真夜中の動物園(作:灯猫いくみん)
調査隊から我らに届いた通信は、非常に恐慌した様子であった。
『司令室、こちら調査隊アルファ班! 調査対象惑星は危険です、退却指令を求めます!!』
「どうしたアルファ班! 落ち着いて報告を!」
『これが落ち着けるモンですかっ……まずそもそも話が違います! この星、高い知性の生命体がいるって話じゃなかったですか!?』
「生命体……? ソレに関しては正しい情報のハズだが」
事前調査の結果によると、当該惑星は水分と酸素が豊富に含まれており、我らの仲間を植民させるには最適。
宇宙探査ができるくらいの知性を持つ生命体が存在すると言うのがネックだったが、そこは我らの技術力があれば容易くねじ伏せられるだろうと目されていた。
そして彼らアルファ班は、生命体が一定数生息していることが確認されているエリアに到達したはずである。
『知性ある生命体の痕跡は何処にも見当たりません! 辺りは数日間ずっと暗闇に包まれたままです!』
「数日間……ああ、公転周期が二十四日だからな。まだ夜なのだろう」
『だとしても居住区のようなものが確認できません! それに、』
その続きの言葉は出てこなかった。
代わりに司令室に聞こえてきたのは、この世の物とは思えない、地獄の底から重く響く叫び声だった。
「アルファ班? アルファ班!? どうした、何があった!?」
『……またです! 声のトーンからして相当なサイズの獣か何かが、延々と唸り声を……』
「獣ォ?」
惑星の住人のサイズは、これまた事前調査の結果だが、我らよりはるかに巨大であるとの報告が上がっている。
ならば動物もその程度のサイズの者はあるだろうが……
「……しかし獣だけというわけでもあるまい。辺りの探索は済んだのか?」
『この状況でどうやって!? あの巨大生物に見つかったら何をされるか……あ』
その時、通信の向こうで話す声が途切れた。
「ど、どうした? 何があったアルファ班!?」
『発進させていたクィント型無人探査機が、獣に撃墜されました』
「なっ……クィントと言えば相当の大型、それがただの獣一匹にか!? どうやって……映像は届いているのか!?」
『はい……暗闇の中から突如布状の物が飛んできて、一瞬で獣の元へ引きずり込まれ、通信がロストしました……』
「……侵略するには、まだもう少しデータが必要と見える。至急退却せよ」
『……了解』
その言葉を最後に通信が終了。
アルファ班の機体は、闇に紛れて上昇し、一瞬のうちに銀河の果てへと飛び立っていった。
彼らの時間で十日後――地球時間で十時間後。
朝が来たその動物園には、今日もそこそこ来場者がいた。
蠅と間違えて変なものでも食べたのか、一匹体調不良のカメレオンがいたが、それ以外は至って平凡な一日だった。