1-12何かが起こるかもしれない
「あら、シエル。貴方も冒険者になるの?」
「あっ、ジュジュ。リリー、キリエ、アマーリエもおはよう」
俺がこっそりフィーレのダンジョンの地図を眺めていると、ジュジュたちと偶々あったのであいさつした。すぐに同じようにおはようとか、おはようございますなんてあいさつがバラバラに聞こえて、そうしてから俺はジュジュにまた冒険者になるのかと聞かれた。でも俺は母さんの命を狙うような冒険者、そんなものになる気はさらさらなかった。
「冒険者にはならないよ、俺は商人だからね」
「フィーレのダンジョンの地図を熱心に見てる商人さんね」
「俺は狩人でもあるから、獲物を売って稼いでるんだ」
「それじゃ、次はフィーレのダンジョンに行くのね」
「いや、もう行ってきた」
「えっ?」
俺がフィーレのダンジョンの一階にあるデストラップ引っかかった、そんな話をなるべく明るめに面白そうに言うと、逆に真っ青な顔色になったジュジュたちから一斉にとても心配されてしまった。
「あのデストラップで死ななかったのは、貴方が魔力と魔法が使えて運が良かったからよ」
「本当に魔法を使えて良かったですね、『浮遊』の魔法は便利なのです」
「足元とかに気をつけて、周囲の岩肌や凹凸に小さな歪みがないのかよく見るんだ」
「貴方の強運、神に我々の恩人への加護があったことを感謝します」
そういえばジュジュのパーティは狼に追われて逃げてのだ、冒険者パーティとしてはどのくらいの強さなのだろうか、フィーレのダンジョンの攻略も進んでいるのかと思った。しばらくお小言や忠告を色々と聞かされた後で、ジュジュに自分のパーティの強さを聞いてみた、そうしたら思ってもいなかった答えが返ってきた。
「私たちのパーティはまだできたばかりなの、フィーレのダンジョンも四階層までしか行ってないわ」
「一階層のスライムばかり狩ってたりな、一時期は夢の中までスライムが出た」
「二階層のデビルバットは嫌いだな、儲からねぇし飛んでるから厄介だ」
「三階層のデビルラット、はっきりいって不衛生ですわ」
「私たちがよく狩りをするのは四階層目のデビルラビットね、肉が売れるし魔石もお小遣いになるわ」
「そうそう魔法で一撃だよ」
「一直線にくる突撃さえ避ければいいのさ」
「神からいただく肉と魔石それに毛皮、それらを大事に使わせてもらってます」
俺はジュジュたちの言葉にフィーレのダンジョンに行くことを改めて考えた、第七階層のフェイクドラゴンだけが敵だったならいい狩場だ。でもそこに行くまでの階層がいろいろ面倒そうだった、なんでも五階層ではデビルフォックス、更に六階層にはデビルウルフが出るということだった。毎回一階層のデストラップを踏むわけにもいかない、それでは正直に攻略にきた冒険者の迷惑になるのだ。
「ジュジュ、世の中ってそう簡単にいかないな」
「まぁね、そうそう美味い儲け話はないわ」
「それじゃ、俺は商人ギルドで仕事を探してみるぜ」
「気をつけてね、よく知らないダンジョンに入っちゃ駄目よ」
「は~い、ジュジュたちも気をつけてな」
「ええ、シエルも気をつけてね」
人間も知り合ってみると良い人間がいる、あかり姉さんさんがもちろんその代表だ。ジュジュたちも悪い人間ではなさそうだったが、ドラゴンと聞けばやっぱり人が変わってしまうのかと寂しく思った。そんな複雑な気持ちに少しなったが、フィーレのダンジョンに行かないと決めた以上、俺は商人ギルドの方で仕事を探してみることにした。なかなか良い依頼がなくて、今日は鍛練に費やすことにした。
フィーレの街の広場を何周も走ってみたり、剣の素振りや型の練習をした。あかり姉さんがいないのが寂しい、以前ならあかり姉さんと剣の模擬戦をしたりしたものだ。俺は冒険者ではなく商人なので、冒険者ギルドの鍛練場が使えないのも面倒な話だった。要は冒険者になればいいのだが、それだけは母さんを裏切るようでなんだかできなかった。そんな一日を過ごした翌日のことだった。
「東の山でドラゴンが見つかったそうだ」
「またフェイクドラゴンじゃないのか」
「いや、本物のドラゴンらしいぞ」
「領主さまは討伐隊を組むそうだぜ」
「ドラゴンの素材が手に入れば凄いぞ」
「俺はこれで一山あてる!!」
「さっさと冒険者を雇わなきゃな」
俺は商業ギルドにいると東の山にドラゴンが出た、そう大騒ぎになって商人たちが目をギラギラさせていた。ドラゴンってそんなに環境破壊もしないのにな、とまた俺は寂しい気持ちになった。だが気を取り直して東の山に現れた、そのドラゴンがどんな奴だか気になりだした。確かに以前は上手くできなかった大きな世界と接続をすると、東の山に大きな反応があることが分かった。
それと同時に母さんが住んでいる魔の森の方、そちらからも懐かしい母さんの気配が感じ取れたのでホッとした。しかしドラゴンがいるのなら一度は挨拶に行ってみたい、どんな奴だかは知らないが友達になれるような奴だと良いなと思った。商業ギルドだけではなく、フィーレの街全体がドラゴンの噂で騒がしくなっていた。
「別にドラゴンが街に攻めてくることは滅多にないのに……」
滅多にと俺が言ったのには例外が幾つかあるからだ。母さんによる歴史の勉強で眠りながら聞いた話によると、とあるドラゴンはある人間の無礼を許せずにその親族がいる街、ドラゴンを侮辱した本人だけでなく一族まで街を襲って滅ぼしたという話だ。人間がドラゴンの命を軽く見ているように、ドラゴンも人間の命を軽く見ているところがあるのだ、俺は実はお互い様なのかと思ってしまった。
「夜にこっそりと行けばいいかな、そうしたら討伐隊とは思われないだろうし」
俺はわりと本気で東の山に現れたという、そのドラゴンに会いに行くつもりだった。だから東の山の地図を買ったりして、ちゃんと用意をしていたのにだ。ある時、東の山からどんどんドラゴンの気配がこっちに近づいてくるから焦った、馬鹿な人間がなにかやらかしたんじゃないかと心配して東の方向を警戒していた。でも街へは何も知らせはこなかった、相変わらずドラゴン討伐の依頼は出ていたがそれだけだった。
俺はもしかしてと思って東門の前の広場で街に入ってくる人々を観察した、下の身分ならよくわからない旅人から上の身分は貴族までいろんな人間が入ってきていた。そうやって人間の体での鍛練をしながら警戒していたある日、とうとう俺は目的の人物をみつけた。裕福な商人のような恰好をした綺麗な黒髪に紫色の瞳をした男が一人、フィーレの街へと入って来たのだ。俺は落ち着けと自分に言い聞かせながら、ゆっくりとそいつに向かって歩いていって話しかけた。
「同胞である貴方に、大いなる力の加護があらんことを」
お読みいただき、ありがとうございました!!
最近の作者の制作意欲は、読者である皆さまにかかっています!!
ブクマ、評価、いいねをよろしくお願いいたします!!
★★★★★にしてくださると作者は泣いて喜びます!!
どうか、どうか、よろしくお願いいたします!!