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始まり

曲がりに曲がり、捻れに捻れ、いっそのこと初めから歪な状態が自然だったかのようなひねくれ者が鬼巾(キハバ) 立空(リク)だ。


まぁ、俺のことを言っているのだが。


人付き合いは苦手。


と言っても、決してコミュ障ってわけではない。


束になって特定の人間を悪く言ったり、困らせるためにその人の物を隠したり、グループ活動のときなどでハブったり、嫌がらせの対象にならないように媚びを売り続けたり……。


暴力をふるったり金銭を巻き上げたりするイジメは今の時代少ないかもしれないが、陰湿な嫌がらせをするような人間たちを好きになれなかった。


学校生活において、嫌がらせの対象にならないよう、存在感をできる限り消すのはもちろんのことだが、俺はもう1つ違う手を考えた。


"不気味なやつ"になりきること。そんな不気味で気持ち悪いやつこそ、イジメの対象になりそうなものだが、ここでいう不気味なやつとは、「何を考えているのか分からない」「人殺してそう」などといった近寄り難い雰囲気を纏うことだった。


無害なハエが有害なハチに擬態するようなことをしたわけだ。当然、友達と呼べるものは出来ない。


だが、それでいい。面倒な人間関係の悩みなど時間がもったいなくてたまらない。


絶望に苛まれるのは懲り懲りだ。


ふとした瞬間にあの日のことを思い出す……。


酸っぱいものが喉の奥からせりあがるのを感じて急いで飲み込む。


不快な気分だ。


嫌なことを思い出さなくて済むようにスマートフォンを手に取る。


開くのはゲームだ。


1人で黙々とやるパズルゲームやシングルRPGではない。


数多のプレイヤーが跳梁跋扈する自由なゲーム、MMORPGだ。


ゲームをしている時だけは嫌なことを思い出さずにいられた。


どっぷりハマったこのゲームでは、自信をもって上位プレイヤーと言えよう。


それもそのはず、掛けている情熱が違う。ランキングで1位に


夏休みにサービス開始したときなんかは、飲まず食わずで三徹夜などが当たり前だった。


授業中も常に戦術について考えている。


どんな場所でも隙あらばゲームに時間を費やす。

流石に重課金の上級ニートには叶わないが、ゲームも商売だ。金を払った客の方が強いのは仕方あるまい。


ゲームをしている間は絶望を忘れていられた。


当然、そんなゲームばかりしている俺の未来は暗い……真っ暗だ。


だがそんなことはどうでもよかった。


19歳で死のう。そう決めてからはとてもポジティブになれたと思う。


傍から見ればとても前向きには見えないだろうが……。


長い人生においては、足を引っ張るであろう大きな失敗をしてしまっても俺には関係ないのだから。


今の俺には失いたくないものはない。強いて言えばゲームだが、オンラインゲームなんていずれサービス終了して消えてなくなる。最初から消えることがわかっているのだから、それが早いか遅いかの違いだろう。


失うものはない。失敗も怖くない。これは、もう無敵といってもいいんじゃないのだろうか。


そうか、俺は無敵か……といっても、何か犯罪を犯す訳では……。


金が欲しい。


無課金で手に入るありとあらゆる物は全て揃えた。


残るは課金装備……中には1万ぐらいあればいいものから、2、30万は余裕でかかるものまである。


性能は言うまでもなく最強だろう。


ランキング上位1パーセント以内はそういう奴らがひしめいている。


数百万あれば16位の俺は上位3位以内に入ることが出来るだろう。


銀行強盗か?


そんなことすれば課金する前に大事になって強くなる暇もなかろう。


大金を手に入れれたとて、1週間の自由ぐらいは欲しいものだ。


この世界では“バレなければ罪ではない”


だが、バレてすぐ捕まるに決まっている。


捜査に使う道具や、捜査官自身の進化は著しいものがある。


そんな中で完璧に事を運べるほど俺の脳は完璧ではないからな。


校内にチャイムが鳴り響く。


色々考えているうちに貴重な昼休憩は終わってしまったようだ。


今日のクラスメイト達は普段に比べてテンションが低い。窓の外はいまにも雨が降りそうな曇天模様だ。


しかし、俺の暗い心と同化してるかのようで気分は悪くない……少し良いぐらいだ。


昼にも関わらず外は薄暗く、教室は照明のお陰で暖かい光りで満たされている。


教科書やノートなどを準備すると、少しして先生がやってきた。


将来を生きようとするクラスメイト達は真面目に授業を聞いている。


元々この学校は誰でも入れるような底辺校ではあるのだが、卒業ぐらいはしたいのだろう。


さて、俺も頑張るか。


悲しいことに授業中に作業(プレイ)することは7度に渡る先生らとの攻防により諦めていた。


装備のステータスは全て覚えている。いまはそれでどの組み合わせでどの立ち回りが一番強いかを考えるとしよう。


授業中に全く関係ないことで頭を悩ませていると教室の照明よりも一際強い光が指す。


遅れて落雷の音が鳴り響くだろうと、頭の片隅で考え、少し身構えるも、雷の轟音はせず、光は弱まるどころか、どんどん強くなり、俺は凄いスピードで迫り来る光に呑まれていった。



身体がフッと浮いたような感覚がした。目を開けば見慣れなれていないようで見慣れている服装をした若者たちが5000人くらいだろうか……いや、もっといるか?皆一様に己の身に何が起きたのか分からないとざわめいている若者たちが立ちすくんでいた。


もちろん、俺も例外ではなかった。

授業中、考え事に耽っていたら変な雷光?に包まれ浮遊感がしたと思えば、いつの間にか服装は変わっているし、場所は教室ではなくなっている。


これで混乱しないほうがおかしいだろう。


困惑している者が大半な中、少し高い舞台の上から俺たちを見下ろすものたちがいる。


この場で何が起きたか知っているであろう落ち着き払った態度を見れば、俺たちにとって予想外の出来事でも、目の前にいる存在からすれば予想の範疇の事態であることは予測がつく。頭に翠色(みどりいろ)の大きなヘタのような葉っぱを乗せた朱色の髪をした人や、紫色の髪を持つ人、一際目立っている山吹色(やまぶきいろ)のまるで童話に出てくるラプ〇ツェルのように、超ウルトラロングな人、雪のように透き通った肌をした人や、健康的な褐色の肌をしている人といった具合に様々な容姿をしている。


周囲を見渡せば至る所に似たような姿をしているものたちがいた。


ツリーハウスの窓から、樹齢何百年もしそうな大きな木に植物の蔓で掛けられた橋から、こっちを指さして何事か話していた。


表情は明るく興奮して話しているのを見るに、歓迎されているのが分かる。


人型だが同じ人間ではない。


混乱から立ち直った人たちが自分とは異なる存在に気付き、ざわめきが一瞬なりを潜める。それを待っていのか、超ウルトラロングの人が一歩前へと出る。


「私は青果の妖精人(リベアジタン)。ジ・オレンの子、ヘクトゥヘと言います。貴方たちがやってきた経緯を含めて、この国の、この世界の話を聞いてください」


この世界の名前はヨーレン・レクトゥイア。


大自然に覆われた未開の地がどこまでも広がっていて、青果の妖精人(リベアジタン)の他に、身体能力の高い狼人間(コボルト)や、鈍足なれど、防御力や攻撃力に優れた土塊人形(ゴーレム)影に棲まう者(シャドーマン)など様々な知的生命体が存在しているようだ。


これらは主食とする物が全く違っていた。


地面に含まれた栄養を吸収する青果の妖精人(リベアジタン)


肉しか興味のない狼人間(コボルト)


土や石を食べて己の身体とする、土塊人形(ゴーレム)


光を恐れるどころか、光を喰らい周囲に影を落とす影に棲まう者(シャドーマン)


それぞれ求めている物が違っているため、種族間で敵対することはなく”困っていることがあったら協力する”ほど、良い関係を築けていた。


だが、世界に異変が訪れる。


魔の巣窟(ダンジョン)へ繋がる次元の裂け目の出現だ。


空間を引き裂くように突如として現れたそれは各種族に甚大な被害を(もたら)した。


裂け目から盛れ出る力によって自然環境は破壊され、裂け目の発する魔力に引き寄せられた魔物の大群によって。


魔の巣窟(ダンジョン)を調査しに潜入した者たちは強大な力を秘める(ヌシ)によって。


多大なる被害を出しはしたが、分かったことがある。


魔の巣窟(ダンジョン)のヌシを倒せば次元の裂け目は徐々に閉じていくのだ。


とはいっても、この地の住人たちでは攻略することが出来た魔の巣窟(ダンジョン)は低レベルのものばかりであった。


その状況を憂いた神的存在(ネモウス)のうちの1人、移動と速度の神的存在(シャデンネ)青果の妖精人(リベアジタン)たちに力を貸すことにしたのだ。


ヨーレン・レクトゥイアに満ちる炎、水、土、風、闇、光である六大元素に適応するため、生物は突然変異を起こすことに着目した移動の象徴たるシャデンネは、この世界に移動させることで強い生物へと変化する生物として、人間を選び移動させた。


それが今に繋がる、と。


これは認めてしまってもいいのだろうか……。

“異世界転移”とか、”異世界召喚”とかだろう。

某RPGゲームで初期装備として主人公が着ているような旅装をしている自分の格好を見るに、異世界召喚というものに巻き込まれた、と。


“人は等しく才能を持って生まれる。自分の得意なことが何かを気づけていないだけだ”と俺は信じている。元の世界で出来なかったことをとことん試して才能というやつを見つけてやる。



こうして、俺の新たな人生が幕を開けたのだった。

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