第四章:呼び声の祭 ―新たなる招待状―
それは、ふとした違和感から始まった。
静まり返った廃校の音楽室に、ふいに“音”が戻ってきたのだ。
ピアノの鍵盤が、誰も触れていないはずなのに、ゆっくりと、やさしく、旋律を奏ではじめた。
それはかつて、この場所で語られた声たちの記憶。
ユウトの“想い”、アキトの“受け入れ”、そして他の数多の着ぐるみたちの“願い”――
それらが共鳴し、新たな呼び声を形にしていった。
その夜、廃校の空間に“意志”が宿った。
かつての参加者たちの意識が重なり合い、ある決意に至る。
「また……仲間を、迎えよう。」
⸻
そして数日後。
日本全国のあちこちで、ごく一部の人々にだけ、ある“メール”が届く。
「ようこそ、“本当の姿”を探すあなたへ。
一夜限りのきぐるみイベント“招かれし夜”へ、ぜひお越しください。
日時:今週末
場所:添付の地図をご参照ください。」
奇妙なことに、そのメールは誰かが送ったものではなかった。送信元は存在せず、返信もできない。
けれど、受け取った者たちは皆、心のどこかで感じていた。
「これは……自分に宛てられたものだ」
⸻
迎えた当日。廃校には珍しく、多くの“招かれた者”たちが次々とやってきた。
キツネ、ヤギ、ウマ、パンダ、ウサギ、カラス、ロボット風のもの、まるで神話のような幻獣まで――
それぞれが自分の“本当の姿”だと信じて持参した、個性的な着ぐるみたち。
受付もない。スタッフもいない。
ただ、校舎の扉は静かに開かれ、誰もが自然に中へと導かれていく。
体育館には、すでに先に“同化”を果たした着ぐるみたちが静かに並んでいた。
人のようで人ではない。
それでも、どこか懐かしく優しい気配が空間に満ちていた。
初めての参加者たちは不安と期待の中で、自分の着ぐるみに身を包む。
「ようこそ……」
声にはならない声が、彼らの胸の奥に響いた。
そして、儀式が始まる。
古いスピーカーから、どこか懐かしいメロディが流れ出す。
体育館の中央には、キャンドルがいくつも灯され、円形に並ぶ着ぐるみたち。
新たな参加者もその輪に加わると、やがて空気がふわりと変わった。
身体が熱を持ち、内側から何かが溶け出す感覚。
目を閉じると、誰かの記憶が流れ込んでくる。
誰かの想い、誰かの痛み、誰かの幸福。
それが、自分のもののように染み込んでいく。
「君も、もう“こちら側”だよ」
誰かがそう囁いた。いや、感じた。
⸻
夜が明ける頃には、参加者の誰もが“新たな姿”で目を覚ます。
もう脱ぐ必要はない。
いや、“脱ぐ”という概念すら消えていた。
彼らはただ、静かに立ち尽くす。
それでも、孤独ではない。
その胸には、確かに“仲間たちの声”があった。
そしてまた次の夜、誰かを導くことになるだろう。
きぐるみたちの夜は、静かに、でも確実に広がっていた。