ヴァルブルガの記憶
麓の里で、雪霧山に春が訪れたことを大喜びしていたルッツの人々は、氷竜フリギアの事情を知ると、大人も子供も総出で墓堀りに参加すると申し出てきた。
もちろんヨナスの姿もある。
ヨナスの娘のための薬草は、運よく下山の途中で発見できたため、里へ着くのと同時に飲ませられたのだ。
薬草の効果はほどなくして出たようで、今は症状も落ち着いているという。
ブラッドたちは、ヨナス夫婦だけでなく、里中の者から感謝を伝えられた。
しかもそれだけでは済まず、本来はギルドに支払われるはずだった依頼料まで受け取るよう求めてきた。
もちろんブラッドは辞退しようとしたが、里の者たちは頑固で、ほとんど強引に押しつけられてしまったのだった。
それから半日がかりで土が掘り返された。
竜の子の体は、その穴にそっと納められ、土で慎重に覆い隠された。
墓石が設置されると、里人たちは誰からともなく野花を供えはじめた。
あっという間に墓の周りは、春の花でいっぱいになった。
竜の子も、きっとここなら安らかに眠れるだろう。
墓が完成すると、里人たちは静かに手を合わせ、各々、黙祷を捧げた。
「ね、ね、ブラッド。みんな何してる……?」
ブラッドの裾を引っ張りながら、ヴァルブルガが小声で問いかけてくる。
素朴な共同体の中で暮らすルッツの里の子供たちは皆、黙祷の意義を理解しているようだが、ヴァルブルガが知らなくても無理はない。
「里の人々は、死者の魂を鎮めるため、祈りを捧げているんだよ。目を閉じ、心を落ち着かせて、亡くなった者に静かな眠りが訪れるのを願うんだ」
言葉として発せず、心の中だけで祈る想いは、直接魂に届く――生き残った側は、そんなふうに信じたいのかもしれない。
亡き人を思い出し、新たな繋がり方を感じることで、残された側の心の傷も癒されていく。
黙祷は、死者だけでなく、生者にとっても救いをもたらしてくれるのだ。
「ヴァルもお祈りする……!」
ヴァルブルガがどこまで理解できたのかはわからない。
それでも神妙な顔で頷くと、見様見真似で両手を組むと、ぎゅっと目を閉じた。
静かに祈る人々の間を、春の優しい風がすり抜けていく。
すべての様子を上空から見守っていた氷竜フリギアは、人々の振る舞いに感謝するように彼らの頭上で旋回してから、雪霧山の頂上へと帰っていった。
◇◇◇
竜の子の埋葬が無事終わる頃には、月が昇りはじめていた。
いくら吹雪が止んだとはいえ、夜の山で素材収集をするのは効率が悪すぎる。
特に今のブラッドは子連れだ。
結局ブラッドは、記憶の果実探しを翌日に引き延ばした。
その判断が正しかったのか、間違っていたのか、今でもブラッドにはわからない。
ブラッドは、宿屋に向かうとまず、ヴァルブルガを風呂に入らせた。
ちゃんと洗えているか様子を見、時々助け舟を出す傍ら、ヴァルブルガの服を洗う。
ブルックで奴隷と間違われた一件以来、この工程は、生活の一部として取り込まれるようになったのだ。
入浴が終わったら、食事の時間だ。
昨夜の野宿で、ともに食事を摂りながら補助をしたほうが、効率がいいと知ったので、この夜も同じようにした。
感謝の意なのか、宿には里中から手作りの食事が持ち込まれ、二人の食卓を信じられないぐらい豪勢にしてくれた。
ヴァルブルガは始終ご機嫌だった。
しかしさすがに一日の疲れがどっと押し寄せてきたのか。
食事中にこくりこくりと船を漕ぎはじめ、最後には抱き上げてベッドに運ばなければいけなくなった。
口を少し開き、安心しきって眠っている顔は、どうしても娘フィアットと重なる。
これまではそれが不快で仕方なかった。
でも今はどうだろう?
ブラッドは即答できない自分を恥じた。
「……」
ヴァルブルガの無防備な寝顔を見つめるブラッドの心には、容易く解きほぐせない感情が渦巻いていた。
ブラッドに美味しいパンを食べさせようとして、失敗し、大粒の涙を流していた姿。
マデリンやケット・シーたちと輪になり、はしゃいでいた姿。
結ってやった髪を気に入り、一日中うれしそうに触れていた姿。
『わるもの』を憎み、すぐに人を助けたがり、人見知りをするのに、素直な心で他者と接せられる純粋な心。
ともに旅をしたから増えてしまった余計な思い出の数々が、一斉に襲いかかってきた。
「最悪だ……」
声にない声が零れ落ちた。
ずっと気づかないふりをしてきたが、記憶を失った幼いヴァルブルガに対して、自分は愛着を抱きはじめている。
復讐相手であるヴァルブルガ代表と、目の前にいる小さなヴァルブルガを、心が勝手に切り離してしまうのだ。
ブラッドは絶望を抱えたまま、立ち尽くした。
きっと明日には、記憶の果実が手に入る。
果たして自分はそれを、迷わずヴァルブルガに与えられるのだろうか。
ヴァルブルガによって殺された妻ルクスのため、何があっても復讐を成し遂げねばならない。
わかっているのに、なぜ不安になるのか。
その晩、ブラッドはひどい悪夢に魘された。
◇◇◇
「ねえ、あなた。どうしてもお仕事休めないの? 昨夜のフィアットは『パパもいっしょに行きたい』ってごねて、泣きながら眠ったのよ」
まだ夜明け前。
遠方での仕事ため、いつもより早く家を出ようとしたブラッドは、妻ルクスからそう引き留められた。
今日、ニーダベルクの街では、サーカス団を招いた大々的なカーニバルが行われる。
ピエロから直接ビラを渡された娘フィアットは、数日前からこの日をとても楽しみにしていた。
「私もあなたがいてくれたほうが安心だわ。近隣の町や村からも、馬に乗った人がたくさん集まるみたいだし。そんな大きな催しにフィアットを連れていくのなんて初めてだもの」
愛する妻から頼られると、当然後ろ髪を引かれる。
しかし世界平和推進結社からブラッドに任された今日の依頼は、二ヶ月以上かけて念入りに準備されたうえ、多くの人員が絡んでいる。自己都合で一日先延ばしにしてほしいと願い出られるわけもなかった。
ブラッドが躊躇った理由はそれだけではない。
今日だって、これから組織丸々ひとつ壊滅させる予定なのだ。
そうやって散々血に染まってきた身だ。自分が穢れている自覚はある。
だからフィアットと接することに二の足を踏んでしまう。
数多の血がこびりついた自分が、あの純真無垢な存在を穢してしまうのではないか。
フィアットが誕生してからずっと、ブラッドはそれが怖くて、娘の育児からどうしても目を逸らしてしまうのだった。
ブラッドの顔色が曇ったのに気づいたのか、ルクスは突然明るく微笑むと、ブラッドの腕をぽんぽんと優しく叩いてきた。
「ごめんなさい、いいの、気にしないで! あなたが帰ったら、カーニバルの思い出をフィアットと二人でたくさん自慢しちゃうから! それを楽しみに、お仕事がんばってきて!」
ルクスは笑顔で送り出してくれたが、なぜかその日一日、ブラッドは胸騒ぎが止まらなかった。
ニーダベルクの街を離れ、任務を遂行し、珍しく現地まで赴いてきた世界平和推進結社代表のヴァルブルガに、報告を行っている際にも、心の奥はずっとざわついたままだった。
「どうした、ブラッド。今日は妙に上の空じゃないか。まさか今日の任務を気に病んでいるわけでもあるまい?」
デスクに両足を乗せ、プカプカと煙管を吹かしながら報告を受けていたヴァルブルガが、面白がるような瞳で問いかけてくる。
(死者の数や被害に関して、この女は誰よりも不感だ)
そんなふうに思いながら、ブラッドは軽く肩を竦めた。
ヴァルブルガを非難はできない。
自分も同じようなものだから。
「別のいつもと変わりませんよ」
任務に関していえばそれは真実だ。
命乞いをしてきた者も含め、手抜かりなく全員殺した。
ブラッドが素っ気ない口調でそう返すと、ヴァルブルガは哀れな者に想いを馳せるような表情で虚空を見つめた。
そうしてぽつりと呟いた。
「『尊い犠牲なくして、大いなる願いは果たされぬ』だよ。ブラッド」
伝令の男が、地獄のような伝言を持って、部屋に飛び込んできたのはその直後だった。
どれだけ急いでも、ニーダベルクの街に帰るまでに十時間もかかった。
死体安置所の職員は、体の上にかけたシーツをはがさないほうがいいと言ったが、ブラッドは抗った。
姿を見なければ、到底信じられなかったからだ。
フィアットの遺体は右腕と左足がなく、顔半分と頭部が潰れていた。
ブラッドは獣のような咆哮を上げて泣き叫びながら、フィアットを搔き抱いた。
こんなふうに泣くのも、こんなふうに力いっぱい娘を抱きしめるのも、生まれて初めての経験だった。
どれだけそうしていただろう。
不意に背後から視線を感じた。
フィアットを胸に抱いたまま、力なく振り返る。
そこにいたのは、全身を炎に包まれ、燃え爛れていく妻ルクスだった。
悲し気な顔をしたルクスが、ブラッドに向かって弱々しく右手を伸ばしてくる。
その手の先から徐々に、ルクスの体が灰となって吹き飛んでいく。
「ああ、だめだ、だめだ……! ルクスッッ……!!」
◇◇◇
ブラッドは絶叫しながら飛び起きた。
全身に滝のような汗をかいている。
室内はまだ薄暗い。
ブラッドは短い呼吸を繰り返しながら、両手で頭を抱え込んだ。
事故の日の悪夢は数えきれないほど見てきたが、一向に慣れたりはしない。
ブラッドはぎゅっと目を瞑って、生理的に浮かんだ涙を抑え込もうとした。
心臓はまだドクドクと騒いでいる。
心と脳が、記憶を掘り起こすよう強いてきた。抗うなど不可能だ。
あの日、ブラッドに与えられた使命は、山賊に占拠された村を救えというものだった。
帰還したブラッドは、起こった事実を簡単には理解できなかった。
赤の他人の生活を救うため大量虐殺を行っている間に、何よりも大事だった家族を、死神に奪われてしまったのだ。
もしあの日、ブラッドがルクスの申し出を拒まず、一緒にカーニバルへ赴いていたら……。
暴走する馬車を止めるなど、ブラッドには朝飯前だ。
フィアットもルクスも間違いなく救えていただろう。
自分が選択を誤ったから、二人は犠牲になった。
その事実がいっそうブラッドを苦しめた。
ブラッドは深い溜息を吐きながら、額に浮かんだ汗を拭った。
夢の最後に現れたルクスのあの悲しげな瞳が忘れられない。
(家族のためだけに生きるべきだったのに間違えた。もう二度と失敗は犯さない)
ブラッドは静かにベッドから起き上がった。
ヴァルブルガは相変わらず安らかな寝息を立てている。
ヴァルブルガを起こさないように気をつけながら、ブラッドは身支度を整えた。
このまま雪霧山へ向かい、記憶の果実を持ち帰ってこようと考えたのだ。
監視をしなくても、ヴァルブルガが逃げたりしないのはもうわかっている。
それに、とにかく一人になる必要があると感じたのだ。
復讐心に取り憑かれた完璧に冷徹な心を、今一度、取り戻すためにも――。
◇◇◇
ブラッドが記憶の果実を手に雪霧山から戻ると、目を覚ましたヴァルブルガはベッドの上にちょこんと腰かけたまま、心配そうに待っていた。
「ブラッド! どこ行ってた!?」
ブラッドの姿を目にするなり、そう叫んで駆け寄ってくる。
ブラッドが答えるより先に、その手の中の果実に気づいたらしい。
「ね! ね! これ、ブラッドが探してたの?」
ブラッドの傍らにぴったりとくっついたヴァルブルガが、興味深そうに記憶の果実を覗き込んでくる。
藍色に輝く記憶の果実の表面には、複雑な模様が浮き出している。
形は奇妙に歪んでいて、小さな隕石を思わせた。
触ると少し冷たく感じ、滑らかな部分と粗い部分が混在している。
光に翳すときらりと光り、手に取ると意外と軽い。
空気の振動に反応するのか、揺らしてみるとシャランシャランと微細な音が鳴った。
この不思議な果実を食べさせれば、古代魔法の弊害で失われたヴァルブルガの記憶が戻るかもしれないのだ。
妻ルクスの殺害を命じた罪を、ヴァルブルガが思い出した暁には――。
ブラッドはヴァルブルガを見つめたまま黙り込んだ。
何も知らないヴァルブルガは、きょとんとした顔で小首を傾げている。
「ヴァルそれ食べればいい?」
ブラッドの手の中にある記憶の果実を指さしながら、ヴァルブルガが問いかけてくる。
ヴァルブルガはブラッド側の目的を知らない。
だがどうやら、旅の道中、断片的に耳にした情報によって、ブラッドが自分に食べさせるため、記憶の果実を探していたことは察していたらしい。
「あんまりおいしそうじゃないけど……。ヴァルにこれ食べてほしいんでしょ? それならヴァル食べるよ。ヴァル、ブラッドといて、いっぱいうれしくしてもらえたから、ヴァルもブラッドにうれしい気持ちあげたい!」
そう言うなり、記憶の果実に手を伸ばしてきた。
「待て、ヴァルブルガ――」
衝動的に静止の言葉を口にしようとしたが、それよりも一瞬早く、ヴァルブルカが記憶の果実にかぶりついてしまった。
果実を一口噛んだ瞬間、ヴァルブルガの瞳から青白い光が放たれた。
ヴァルブルガの顔が歪み、小さな体が震え出す。
「……っ……うぅ……ああぅ……やあああああッッッ!!」
拒絶の叫びをあげたヴァルブルガは、両手で頭を抱え込みながらその場に座り込んだ。
「やだ、やだああああ! 結社はいじわるする!! ヴァルをあそこに戻さないでッッ!!」
ブラッドの足にしがみついたヴァルブルガが、涙まみれの顔で訴えかけてくる。
「ヴァル、いいこにするから!! ブラッドの傍にいたい!! 結社はいや!! 結社はだめっっ!!」
取り乱すヴァルブルガの様子からして、なんらかの記憶が戻ったのは確かだが、言動は相変わらず幼いままだ。
このヴァルブルガは、ブラッドが罰せられるほどの責任能力を持つのだろうか。
「ヴァルブルガ、何を思い出した?」
ブラッドは慎重な態度で尋ねた。
泣きすぎて目を腫らしたヴァルブルガは、なんとか答えようとしたが、ひっくひっくとしゃくりあげてしまい、なかなか言葉が出てこない。
それでもブラッドは、急かさずに待ってやった。
ヴァルブルガへのブラッドの接し方は、旅に出る前と今とで明らかに違っている。
以前のブラッドだったら、間違いなくヴァルブルガの肩を揺さぶって、強引に答えを求めていただろう。
時間をもらえたヴァルブルガは、おかげで少しだけ落ち着けたようだ。
「……ヴァル、これまでのこと思い出したよ……。ヴァル、結社で毎日お勉強させられてた。ちいさいおへやから出ちゃいけなくて、魔法のお勉強だけずっとするの。つかれたって言っちゃだめなの。いやだっていうとおっかないひといっぱいいて、すごく怒るし、すごくぶつの。ヴァルがえらくなるためには、怒らないといけないんだって言って……。ヴァル怒られるのだいきらい。あのひとたち、いじわるばっかするからだいきらい。ヴァルはブラッドといるほうがすき! ヴァル、ずっとブラッドといるのっ!!」
話しているうちにどんどん興奮したヴァルは、小さな拳を握りしめて捲し立てた。
ヴァルブルガの発言と態度は、ブラッドを少なからず動揺させた。
ヴァルブルガがどんな目に遭っていたのか、今の話からは断片的にしかわからないが、虐待されていたのはたしかだ。
世界平和推進結社のトップとなるため、幼少期より教育されてきたのは知っていたものの、組織の人間が幼いヴァルブルガにそんな無茶を強いていたなんて信じられない。
成長したヴァルブルガは歪んだ心の持ち主だったが、そんな生い立ちが性格の形成に暗い影を落としたのかもしれない。
ブラッドは今知った事実をどう受け止めたらいいのか迷ったまま、ヴァルブルガを見下ろした。
「……おまえの体が大人だった頃の記憶は、覚えていないのか? 習得していた古代魔法については?」
「おとな? ヴァル四歳だよ?」
動揺は見られるものの、四歳児らしいヴァルブルガの振る舞いは、これまでと何ら変わりない。
それにブラッドに絶大な信頼を寄せるヴァルブルガの瞳には、やましさなど微塵も見当たらないのだ。
ヴァルブルガは嘘などついていない。
しばらく行動をともにしてきたブラッドにはわかった。
幼児化したヴァルブルガと出会った直後であったら、見分けられなかっただろうが……。
(この感じからすると、ヴァルブルガが思い出せたのは、現状の見た目年齢、つまり四歳に成長するまでの記憶だけか。……若返ったままでは、見た目年齢の記憶しか戻らないのか?)
どちらにせよ、まだヴァルブルガは、ブラッドの妻ルクス殺しの責任を取れるような状況ではないわけだ。
そう気づいた瞬間、あろうことかブラッドはホッとしてしまった。
そしてそんな自分に、たまらなく嫌悪感を抱いた。
復讐が遠のいた事実を一瞬でも喜ぶなんて、心底情けない。
ブラッドが暗い顔で沈み込むと、それを見たヴァルブルガは慌てふためきはじめた。
そのせいで涙も引っ込んだらしい。
ヴァルブルガにとっては、自分の恐怖や悲しみよりも、ブラッドを心配する気持ちのほうが大きいのだろう。
「ブラッド、ヴァルが役立たずだからがっかり……? ヴァル、前は大人だったの? 大人だった頃に使えた古代魔法ってやつ思い出せばよかった?」
どう答えたらいいのか。
ブラッドが迷って黙り込むと、ヴァルブルガはますます焦りを募らせた。
「あっ。ね、ね、でもね、ブラッド! ヴァルお勉強させられた魔法、ぜんぶ日記帳に書かされてたよ! 大人のヴァルが書いた日記帳見れば、おぼえた古代魔法のこと書いてある気がする!!」
「日記帳?」
ブラッドは腕を組んで思考を巡らせた。
(大人になってからの記憶をヴァルブルガの中に戻すには、先に体を元に戻すしかなさそうだが……)
ニムーゲン博士も言っていたように、古代魔法は発動させた本人しか解除できない。
となると、ヴァルブルガにかかっている若返りの魔法を解除させるには、ヴァルブルガに再び若返りの魔法を覚えさせる必要があった。
(日記帳に覚えた魔法の記載がなされているのなら、それを手に入れれば、もう一度、今のヴァルブルガに若返りの魔法を習得させられるはずだ)
行き詰りかけていた道に、別のルートが開けた気がした。
ブラッドが興味を示したのがうれしかったのか、ヴァルブルガが畳みかけるように続ける。
「ヴァル、日記帳いつも傍においてた! 大人のヴァルの傍にもきっとあったよ! 大人のヴァルがいた場所いこ! そしたらブラッドうれしいでしょ!」
「大人のおまえがいたのは、世界平和推進結社の本部だぞ」
「うっ……あいつら嫌いだけど……でも、いいよ。ブラッドが行きたいなら、ヴァルだいじょうぶだよ! いこ、いこ!」
ブラッドの腕を両手で掴んで、強請るように見上げてくる。
(……泣いて拒絶するほど、世界平和推進結社を嫌がっていたくせに)
ブラッドのためなら耐えると言い張るヴァルブルガを見て、ブラッドの心はまた揺らぎそうになった。
復讐から目を逸らそうとする自分の弱さを許せないブラッドは、感情に蓋をして、冷たい顔で頷いた。
「わかった。世界平和推進結社の本部へ戻るぞ」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「続きが気になる」「早く更新しろ」などと思ってくださいましたら、
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複数話更新のモチベーションアップに繋がるので、どうぞよろしくお願いします……!




