次の瞬間、四宮が勢いよく立ち上がった。


「……俺、もう黙ってられねぇ」


「あいつらに言ってやる。どんだけ最低なことしたか、あいつら、分かってねぇ。羊くんを囲い込むためだけに、菜緒ちゃんをめちゃくちゃ傷つけて、俺らのファン不安にさせて……。マジで言わなきゃ、気が済まねぇ!」


 その言葉に、皆が頷いた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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