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未知の力

ヘクトゥヘの付き人を名乗るリリエンの案内の元、数千人にも上る人間たちには、この里の一角を与えられた。


「ここら一帯は全て空き家になっていて、使っていないのです。裂け目による被害で、数多の同胞が亡くなり、里の者は元の半数以下程度しか生き残っていまん……。」


にも関わらず、難度の高い裂け目は攻略できず、開いたままのため、寄ってくる魔獣を狩るため、男の青果の妖精人(リベアジタン)は老人や病人、怪我人を除いて出張ることとなっている、と。


見渡す限り可憐な姿をした青果の妖精人(リベアジタン)が多く、女性のみの種族なのかもしれないと思っていたが違っていたようだ。


犠牲を出して次元の裂け目を閉じることに成功しても、次から次へと開く裂け目は絶望的状況と言わざる得ない。


そこで、神的存在(ネモウス)が用意した戦力(おれたち)というわけか。熱狂的に歓迎されているわけだ。


どうやら転移者たちの中には見たことのある顔もチラホラあり、光に包まれた一帯の若者が転移してきているようだった。おっさんやおばさんといった大人の先生が見当たらないってことは何かしらの条件があったのだろう。


仲の良い友達同士で住むことにした人達が多ようだが、1人活動に徹してきた俺は一緒に住む相手などおらず、一人暮らしに最適なサイズの家をこれから先の拠点として決めた。


この世界について全く分からない現状では、複数人でチームとなり、情報収集し共有していくことが大切になってくる。


幸い、俺が拠点として定めた家の周辺は一人用の家が集まっており、俺と同じく1人で住むことにした人間たちと仲良くしていく必要があるだろう。


家は風通しが凄く良く、茅葺き屋根に床は畳でもフローリングでもない……剥き出しの土だ。中には前住民が使っていた家具がそのまま残っていた。


玄関となる扉に鍵などはついておらず、泥棒が簡単に入りそうだ。鍵が予めないということは、青果の妖精人(リベアジタン)の中で必要性を感じられてないからだろうが、醜い人間たちがやってきたからには必要だろう。


貴重品は持ち歩く必要がありそうだが、服装が変わっていたということは、財布やスマートフォンなどもない。


前の世界の物は何一つ持ち込めないのだろう。


家の中の物をチェックし終えたとき、外から喧騒が聞こえてきた。


「おい、佐藤〜こんな端っこの家にしたのかよ?俺たちのところに来いよ、友達だろ?」


外を見ると5人組のガラの悪そうな奴らが、ご近所さんの1人に絡んでいるようだった。


「僕はどんくさくてみんなに迷惑かけちゃうから……。」


「は?なに逃げようとしてんだよ、俺たちのところで働けよ。」


「こんなやつと苗字一緒とかマジさいあく……。」


絡まれている佐藤と呼ばれた奴はおどおどとしていて言われるがままにガラの悪い連中に連行されていく。


全く、人を虐める奴らは怖いもの知らずだな……。"報復が怖くないのか?"


あいつら心配だな……佐藤に寝込み襲われて殺されるんじゃないか?


心の内で佐藤に「思い知らせてやれ!」とエールを送っていると、遠くからいい匂いが風に乗ってやってきた。


家が決まった後の予定は歓迎会だ。


歓迎会はやってきた時と同じ、大広間で行われた。


数々の料理は質素なものばかりで、味の濃ゆいジャンクフードに食べ慣れた若者としては薄く感じたが、素材の味が生きていて中々に美味だ。


食事中、様々な種類の青果の妖精人(リベアジタン)たちが変わった踊りや歌を披露してくれたのだが、一番気になったのは歌や踊りではなく、何も無いところから水が吹き出したり、キラキラと輝く光の玉でお手玉をしていたりと不思議な現象を引き起こしていたことだった。


魔法だったりするのだろうか?


「魔法よ?人は使えないの?」


近くにいた青果の妖精人(リベアジタン)に質問すると快く教えてくれた。


直ぐに誰でもでも使うことができると言う最弱の5級魔法のうちの1つ 浮灯火(ライト)って魔法のようだ。


呪文を詠唱することで、触れることの出来ない光り輝く玉を空中に作り出す魔法で、発動者の動きに合わせて光の玉も動く。


普段は右肩の近くに漂っているのだが、腕を前に突き出すと光の玉も前に出る。


歩く程度のスピードであれば、付いてこれるが、流石に走るとどんどん発動者との距離が開き、消滅してしまうようであった。こんな便利な物があれば、家に蝋燭などの照明器具が見当たらなかったのは納得だ。


他の魔法の呪文も集めたいな。


ともあれ、歓迎会は青果の妖精人(リベアジタン)たちの為にも、この世界で頑張ろうと思えるいいものだったと思う。



朝だ。まともに寝たのはいつぶりだろうか。


この世界にゲームを持って来ることが出来ていたら、きっと運動などせず、夜更かししながらキャラのレベリングに没頭しただろう。とはいっても、張り合う相手のいないゲームなんて退屈だろう。誰かを見下ろすことができてこそ、やり甲斐を感じるってものだ。


部屋に入ってくる光を見るに、早朝といったところか。この世界に電化製品はないようで、照明なんてものは部屋になかった。


まぁ、あんな便利なものがあれば必要ないのだろう。


外に出て、昨日俺たちが召喚された広場に向かうと朝の炊き出しが行われているようだ。


余裕のない青果の妖精人(リベアジタン)たちに数千人にも上る人間を食べさせ続けることは無理だろう。


「人は魔物を倒すことにより無限に強くなることができると聞いています。我々と食すものや必要なものも違いますし、なにより人手が足りないため、食事の準備しか出来ていません。早速今日から働いてもらうので、自分が向いていると思う仕事を各自で習ってください。」


魔物と戦うことを仕事とする戦士や魔法使い。異世界人が食べることのできる木の実や植物の栽培といった非戦闘職。


俺が選ぶのはもちろん、前者の方だ。


何せ、この世界の住人に比べて人間の戦闘力は圧倒的と聞く。まぁ、圧倒的でなくとも、俺は戦うことを選ぶだろう。


俺には出来る!そう思っていることは見様見真似で昔からなんでも出来た。逆に、地味で小難しいことは苦手と無意識に思っているがために、ダメなものは決定的にダメだった……。


例えるなら、「スポーツはそこそこ出来るが、勉強はダメ」ってところだろうか。


実際、人間は思い込みで身体能力までもが変わる生き物だ。無意識的に出来ないだろうと思ってしまう事はダメだろうが、俺に出来ることは「絶対できる!」と言い聞かせながらやろうと思う。


食事中、 浮灯火(ライト)を使う。食事が終わる頃には体内の魔素が減っていく感覚が分かるようになった。持続する魔法は発動中、体内にジリジリとしたものがある……酸欠の症状に似ている。


食事が終わり、この里を守る要である戦闘団の本拠地へ移動だ。


戦闘団の本拠地の近くには色も形も様々な実をつける摩訶不思議な巨大樹がそびえ立っていた。


遠目から見ても存在感のある聖樹が近くにあれば場所が分からなくなることは無さそうだ。


「俺の名は、トゥ・ガラシィの子、シャディールだ!今日からお前たちの面倒を見る教官である!」


シャディールの肌は真っ赤っかで筋肉を見せつけるかの如く、上半身は裸だ。そして緑色の上着を腰に巻いている。


「初めに言っとくが、俺は誰よりも激辛だっ!(つら)いといっても逃がさないからな!」


腕を組んでこちらを燃えるような眼で睨んでくる姿はまるで魔人のようだ。


「まず、魔素の総量を確認する!」


シャディールの部下が大きな種子を配って回る。


シャディールの部下には、シャディール同様の格好をしたトゥ・ガラシィの一族の者が多いようだが、鱗という鎧を纏い、背中から大きな翼を生やした者もいるようだ。


青果の妖精人(リベアジタン)同士でも姿形にかなり差があるようで、「ゴリラと人間」の違いよりよっぽど差が開いているように見える。


配られた種子は梅干しの種みたく、シワシワとした模様があり硬く似ているが、サイズは大人の拳よりも大きい。


「その種子にありったけの魔素を込めるがいい!」


「き、教官……質問です。どのようにして込めればいいですか?」


「気合いに決まってるだろう!?」


真面目そうな女子が勇気を振り絞って質問するが、無慈悲にも意味をなさなかったようだ。この教官は感覚派なのだろう。


「こうやるんだ」とシャディールは種に向かって魔素を込め始めた。


その時、トゥ・ガラシィの一人がくしゃみをして赤い粉末状のものが舞う。


一味唐辛子?近くでくしゃみされたら目が痛そうだ……。


くしゃみに気を取られた一瞬の間にシャディールの目の前には2mは優に超えるほど大きな植物が育っていた。


どうやら、見損ねてしまったようだ。


各々、大きな種に向かって魔素を込めようとする。


体育の体力テストで握力を測った時のように片手で握りしめる人や、両手を種にかざして声を張り上げる人、種を射殺さんと睨む人と様々だ。


うんうんと頷いているシャディールを見るに、どれも間違った方法ではないのだろう。


俺は手をかざす方法で試みる。


浮灯火(ライト)を使ったときに感じだ魔素の流れを思い出せ……。


ジリジリとした感覚が体の中心から腕へと伝っていくが、魔素が体の外に出ようとしない。


この状態で触れてみるか。


種を持ち上げてみると、手から魔素が流れていくのが分かった。


少しすると、大きな種から芽がぽこりと出てきて、魔素を流すことによってその芽はぐんぐんと成長していく。


直ぐに手では持てない程の大きさになり、地面へ落としてしまった。直接流し込んだことにより、魔素を流し込むコツを掴めたのか、離れていても成長させることができた。


少し離れた位置にある木に寄りかかると少しだけ楽になった。


他の人も何人かは俺と同じ大きさまで成長させているようだ。喜んでいる姿がチラホラ見受けられる。


半分くらいまでしか育てられてないのに地面に座り込んでいる人もいることから、人によって魔素総量は差が結構ありそうだ。


「まだ余裕がある者は前に種子を取りに来い」


余裕と言えるほどではないが、座り込んでしまうほどでもない。


種子を貰い、育成を試みる。


二度目ですんなり芽を出すことができたが、30cm程で限界がきた。


眩暈を感じ、地面にへたりこんでしまった。


2個目に挑戦した人は少人数だったが、その中でも一際凄いやつが1人いた。2個目を最大サイズに近いところまで成長させてみせたのだ。


正直言って羨ましい。


最初の時点でこうも差があるとは……。


「そう落ち込むことはないぞみんな!こいつが桁外れなだけだ!鍛えれば総量は増やすことも出来るからな!」


「戦力として期待出来そうだ。」と呟くシャディールも1つ成長させているはずだが、初めより気分が良さそうだ。


「この種子はトレントという植物の魔物のものだ。トレントの殆どは木本だが、流石に木形態になるトレントは成長させるのに莫大な魔素を使うからな。魔素を測る時は成長の早い草本のトレントを使っているのだ。」


魔素を測った際に体内の魔素が殆ど抜けて立ち上がることすら厳しいため、休憩だ。


中には、気を失ってトゥ・ガラシィ達に運ばれている人もいた。魔素に扱い慣れていない初めは良くあることらしい。「カッカッカッ!何れ脱力感にも慣れる!」との事だ。


本当だろうか……。


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